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兄と妹  作者: ゆなり
16/39

16 父の威厳 前半

「お父さんな、再婚しようかなって思ってるんだ」

 兄妹は目を見開いた。

「「なんだって~!?」」

 妻に逃げられて以来、女性不信気味だった父の発言とは思えなかった。

「相手は!?一体全体なに考えてるんだよ!」

「まてまて、落ち着きなさい。お父さんは、まだ考えてるだけなんだ。プ、プロポーズだってまだだぞ」

 最後の方は赤くなっていった。

「本当は2人が独り立ちしてからって考えてたんだ。だけど、ほら、なぁ。お前達がこんな会話してたから」

 恥かしそうに机の上のコンドームをチラチラと見ながら照れて言う。

 つまり、こういう性教育な会話がなければ、ずっと言い出すことすら出来なかったということか。

 10年計画での遠大な計画である。

 我が父ながらなんとヘタレなんだ、と妹はガックリとした。

 これでは母に逃げられるのも頷けるというものだ。

 しみじみと納得していた。

 先程まで1人おお泣きしていた事など棚の上にあげて考える。

 つーか、なんでこんな年で父や兄と“明るい家族計画“について会話せんといかんのだろうか。

 妹は1人打ちひしがれていた。

「で?」

 兄の冷たい声に父は首をかしげた。

「なにがどうなってるんだ?いったいいつの間に?」

 不機嫌な兄の様子に、父はしどろもどろになった。

「ああ。あのな、え~と、離婚して落ち込んでいる私を、2年ほど前から何くれとなく励ましてくれた女性なんだ。時々食事して、だけどそんな後ろめたい事なんてなかったんだぞ?」

「へえ?」

「ふ、深い関係になったのは、ここ2月ほどで……」

 兄の周りの空気が、途端に極寒となった。

「お父さん。子供達(この場合妹限定)の手本にならないといけない分際で、不順異性交遊とは何事ですか!!」

 兄の一喝に父は震え上がった。

「で、でも、お父さん、成人してるから……」

「当然です!最近外泊が多いなと思ったら、そんな事をしてたなんて!教育に悪いとは(しつこいがあくまでも妹限定)思わないのですか!!」

「ご、ごめんなさい?」

「全くもう。休日にもなんだかめかし込んで出かけていくし、おかしいなとは思ってたけど、そういうことはちゃんとしないと駄目でしょう。いい年した大人なんだから」

「ちゃ、ちゃんと?」

「そういうだらしないところを、真似でもしたらどうするんです(これも妹限定)。父親として、男として、キッチリ責任は取るべきでしょう」

「責任」

 馬鹿みたく繰り返す父を、兄は冷たく見つめる。

「お付き合いするのはいいとして、責任ある大人なんだから、周りをきちんと納得させた上でやれといってるんです。それをなんですか。親に隠れて異性と付き合う高校生じゃあるまいし、こそこそと。恥を知れ」

「そうだね」

 父はシュンとなって項垂れた。

「で、相手の女性は、こっちの事情をどの位知ってるんだ?」

「全部。高校生の息子と娘がいることも、妻に逃げられた事も知ってる」

「それでも良いと言ってくれる様な人か?」

 兄は訝しげだ。

 妹は黙って兄と父の会話を聞いていた。

「先方は未亡人で、数年前に旦那さんを亡くしてるんだ。ちょっと気が強いところもあるが、優しくて気配りもある。いい人だぞ」

 妹は不安げに父の言葉を聞いていた。

 内弁慶の妹は、父の再婚話だけで上手くやっていけるか既に不安一杯だった。

 兄は心配そうに妹を横目で観察していた。

「それに、先方にも息子が一人いるんだ」

 えっ……と兄妹は目を瞬いた。

「その子供もうちと同じ高校生なんだぞ」

 連れ子、連れ子は息子、高校生の子供、男子高校生!!?

 家の中に見知らぬ同世代の男がいるところを想像し、妹は声もなくぶっ倒れた。

 許容量が限界を超えたのだった。

 兄はとっさに手を伸ばして妹を受け止める。

「だ、大丈夫か?」

 父はオロオロとそれを見ていることしか出来ない。

 兄は盛大に舌打ちした。

「父さんはそこで立ってなさい!」

 妹を抱えあげてリビングから連れ出した兄は、どこぞの鬼教師のように父にそう命じた。

「はい!」

 父の威厳もかなぐり捨てて直立して返事をした。

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