23 冷菓
「フフフ、完成~」
妹は上機嫌だった。
出来立ての菓子を冷蔵庫に入れていく。
夏休みに入り、家事をする合間に菓子作りをしていた。
夏場にふさわしく涼しげな冷た~い和菓子だ。
たっぷり作ったからピアノの先生に持っていこう。
バレエスクールの皆に分けるのもいいな。
お世話になっている近所のおば様方にも配ろう。
妹はルンルンと鼻歌を歌いながら出来立てを一つ味見した。
まだ冷えていないけど味は予定通りのもの。
われながらいい出来だと、1人悦に入っていた。
翌日、十分冷えて、さてご近所様に配りましょうと冷蔵庫を開けた妹。
大量にあったはずのそれが一つ残らず消えていた。
「あれ???」
兄や父には食べていいよと言ってあったが、そんな簡単に食べつくせる量ではない。
妹はあまりにも不可解な状況に首を捻った。
まさか泥棒さんが入ってきて冷蔵庫のものを食べつくして入ったとか?
半ば本気でその可能性を考え、怖くなった妹は、ウロウロと家中の戸締りを確認する。
異常なし。
ホッと胸を撫で下ろす。
まさか冷蔵庫にしまい忘れたとか?
流しや棚の中、果てはゴミ箱の中まで確認した。
どこにもない。
そもそもお菓子を作った夢でも見ていたとか……?
材料があるはずの場所をのぞくが、綺麗さっぱり材料は消えている。
そして袋などの残骸もゴミ箱にあるのを確認した。
つまりお菓子を作ったのは間違いない。
本格的に訳がわからなくなったところで、部活から兄が帰ってきた。
その手にはクーラーボックスが。
「部員皆が喜んでたぞ」
上機嫌で兄は言う。
「ちょっとおおおお!!聞いてない!?」
妹の叫びに、兄は朗らかに笑う。
「うん。今言った」
なんて事を!と妹は兄の襟首を掴んでガクガク揺さぶる。
部活と言う事は、同じ学校の妹のクラスメイトなんかもいるわけで……。
「恥かしいでしょう!?」
「大丈夫!美味しかったから!!」
何の慰めにもならない事をいう。
「そういうことじゃなくて!」
「あ、父さんも今朝半分持ってたよ?会社の人に娘に作ってもらったって自慢するって言ってた」
あははと兄は笑顔で止めをさした。
Oh、No!
妹は恥かしさのあまりのた打ち回った。
自分のよく知っている相手に自分で配るならどうって事がなくても、よく知らない相手に知らないところで配られるのが、妹には例えようもなく恥ずかしく感じたのだった。
「よしよし、可哀想に。全部食べちゃって無くなっちゃったから、お兄ちゃんが代わりのものを作ってあげるね。だからそれで我慢してね」
兄は妹の頭をナデナデして言う。
何がいい?手っ取り早くホットケーキとかドーナツ?それともちょっと時間は掛かるけどムース系のケーキとか?
兄の言葉など妹には届いていなかった。