07 捨てて来い Part1
「捨てて来い」
「いや、しかしだな、妹よ」
「しかしも案山子もない。さっさと捨てて来い」
兄の言葉など聴く耳を持たない妹に、兄は困り果てていた。
「可哀想じゃないか。こんな雨の中で外に放り出すなんて」
兄の隣で二人のやり取りを困惑気に見ていたその目は、哀れっぽく妹を見上げる。
その眼差しに妹は一瞬怯むが首を振る。
「駄目と行ったら駄目だ。犬や猫ならまだしも、人間を拾ってくるとは何事だ!」
「だって、行く当てがないって言うから」
「だってじゃねえ!」
兄を怒鳴りつけた。
キッと兄の傍らの人物を睨みつける。
「アンタもアンタだ!見ず知らずの男にほいほい付いて来るんじゃない!何があるかわかんないだろうが!」
「それなら大丈夫」
「は!?」
「だって、妊娠してるもん」
兄妹は目を見開いた。
「なんだとぉおおおお!?」
妹は絶叫した。
「きさま!人様のお嬢様になんて真似をしたんだ!!」
兄の襟首を掴みあげ、ガクガクと揺さぶる。
「待て待て、妹。兄は何もしていない」
兄は必死になって言い募った。
「嘘をつけ!何にもしてなくて子供が出来てたまるか!!」
「なんかしてたって、こんなすぐに子供は出来ないぞ」
「当ったり前だろうが!テメェ、このクソ兄貴!いつそんな真似をしやがった!」
「うわわわわ。誤解だ!お兄ちゃんはこの人とは初対面なんだよ~!?」
兄妹は動揺のあまり馬鹿みたいな言争いをしていた。
どかどかと妹は兄を殴るし蹴る。
突然のバイオレンスに目を丸くしていた妊婦は慌てて止めに入った。
「まって待って妹さん。誤解よ」
「あ゛?誤解?」
妊婦は必死になって頷いた。
「そう。お腹の子の父親はお兄さんじゃないの」
兄も一緒になって頷く。
妹は締め上げていた襟首を離した。
「大丈夫ですか?」
兄はヘラリ(妹主観)と笑顔を浮かべた。
「大丈夫。慣れているから」
妊婦は微妙な顔になった。
「話を戻すぞ。妊婦だからって、危ないものは危ないだろう。むしろ妊娠させる危険がない分危ないんじゃないのか?」
「う~ん、それならそれでもいいかな。あたし、他にお礼できないし」
「「駄目だ」」
兄と妹の声は、はもった。
妹はハッキリと顔を顰めた。
「どういう経緯があるか知らないけど、お母さんになろうと思うなら、自分の身はちゃんと守らないといけないし、誰にでも身体を許すもんじゃない」
兄は大真面目に言う。
「つーか、妊婦がなんで家出してんの?家族が心配するよ」
妹までもが正論を吐く。
「あの、子供をおろせって言うから、逃げてきたのよ」
妊婦はしょんぼりとしていった。
「クソ兄貴!なんてもん拾ってきてるんだよ!!」
妹の踵落しが兄の脳天に綺麗に炸裂した。