05 部活動見学
「ブラスバンドと合唱部、行くんでしょ?」
入学式に知り合ったクラスメートと部活動巡り。
お互いに地味っ子同士、人見知り同士で何かと気があっている。
昨日は彼女の希望である運動部を中心に見て回った。
だから今日はこっちの希望先である文化部を回る。
それは良いのだが、クソ兄貴が挨拶したという2つの部活は避けて通りたかったが、初日に既にそのどっちかに入ると言ってしまった手前、やっぱ止めると言い辛い。
更に言えば、馬鹿兄の所為で、その部活に入る気はミジンコたりとて無い。
渋々と見学に行った。
……
「……あなたが、あの?」
合唱部部長は困惑気に妹に尋ねた。
「妹です」
合唱部部長の発言はどういう意味かと、妹は首を傾げたが頷いた。
「出来ればそのことはご内密にお願いします」
「ええ、そうね。その方がいいでしょう」
合唱部の部長は微妙な台詞を言う。
先に周ったブラスバンド部の部長も全く同じ反応だった。
日本人形のような、黒くて長くて真っ直ぐな髪をしている妹は、かけている黒縁メガネが根暗な空気を増幅させ、同級生から貞子と呼ばれる事もある。
兄とは似ても似つかぬその雰囲気に、部長達はドン引きしていたのだった。
音楽室には、他にも何人かの見学者がいた。
1人だったり、妹達のように連れ立っていたりしているが、一様に退屈した空気をかもし出している。
それもそのはず。
合唱部はずっと発声練習しかしていなかった。
それも終わり、ようやく合唱に入ろうかというところだった。
部員達は、新入生獲得のため、張り切っていた。
「……さんが、先生の用事で遅れるって……」
耳打ちされて、合唱部部長の眉間に皺がよった。
その知らせを持ってきた部員の眉間にも皺がよっている。
妹達は気を利かせてそっとその場を離れようと背を向けた。
合唱部部長は、そそくさと離れようとした妹の腕をむんずと掴む。
「ピアノ習ってるのよね?ちょうど伴奏担当がいないのよ。弾いて頂戴」
「え゛……」
「弾いてくれないと、口が軽くなるかも」
内密にしてくれ、というお願いをさしての言葉だ。
「弾きます!」
効果覿面。
妹は一も二もなく頷いた。