30 それはストーカー?
兄は居間で妹が帰ってくるのを待っていた。
神経を集中して耳を済ませていると、さくさくっと外から人の足音が聞こえた。
きたっ。
兄は秘密兵器のぶつを片手にソファーから立ち上がった。
カチャ……とひそやかに玄関ドアが開けられる。
「ただいま……」
帰宅の挨拶には、窺うような警戒した響きがあった。
そっと玄関のほうを盗み見ると、妹は訝しげにしながらも靴を脱ぎ廊下に上がるところだった。
「お帰りー(ハート)」
玄関からは死角になるところに隠れていた従兄弟が、ゴロンとその眼前に躍り出る。
妹はビクッと足を止め、その姿を目にして大きく目を見開いた。
「っキャアアアアア!?」
驚いたのか恐怖したのか定かではないが、妹は高い悲鳴をあげた。
「お願いがあるんだ~。聞いてくれる?」
従兄弟は妹を見上げウキウキとそんなことを言っていたが、妹は全く聞いちゃいなかった。
脱兎のごとく駆け出し階段を駆け上がっていく。
「待って~」
簀巻きにされたまま従兄弟は尺取虫のように這って階段を上り追いかけていった。
兄はそれを確認し、手にしていた秘密兵器と共に玄関に向かった。
そしてその凶悪な物(本物の蛇の抜け殻)を玄関に鎮座させた。
これで妹は苦手を克服しない限りは、家からは出られない。
階上からは賑やかな音が響いてくる。
「んな!?」
足音がピタリと止まり、驚きの声が上がる。
「クソ兄貴! これを退かせー!!」
「待ってってば~(ハアハア)」
妹の怒鳴り声にかぶさって、従兄弟の変態な台詞が降って来た。
もう妹に追いついたらしい。
さすが変態、と兄は感心した。
「っ! こ、来ないで!!」
妹の動揺した声。
「お願いがあるんだよ。だからき~い~て~」
「いっやああああ!」
バタバタと妹が廊下をかける音が響く。
「ああっ、待って~」
どうやら妹は逃げ出したらしい。
今見つかるのは大変よろしくないと、兄は忍び足で隠れた。