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18:第三章 たとえば、だからという言葉-5-

 老女は震える手を合わせて、そして静かに顔を上げた。

「『光の女神ソレア』さまはいらっしゃるのですか?」

「外で俺の部下と一緒にいる。あんたのこと、心配してるよ」

 幾分、声を和らげて言えば、老女は小さく「会わせて頂けませんか?」と言う。

「わかった」

 短く答えて彼女に背を向けた。

 家の外で心配そうに待っているファーラを見て手を振る。

「ファーラ、アルジーさんが呼んでる」

 ファーラは走って中に入ってきた。眩い金の髪が、反射して輝く。

「アルジーさん!!」

 ベッドに駆け寄り、合わせられた老女のしわくちゃの両手を取る。

 その様子を入り口付近で見守る。

「‥‥‥わたしらは、この国を出てどうするんだい?」

「マーシアに向かい庇護を受ける予定です。ですが先に向かっている国王陛下からはなにも届いていないのが現状です」

 ファーラは正直に答える。

 そのことに苦笑を心の中で漏らす。いつでも正直でいるというのは美点ではあるけれど、不器用でもある。とりあえず嘘でもいいから、老女が安心するようなことを言えばいいのにと思ってしまう。

(だが、それではアルジーさんにはきっと通じない)

 ファーラは不器用な程に真っ直ぐだ。

 生真面目で素直で正直で。

 そんな彼女だから、ティアラもユージェスもジュリアも共にいるのだろう。

「‥‥‥塩は城に余ってますか?」

 突然の言葉にファーラが瞳を瞬かせる。

「お塩、ですか? たぶん、あると思いますが」

「塩漬け肉の作り方、わかりますか?」

「え? いいえ。ごめんなさい。わかりません」

 しゅんと答えるファーラを見て、老女は微笑を浮かべた。

「残るとか言って、困らせてしまって申し訳ありません。出発までもう少し、時間があるとお聞きしています。ギリギリまで食料の確保を致しましょう。微力ながら、わたしもお手伝いします」

「‥‥‥アルジーさん」

 ファーラが感極まったのか、老女の手をきつく握って額にその手を当てる。声が出ないらしい。

「ありがとう、ございます」

 ファーラが搾り出すかのように感謝の言葉を紡ぐ。

 ありがとうと言うのはファーラではないはずだ。

 なのに、彼女はありがとうと言う。

 老女は涙ぐむファーラをやさしい瞳で見つめた後、顔を上げてジャックを見つめる。そしてふっと笑う。

 その笑みは吹っ切れたかのように、すっきりとしていた。

 生きていれば必ずいいことがあるなんて言えないし、言いたくもない。

 嬉しいことも楽しいことも、悲しいことも腹立たしいこともたくさんある。そんなふうにいろいろな感情が波立から面白いんじゃないか‥‥‥そう、思うけど、それを誰かに押し付けることもできない。

 たとえば、自分が死んだら。

 だから、生きていよう。

 ちっぽけな理由すらなく生きている人なんて世の中にはごまんといる。

 とりあえず、罪なき命を手に掛けることがなくなりジャックはほっとした。


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