04 ナイスコントロール
配られた教科書などで重たくなったカバンを抱えて帰宅すると、兄はまだ帰っていなかった。
楽な私服に着替えて昼食の準備をしていると、兄も帰ってきた。
「なんだ。もう帰っていたのか」
お兄ちゃんのほうが絶対早いと思ったのになあ等と呟いているが、無視して調理を続ける。
「「頂きます」」
向かい合ってご飯を食べる。
父が居れば横並びになるが、今は二人だけなので向かい合わせだ。
食事の挨拶はきちんと、がモットーなのできちんと手を合わせて挨拶する。
暫し無言で食べる。
「妹よ」
「何だクソ兄貴」
「もうちょっとレパートリーを増やせ。2週間前と同じメニューだぞ」
妹の額に青筋が立った。
二人で交互に食事の用意をしている。
2週間前と言ったら、その半分が妹の分担でメニュー的には1週間分だ。
毎日作っていれば似たり寄ったりなメニューとなるのが普通だ。
それだけの期間メニューが被らなかったというのは結構凄かったりするが、兄はそんな事には頓着しない。
なぜなら、兄は更に豊富なレパートリーを持っているからだ。
「しかも砂糖が多すぎる。もうちょっと控えめにした方がいいな」
「だったら食うな」
妹の憮然とした声にも兄は答えない。
「もちろん食べるさ。それより女の子が食うとか言うんじゃない。食べると言いなさい」
メッと軽く叱れば、妹は忌々しげにそっぽを向く。
食事が終わり、兄が使った食器を洗う。
妹はソファーで寛ぎテレビを眺めていた。
二人分の食器を洗い終わり、兄は手を拭きながらリビングに入る。
「友達は出来たか?」
兄はストレートに尋ねた。
内弁慶の妹は、外では引っ込み思案で友達を上手く作れる性質ではない。
それを心配しての言葉だった。
「……」
妹は何も答えなかった。
やっぱり駄目だったか。
兄はそれを察した。
「やっぱり様子を見に行くべきかな」
無意識に呟いていた。
兄はしまったと口を押さえるが遅かった。
「ゼッテーくんな」
ソファーから身を起こして兄を睨みつけていた。
「お兄ちゃんは心配なんだ」
「余計なお世話だ」
妹はばっさりと切り捨てる。
兄は仕方がないと、それを諦めた。
「ところで、部活は決めたのか?」
「多分、合唱部かブラスバンドにすると思う」
やっぱりそうだろうなと、兄は頷く。
妹は小学生の頃からピアノを習っているので、その辺を選ぶだろうと予想をしていた。
「一応、部長達には妹をよろしくって挨拶しておいたからな」
唖然とした妹は、みるみる怒りの形相となった。
「こんのタコが!何てことしてくれんだ!!」
ローテーブルの上においてあった菓子入れ(空)が、兄の額にクリーンヒットした。
ナイスコントロールだ妹よ。
兄は頭を押さえて蹲った。