18 似てないねA
激しい口論の末、妹に日傘と日焼け止めと扇子とタオルを持たせることに成功した。
兄の粘りがちだった。
出来れば凍らせた果物も持たせたかったが、重いからと頑として拒否された。
仕方がないなぁと、兄はクーラーボックスに詰めたそれを持って学校へ向かった。
朝から授業は無く、一日炎天下での行事だ。
兄は本部のテントで、妹の姿を探した。
試合中のコートがいくつもあってわかりにくいが、どうにか見つけ出す事ができた。
あああ、やっぱり。
兄は苦笑した。
内弁慶の妹は、兄が用意した日傘をクラスメイトに取られていた。
妹のすぐ近くに日傘をさしている女子が立っているが、妹はその恩恵に浴していない。
暑そうに手うちわで扇いでいる。
扇子も誰かが持っているようだ。
兄はこうなる事が眼に見えていた。
用意してあったクーラーボックスを持ち上げる。
ちょうどこれから兄も試合がある。
妹の“忘れ物”を届けがてら移動する事にした。
「あれ?そっちはちがうわよ」
一緒に本部のテントから移動してきた副会長に、兄が試合するコートと違う方へ向かっている事を指摘された。
「ちょっと用事があるんだ」
ニッコリと笑顔を向け、クーラーボックスを持ち上げて見せた。
副会長はそうなんだとか言いながら、兄について歩く。
他にも一緒に移動していた人間も副会長に倣い後をついてきた。
ボブカットの女子と試合を眺めていた妹は、近づく兄に気が付いていなかった。
トントンと兄が肩をつつくと、妹ははじめてその存在に気が付いた。
妹の隣にいたボブカットの女子は、目を丸くしている。
「”忘れ物“、届けに来たよ」
はい、と妹にクーラーボックスを手渡す。
「ありがとう、お兄ちゃん」
地を這うような低い声で妹は礼を言った。
随分久しぶりに可愛らしくお兄ちゃんと呼ばれた。
兄はそれに一人満足していた。
「妹さん?」
副会長は訝しげに尋ねてきた。
兄はご機嫌のまま頷く。
「……似てないわね」
その感想に兄はちょっと気分を害した。