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26:第五章 再びの出発、見知らぬ土地-4-

 あまりにもじっと見つめるジャックに戸惑って、ファーラは膝の上の少女に瞳を移す。

「マーシアは『水の国』と呼ばれています。『水の夫神ウォレス』『水の妻神ウィリア』は夫婦神として、代々一人の代行者が身に宿していたそうです。ですが、時には二人の代行者が現れることもあったそうです」

「一柱一人じゃないのか?」

 ジャックは撫でていた手を引っ込めて尋ねる。

 なんだか手が淋しい。

「はい。『水の夫神ウォレス』『水の妻神ウィリア』は大変仲の良い夫婦神とも、表裏一体の水神とも言われているのです。ですので、一人の代行者で済む時代もあれば、『水の妻神ウィリア』が共住まいを許さない時代もあるそうです」

「‥‥‥それ、夫婦喧嘩してるんじゃないか?」

 ジャックの呆れ声にファーラは苦笑を零す。

「そうかもしれませんわね」

 すべてのものから解放されたためか、ファーラの雰囲気はやわらかい。

 微笑にも今までのような別の感情が混じることが減り、付随するとしても驚きとか戸惑いとかそういう感情が多い。それは彼女にとって、とてもいい違いだと思う。

「マーシアが『水の国』と呼ばれるのは、トラガみたいに生まれる時に水が迸ったのか?」

 尋ねれば、生真面目な彼女は視線を合わせてくる。

 その真っ直ぐな視線に微笑み返してみれば、彼女は頬を朱に染めて視線をつと逸らす。が、またすぐに合わせてきた。

「マーシアは本当に水の国なのです。地表に現れているわけではありませんが、地下水脈が豊富で、地下水道の整備も整っています。首都の中央を流れる大河マシェリアは水質も綺麗で穏やかで、水に困るという言葉のない国です」

「確かに、それは『水の国』っていうのが相応しいな」

「沐浴の文化が発展していて、水蒸気風呂が主流だそうです」

「へー」

 水蒸気風呂という言葉にジャックは関心を持つ。

 ブレースタ領では水拭はしても、頻繁に湯で汚れを流したりはしなかった。

「公共で入れるところもあるそうですから、いつかご案内しますね」

 小首を傾げてファーラが笑う。

「ああ。楽しみにしてる」

 先程から感じる気配に振り返って見せれば、両の手にカップを持ったティアラが立っていた。

「お姉さま。飲み物をいただいてきましたわ。あと‥‥‥」

 彼女の後ろには若い夫婦がいた。ファーラの膝から娘を受け取ると恐縮したように礼を言って去っていこうとする。

 その様子にファーラは「こちらこそ、遊んでもらえて楽しかったですわ。また遊んでくれるように頼んでもらえるかしら?」と微笑んでいた。その言葉にも若夫婦はさらに恐縮していた。

 ――― ファーラの立場は微妙だ。

 王族でもなければ、すでに巫女姫でもない。

 だが、他の住民たちの間に入ることもできない。

 しかし、そのことは気にしなくてもいいだろう。ファーラはジャックと一緒に来るのだから。確とした返答をもらったわけではないが、彼女の中に他の選択肢は今のところ存在しない。

 頼ることができるのはジャックだけだと思う。

(きっと、そう思いたいだけだよな、俺‥‥‥)

 ジャックは自分の甘い蜂蜜色の髪の毛を掻き上げた。

「はい、お姉さま。ユフ酒を温めてもらったの」

「ありがとう」

 受け取るファーラの隣にティアラは座る。

 湯気の立つ飲み物を二人は仲良く飲む。

 夜になると冷える。ジャックは二人に挨拶をしてその場を立つ。

 そろそろ宿直とのいを交代する時間だ。

 ジャックは、去り際にファーラの頭をやさしく撫でた。


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