24 残念男
「ほんっと残念な男だ」
同僚の呟きに振り返る。
「誰が?……と、あいつか」
視線の先にいる爽やか美中年を確認し、頷いた。
「まあ、あいつが残念なのは今に始まったことじゃないけど、どうした?」
最初に呟いた同僚は手にした菓子を掲げて見せる。
「娘さんが作ってくれたとか言って嬉しそうに自慢して言った」
「へぇ。美味しそうじゃないか」
「ああ。本職顔負けな美味しさだ」
「どこが残念なんだ?」
「いや、あいつって顔はいいし、仕事は出来るし、人当たりはいいのに、あの妙にトロくさい性格の所為で、全ての美点がかすむ残念男じゃないか。そのせいで奥さんにも逃げられたし」
「身も蓋もないが、そうだな」
その同僚はわかるわかると頷く。
「前からそうじゃないかと思っていたんだが、本格的に馬鹿親の域に達してるみたいだ。美人で可愛くて優しくて気立てがよくて大人しげで(以下略)な娘さんがいるってもう念仏のように唱えてるんだよな」
「はは、どんな完璧美人だそれは」
「だろ?更に輪をかけて今回は娘賛美にお菓子つきで写真を見せびらかしにきやがった」
「マジで親馬鹿ならぬ馬鹿親レベルだな。あれだけかっこいいのに実態は馬鹿親。なんつーか、本気で残念な奴」
「ほんとになぁ」
2人はしみじみと頷いた。
「ところで写真の娘さん、ほんとに美人なのか?」
「おう。見てみろよ」
と、同僚は美中年に貰った写真を渡した。
「これは……!」
写真を見て驚きの声を上げた。
「馬鹿親になる気持ちはちょっとはわかるな」
「うん」
浴衣姿ではにかみつつ微笑む可憐な美少女。
「ちなみに息子バージョンもあるんだぜ」
「マジか」
「おう。かっこよくて頭がよくて人望があって誠実で(以下略)な息子さんらしい」
「そっちも完璧野郎か。馬鹿親フィルターかかってるんじゃないのか」
「どうもマジっぽい。去年全国大会上位入賞したとか言うし、かなり頭のいい進学校で生徒会長なんかをしてるみたいだな」
「どうなってるんだ。あの残念男の子供がそんなに上出来だなんて、世の中間違ってるだろ」
「考えてもみろ。上出来な息子と娘の父はあの残念男なんだぞ」
「ああ、そりゃ残念だ」
「な?世の中ってのは意外とうまくでいてるもんさ」