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11:第二章 神という名の幻影 精霊という名の紛らかし-3-

「俺と、俺と一緒に来た男たちはマーシアに入ったら造船工場をいろいろとあたってみるつもりだ。日雇いでもいいからとにかく食ってかないとな。その後に、ブレースタの造船技術が売れないか調べてみるつもりでいる」

 ここで言葉を切って、ファーラを見つめる。

「金の姫、俺たちと一緒に来ないか?」

「え?」

 ファーラの動きが止まる。

 ティアラは大きな瞳をさらに大きくさせて呼吸を忘れている。

「金の姫は、王族じゃないんだろう? マーシアに行ってまでトラガ王室に縛られる必要はない。俺たちと来ることを面白そうって思うなら、いつだって歓迎する」

 にっこりと笑って言えば、ようやく二人が身動ぎした。

 その後にティアラを見て言う。

「青の姫は、王族だ。今まで自分が贅沢できたのはなんでかくらいはわかってるだろう? 王族の義務を果たして、家族と相談して、それで憂いなく金の姫と一緒にいたいと思うなら‥‥‥そして、金の姫が俺たちと一緒に行くって決めたのなら、歓迎するよ」

 ジャックにとって、助けたいと思ったのも、面白そうだと思ったのもファーラを見てだ。

 ファーラが一緒に来ないと判断をしたのなら、刺々しい少女だけを迎え入れる義理はない。

 きついようだが、七人だけでも食べていくのは苦しいだろう。マーシアの現状がわからないから想像するしかないが、そうそう仕事が見つかるとも思えない。

 だから、余分な扶養者を受け入れることはできない。

「ただ、金の姫も青の姫もしっかりと認識して欲しいんだけど‥‥‥裏方としての覚悟はしてくれよ。炊事、洗濯、俺たちの体調管理。そういうのが裏方とか後方担当の仕事だからさ」

 働かないなら来るな。

 そう言外に込めて告げる。

 すると二人とも小さく頷いた。

「それから、俺はトラガが消滅するまで二人のことは姫って呼ぶよ。金の姫、ファーラ姫、青の姫、ティアラ姫‥‥‥まあ、適当に呼ぶから」

 ジャックはそう言うと立ち上がる。

「返事はマーシアの国境沿いに着くくらいまででいいから。二人でしっかりと相談してくれ」

 剣を手にして微笑する。

「とりあえず、青の姫。金の姫は倒れたばっかりだから、君からも力を注いであげてくれ。あと、夕食の時間まできちんと寝ているように見張っていて欲しいんだ。その間に俺はジュリアさんに夕食のことを話して、ユージェスさんに挨拶して、じっさまたちに明日からの手伝いのことを伝えてくる」

 漏れはないかな? 指折り数えながら今からやることを考えていると、ティアラが「ジャックさま」と呼びかけてきた。

「ん?」

 振り向くと、立ち上がった彼女は硬い顔をしてジャックを見上げている。

「お会いしてからの数々の無礼な発言‥‥‥今更とお思いかもしれませんが、どうかお許し下さい」

 拳を握り、右手と左手の両方を顔の前で並べて頭を下げるティアラを見て、ジャックは微笑する。

「わかった。俺も君たちに大雑把な口調でごめんな」

 笑って首肯すればティアラが顔を上げる。

「別に気にしてないよ。金の姫が大切で堪らないんだなって思うくらいだし‥‥‥聞くのもあれかもしれないけど、ギャリガン・最低悪辣男・皇太子は金の姫にも手を出そうとした?」

 ファーラが顔を逸らしたのがわかる。

「‥‥‥未遂です。ですが、あと一歩遅ければお姉さまは‥‥‥」

「わかった」

 言い辛いことを聞いてしまったが、吐き出しておいた方がすっきりともするだろう。

「とりあえず、最低悪辣男に会ったら俺が代わりにぶん殴ってやるよ。後、どんな決断を二人が下そうとも出来る限りで護るから」

「ジャックさま‥‥‥」

 ファーラが今にも泣きそうな顔をしている。

 そう、出会って半日も経っていない。

 だけど、その間にファーラは真摯にジャックたちに接していた。必ず守る。必ずお帰しする。それが真実だと思う。

 だから、自分たちに与えられた真摯さは真摯さで返す。鏡のようにというのがブレースタ領の男の生き方だ。

 扉を開けて出て行く前に、ジャックは寝台を振り返った。

「そうだ。金の姫。『悪い人じゃない』って言うのは、裏返せば『良い人じゃない』ってことだからさ。そういう枕詞が付くなら、そいつは悪い人ってことだよ」

 満面の笑顔で言ってやる。

 たまには負の感情を抱えるのだって悪いことじゃない。それを吐き出すことなんて、ちっとも悪いことじゃない。代行者といっても聖人ではないのだから。

「じゃ! しっかり良い子で寝てろよ」

 ジャックはそう告げて、扉を静かに閉めた。

 その瞬間、室内からティアラの笑い声が聞こえて来たのを心地よく感じながら、彼は台所を目指して足取り軽く駆け下りた。

 ファーラの夕食をしっかりとジュリアに用意してもらうために。

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