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兄と妹  作者: ゆなり
21/39

19 お兄ちゃんは怒ってます

「ちょっと、ちょっと、妹ちゃんが~」

 以前兄妹の家に居候していた女子が本部テントに駆け込んできた。

「どうした!?」

 兄は勢いよく立ち上がり、血相を変えて訊ねた。

「怪我しちゃったのよ~!」

 みなまで聞くことなく、その女子の指し示す方に走って言った。

 素早過ぎるその行動に、皆はポカンとして見送った。

「ああん。待ってよ!」

 知らせを持ってきた女子も、遅ればせながら追いかけた。

 兄がその場に駆けつけると、人だかりが出来ていた。

「どけ!!」

 兄は怒鳴りつけて道を明けさせた。

 品行方正な生徒会長らしからぬその言動に、取り囲んでいる生徒達の間に戸惑いが産まれる。

 妹は地面に横たわっていた。

 傍らには保険の先生がしゃがみ込んでいて、手当てをしている。

 辺りには点々と血が零れていて、それなりに酷い怪我であることは明白だった。

 近くには片付けてあったサッカーゴールが倒れている。

 まさかあれが直撃したのかと、兄は青ざめた。

「大丈夫か?お兄ちゃんがわかるか?」

 口を引き結んだ妹は、顔をしかめながらも頷く。

 保険の先生が妹の頭に包帯を巻いていく。

 撒かれた白い包帯が痛々しい。

 顔にまでかかっていて、メガネがなくてもやっぱり顔は良くわからない。

 そのメガネはと周りを見ると、離れた場所に転がっていた。

 レンズが割れてかなり無残な状態だ。

 割れたレンズで目や顔を切らなくて良かったと胸を撫で下ろした。

「サッカーゴールが倒れてきて、とっさに避けたけど、避けた先に散乱していた器具類で軽く頭を打ってきった」

 と言う事で、兄はホッと一安心した。

「何だ、そうだったのか。お兄ちゃんは寿命が縮むかと思ったぞ」

「お兄ちゃん」

 妹は兄に言う。

「クーラーボックスありがとう。皆喜んでた」

 はにかみながらの礼に、兄はニッコリとした。

 どうやらクラスメイト達と会話するきっかけの一つにはなったようだ。

 この暑い日差しの中にいれば、誰もが冷たいものを欲しがるはずだ。

 妹にそれを持たせておけば回りの人間がくれと言って声をかけるだろう。

 嫌と言えない妹なら自分の分すら確保できずにばら撒いてしまう可能性があると判っていて渡したのだ。

 案の定かなりの部分を分け与えてしまったらしい。

 友達作りのへたくそな妹。

 これを機に友人が増えるといいなぁと思う。

「よかったな」

 ポンと肩に手を置くと、妹は顔をゆがめた。

 兄は慌てて手を引っ込める。

「っう……」

「だ、大丈夫か!?」

 兄は動揺した。

「避けたけど、避け損なって、サッカーゴールが肩に当たった」

 妹はどことなく憮然とした様子で言った。

 それは避けたとは言わないぞ、妹よ!

 兄は心の中で激しく突っ込みを入れた。

 そうこうする内に救急車が到着。

 救急隊員によって車に運ばれ応急手当を受け始める。

 さて、妹の目もなくなったことだし。

 遠慮なく報復活動と行きますか。

 兄は悪ふざけをしていてサッカーゴールを倒してしまった犯人達に向き直った。

 うん。お兄ちゃんはちょっと、いや、かなり怒ってるかも。

 つーか、ウチの子に怪我をさせた相手に怒るのは、身内としての権利だよ。

 ……許すまじ。

 彼等は目の前に立った生徒会長に頭を下げた。

「「「すんんませんでした!」」」

 優秀で温厚な人格者と美辞麗句に事欠かない相手。

 教師からの信任も厚く、男子運動部員達のヒエラルキーのトップ付近にいる剣道部部長でもある。

 睨まれれば各運動部部長そしてその配下の人間から総スカンを食らう、ある意味恐ろしい人物だ。

 温厚な生徒会長は、らしくない凶悪な表情で彼らを見ていた。

「ウチの子になんて事してくれたんだ」

 子!?

 周りで見物していた人間は心の中で突っ込みを入れた。

 一番近い相手の襟首を掴み締め上げる。

「嫁入り前の娘を傷物(意味が違う!)によくもしてくれた」

 兄は静かに怒り狂っていた。

 その後の会長の暴走は語り草になるものであった。

 シスコンの名を不動のものとし、以後二度と妹に危害を加える人間はいなくなった。

 完璧会長の意外な弱点。

 色々とダメダメなその一面に、ハーレムを形成していた女性陣が引くかと言うとそんな事はなく、むしろ深い理解をもって受け入れられた。

 兄との第一歩は妹攻略が近道であると、その女性陣から妹が不気味なほど親切にされるという事態を引き起こしたのだった。

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