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27:第六章 出迎え-1-

 トラガから四日。予定よりも一日早いが、国境沿いの砦が見えてきた。

 住民たちは、思わず歓声をあげる。

 その砦の出入り口付近には騎士の一団がいる。国境警備にでも赴くのだろうか。

 ジャックはそれ程意識をせずに隣のファーラを見やると、彼女は両の手で口元を押さえて、顔面を蒼白にしていた。

 ティアラも同じように、驚きの表情を浮かべ顔を青くしている。

「二人とも、どうした?」

「‥‥‥お兄さま」

 ティアラの呟きに、ジャックは砦の前で陣を張るように待ち構えている一団を再び見る。先程は砦が目に入ったためあまり気にしてもいなかったが、その一団は白馬に乗った男を先頭に、ジャックたちの一行が進むのを遮るようにしていた。

 ジャックは無言で彼女たちの前に進み出る。

「悪い、ティアラ。俺が守るのはファーラだから」

 短く断りの言葉を言う。

「大丈夫。お姉さまを守るためなら、わたしのことは放っておいて。王族としてやらなくてはいけないことがあるのもわかってるから」

 ティアラは硬い声で返し、ファーラの肩を落ち着かせるように抱く。

 ジャックたちが止まっている間に、白馬の王子様の一団はゆっくりとした速度で近付いてきた。

 出迎えかと歓声をあげていた住民たちも、重々しい雰囲気に黙りこくる。

 奇妙な沈黙が周囲には満ちていた。

 そんな中、白馬の男が進み出る。

「お待ちしていましたよ、元『光の女神ソレア』殿、そして元『青い魔師サイア』殿」

 見た目には爽やかな笑顔が胡散臭い。

「ギャリガン皇太子殿下ですね」

 ジャックは胡散臭い笑顔に対抗するかのように、同じような胡散臭い笑顔を浮かべて彼に近付く。

 皇太子殿下とは言ったが、彼だって『元』だ。これが嫌味だというくらいは気がつくだろう。

「‥‥‥お前は、誰だ」

 短い誰何すいかの声に、彼が自分と喋りたくもないというのは伝わってくる。

「わたくしは、地上にあるシャルダ帝国ブレースタ領の領主の嫡男、ジャクソン・ドゥリー・ブレースタと申します。ファーラ姫に見出されて『地の大臣ヌーサ』として仲間と共に参りました。よろしくお願い致します」

 敢えて地位だけを誇張して言う。

 すると、目の前の男は一瞬だけ目を見張って、そして口元を歪めた。

 罵るような笑みの形で。

 比較的背の高いジャックよりも頭半分高い男は、妹と同じ灰色の髪をしていた。ただ、妹のような青味がかった銀の混じるような灰色ではなく、白に近い灰色だ。

 白馬に合わせたのか、白を基調とした衣服。飾り帯などには金糸が使われている。

 白なんて、汚れやすい。

 思わず所帯染みたことを考えてしまう。

「ファーラ、ティアラ、お前たち二人はすぐにマーシア王城に赴くことになっている。準備をしろ」

 ジャックを無視して、ギャリガンは話を進めようとする。

 すっと、尊大な態度で命令を下す男の正面に回る。

「申し訳ありませんが、ファーラ姫はわたくしたちの主です。勝手に連れて行かれては困ります」

 まるで駄々っ子を嗜めるような口調でそう言えば、ギャリガンは鋭い眼光で睨みつけてきた。だが、工場で厳ついおっちゃん連中で慣れているジャックにはそんな視線などなまくらに映る。

「お前には関係がないだろう。これは王族の問題だ」

「それこそ、関係がないことです。すでにトラガは滅亡した。王族は存在しない」

 きっぱりと断言して微笑めば、目の前の男は片眉を上げる。

「不遜な」

「貴方の代わりに、トラガ国が大河に流される姿をつぶさに見てきましたよ。神々は最後までファーラ姫を気に病んでくれ、彼女に奇跡を起こしてくれました」

 奇跡だなんて、まったく信じていないが、あの高さから落ちたファーラが生きていたのは充分に奇跡の領域だ。

「トラガ国が‥‥‥」

「‥‥‥大河に」

 ぼそぼそと、男の後ろの一団から声が漏れる。

「国が滅亡した以上、巫女姫としてのファーラの役目も終わりました。彼女の身は、今はわたくしとブレースタ領が預かっております。勝手を申されては困ります」

 ギャリガンは意図的にジャックを無視して、ファーラとティアラに話しかける。

「お前たちは、今度はマーシアの巫女姫になるのだ」

 なるのだ。と言うがそんな簡単になれるものではないだろう。

「連れて行くぞ」

 短い命令に、後ろの一団が動こうとしたが、いつの間に移動したのか、ジャックと共に地底国に来た男たちがその動きを抑える。

「ただ、来いと仰られても事情がわかりませんわ。お兄さま、説明をして頂けないかしら? 別にお兄さまじゃなくてもいいのよ。あなた方が動くということは、お父さまからの命が下ったということでしょう? シェニア伯爵」

 ティアラが進み出て、ギャリガンの左隣に立つ老齢の男性に話しかける。

 シェニア伯爵と呼ばれた男は、ティアラの真っ直ぐな瞳を見つめ返して、そして首を小さく左右に振った。

「我が国の住民の中に『水の夫神ウォレス』『水の妻神ウィリア』の代行者がいれば、マーシア国王はトラガ国住民をすべて国民待遇で受け入れると‥‥‥」

 それは必死になる。

 ジャックは思わず頷きそうになるが、いや待てよ、とギャリガンを見やった。

「先に入国した者の中にはいなかったのですか?」

「ギャリガンさまが、『水の夫神ウォレス』代行者として適性を認められたのですが、『水の妻神ウィリア』代行者が見つからず‥‥‥」

「お兄さまが‥‥‥?」

 シェニア伯爵は地を見つめて、「ギャリガンさまだけではなく、陛下にも適性があるとのことです」と呟く。

「お父さまにも?」

 ――― 誰でもいいのか?

 そう思ったが、さすがに口には出せない。

「ですが、前の代行者は二柱の代行者だとお聞きしています。それなのになぜ、お兄さまとお父さまに適性が‥‥‥?」

 ティアラの質問は兄ではなく、シェニア伯爵に向けられたものだった。

「さあ‥‥‥その辺りの事情は我々には‥‥‥」

 どうにかして、『水の妻神ウィリア』代行者をトラガ国民から出したい。それならば、元『光の女神ソレア』代行者と元『青い魔師サイア』代行者なら他の者よりも適性があるはずだということか‥‥‥

 背後にいたファーラがジャックの袖を掴んでくっついてくる。

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