26 自称婚約者
妹の友人達が帰宅後、縛り上げて納戸に閉じ込めておいた親類を出し居間に連れて行った。
ちなみに縛り上げたままである。
兄はそいつを自分の隣に座らせ、腕を組んだ。
妹がお茶を各人の前に出していく。
「解いてくれよ。縛られたままじゃ愛しの婚約者殿に再会の抱擁が出来ないだろ」
懲りない台詞に兄は問答無用で拳骨を落とした。
妹は対面のソファーではなく、ダイニングキッチンの中にまで退避した。その顔は強張り微妙に青ざめている。
「で、いきなり何しに来た」
よくぞ聞いてくれたと言わんばかりにそいつは顔を輝かせる。
「今度この近くで大会があるんだけど、高校最後の大会だろう?だからその間厄介に、」
「却下だ」
兄はみなまで言わせず言い切った。
「叔父さんから許可をもらった」
「なんだと?」
「だからよろしくな。これで暫くの間は、愛しの文ちゃんと一つ屋根の下、あんな事やこんな事……嘘です!ごめんなさい!!」
ふざけた事を言うそいつの頭を脇に抱えギリギリと締め上げる。
縛られたままでそいつは抵抗1つ出来ない。
気の済むまで締め上げると、そいつは微妙に涙目となった。
「酷い……」
「自業自得だ」
フンと兄は鼻を鳴らす。
「はあ、暴れたらのどかわいた。文ちゃ~ん、縛られたままじゃ飲めないから、飲ーまーせーてー。もちろん口移しで(ハート)」
兄はガッツりとそいつの顎を捉え上向きにする。
「よし、飲みたいなら幾らでも飲ませてやろう」
テーブルの上のカップを取り上げ、そいつの顔の上で傾ける。
「うわ~、待った待った待った!そいつ熱湯じゃん!?火傷するって!!それに、俺はお前じゃなく婚約者に優しく飲ませてもらいたいんだ!」
「まだ言うか!」
問答無用でぶちまける。
「アッチー……く、ない?」
顔にぶちまけられたそいつは首を捻った。
妹は2人が喧嘩して暴れた拍子にカップを倒して火傷しないようにと、あらかじめお湯の温度をぬるくしてあった。
「さすが文ちゃん、愛だね!こんな事もあろうかと、前もって冷ましておいてくれるなんて。ありがとう!愛しているよ~!!」
妹は嫌そうに顔を背ける。
兄は頭痛を堪えるように頭を押さえた。
「兎に角、ウチに泊まるのは却下だ」
「叔父さんはオーケーだって言ってくれたんだって」
「俺は聞いてない。ホテルに行け」
「そりゃないだろう?今の時期に取れるはずないじゃないか」
「だったら野宿でもするんだな」