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24:第五章 再びの出発、見知らぬ土地-2-

 住民たちと揃って進む必要はないのだが、ファーラとティアラのたっての希望で全員で進むことになった。

 住民たちの五十二名は老人から子供までそれぞれだ。

 なぜ、こういう形で残っているか聞いたら、脱出順はくじで決まったのだという。

 『光の女神ソレア』『青い魔師サイア』のそれぞれの代行者がいる最終便のが返って安心だろうと、不安を押し隠して皆が残っていたのだという。

 歩き始めて二日目。

 砂礫の大地を抜け、徐々に草や木が見え始める。

 植物の気配が、なんだか心地良い。

 ジャックは子供には歩きながら枯れ枝や枯葉を拾うように言う。

 表を作って一番多く集めたものに丸を書いていくぞ! と遊戯のようにしてしまう。しっかりその表の中にはジャックとチャドの名前もあった。

 そのことを見たチャドは「負けないからな!!」と子供に混じって一緒に歩きながら集めている。明るい彼の性格は子供達に好かれるらしく、あっという間に仲間に混じっていた。

 中心に老人、女性、幼い子供などを配し、基本的には速度は中心に合わせている。

 男性にとっては遅過ぎる速度ではあるが、最初から無理をして歩を進めても続きはしないので、男性陣にはいくつかに組を分けて狩りもしてもらうことにする。

 鳥、獣、きのこ、野草。狩りといってもいろいろあるから、それぞれの組に工夫を凝らしてもらうことにした。あまり奥まで行かれてはぐれても困るので、組長と見張りに笛を持たせ、見張りからの目が届くなったら笛を鳴らすことにする。

 マーシアの端の砦までは徒歩で三日ほど。余裕を見て五日を取っている。

 日が暮れる前に陣を描いて炎を焚き、交代で見張りながら眠る。

 そんな行程の中、徐々に仲良くなる者たちもいれば、親睦をさらに深めている者たちもいる。ファーラは膝の上に小さな女の子がもたれているのを撫でながら、隣のティアラとお喋りをしていた。なんとはなしにその姿をジャックは見つめる。

「お姉さまが、ジャックの指示に従いましょうって言ったのは、もしご自分が死んでも私がそうするようにってことだったの?」

 ティアラが頬を膨らませながら聞いている。

 その言葉にファーラは泣きそうな笑みを浮かべる。

「ごめんなさい。あなたとジャックなら上手くいくんじゃないかと思っていたの」

 ティアラが言いたいのは、そういうことじゃないだろうと思いながら、ジャックは塩漬け肉が入った椀をすする。

 食事は、人数が多いこともあって複数回に分けている。

 もしもがあった時に対処ができるように。

「‥‥‥お姉さまは、ご自分が私に好かれているってこと、もっと自覚するべきだわ!」

 きっぱりとした物言いにファーラは小さく口を開けて、義妹を見やる。

「ティアラ‥‥‥」

「お姉さまが『光の女神ソレア』だろうと、なんだろうと私には関係がないの。覚えておいてね」

「ありがとう」

 ファーラは気恥ずかしそうに微笑んで、そして義妹の頭を撫でる。

 二人の年の差は一歳しか変わらないはずなのに、ファーラのがかなり年上に見える。

 その後、ティアラは子供たちに連れられてその場から離れる。なんだか名残惜しそうに見えるのが微笑ましい。

 ジャックは食事を終えて立ち上がると、子供を膝の上に寝させたまま、髪の毛をやさしく撫でているファーラの隣に座る。

「ジャック‥‥‥」

「気持ち良さそうだな」

 彼女の膝の上でぐっすりと眠っている女の子の頬にかかった髪の毛を除けてやる。

「ええ。このまま順調に砦まで着けるといいのですが‥‥‥」

「そうだな」

 頷けば、彼女はじっと真剣な瞳で見上げてくる。

「どうした?」

 怪訝に思って問い返せば、ファーラは口元に指をあてて少し思案をした後、ゆっくりと綺麗な薄紅色の唇を開く。

「ジャックは、女主人とはどういう人のことだと思っていらっしゃるんですか?」

「女主人?」

「はい。女主人として生きて欲しいとジャックは仰いましたが、女主人とはどうあるべきかという問いに答えがいっこうに出ないのです」

 真面目だ。

 ジャックはファーラの生真面目さに微笑ましい気持ちになる。

 そんなに肩肘張らなくたっていいのに。

「今のままでいいだろう?」

 明るく言えば、目の前の少女は口をぽかーんと開けて動きを止めた。

「俺が守りたいって思っている、今のファーラのままで充分だよ」

 笑顔で言えば、動きを止めたままの彼女はそのまま固まっている。

「もう、『光の女神ソレア』代行者じゃないんだからティアラになにもかも任せて放っておくっていう選択肢もあるのに、それに気がつきもしない。そういう性格のファーラだから、それでいいんだよ」

 きっと、もう自分は関係ないと放り出すような人物なら、助けたいとも招きに応じようとも思いもしなかっただろう。

「きちんと感謝ができて、お礼が言える。そういう基本的なところが真っ直ぐだからさ、ファーラは」

 少し姿勢を後ろに倒して天を見上げる。

 天上には星が煌いているように見える。

 あれも虫の反射なんだろうけど、そうとは見えない。

「今のままでいいのですか?」

 戸惑ったような質問にジャックは微笑み返す。

「ああ」

 短い肯定の返事に、ファーラは照れたように頬に手をあてて口元を緩める。


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