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木こり 木こって 興味本位で虫のドアップ見ると絶望する

 鎮護府の外には広大な森林があった。木自体が非常に多く妖は少ない。鎮護府で使われる材木などが得られる場所だ。

 そんな森の淵に剣衛 祓滅(ふつめつ)兵学校討蛛第三期生の生徒達は集められていた。剣衛が生徒達の護衛の為に控えている。


 生徒達は戦いの術を教えてくれる先生。モシャモシャ眼鏡先生を見ていた。幹が一周50㍍くらいあり高さが三回建の家よりデカい木の下だ。


「じゃぁ行くね」


 気の抜ける声に気が付けば抜き身の刃があった。


 抜刀。


 視界の中央に在りながら、それでも何時なされたか分から無い。意図的に見えるように握られたソレがゆっくりと滑らかに鞘へと仕舞われる。チ、と小さな音を残し。


 納刀。


 周辺の全てがパズルの様に斜に切られた面に沿って重力に従い地に滑り落ちていく。巨木と言うか巨樹という巨樹が教師を中心に冗談のようにだ。


 葉も枝も幹も問わずバラバラになった中心。


「はい。じゃあ皆んなもやってみて。剣能なんて使わなくても剣術でもこれくらいは最低限だよ。

 それと葉っぱは薬や紙に、枝や幹は建材に、他にもこの木は色々と大事な資源になるから確り運ぶようにね。と言ってもトラックへの詰め込みだけで良いから。

 帰りは皆んなダッシュだよ。先生も一緒に走るから頑張ろうね」


 モシャモシャ眼鏡先生が気楽に言う。世成(せな)はビシッと手を伸ばした。そらもう天を衝く様に真っ直ぐだ。


「どうしたのかな世成(せな)君」


 穏やかに微笑み一歩手前の表情でモシャモシャ眼鏡先生が問う。


「はい先生!! あの俺、普通に無理だと思うんですが!! と言うか一歩も動かずに枝とかどうやって切ったんですか!! 距離的に10メートルは普通に超えてます!!」

「ああ、それは簡単。単純に斬撃を飛ばしただけだよ。厳密に言うととても早く刀を振って真空を作り斬る技だね。

 丁度良いからついでに伝えておくと範囲を広くするなら空気に鋭い流れを作る方が良いと思う。空気中の様々な物を流れで導いてウォーターカッターみたいにして切るんだ。どっちも牽制や注意を引くくらいには役に立つから覚えておくと良いよ。

 さ、じゃあ皆んなやってみようか。一隊で最低一本は切り倒してね。集めた資源が多ければ多いほど加点するから。始め」


 世成(せな)は流れる様に進められ呆然としてしまう。今の所マジで何言ってんのか分からんかった。素振りとか超頑張ってるけど斬撃とか飛んだ事がねぇ。


「え、お前ら飛ばせるの?」


 だから同班同室の面々に聞いた。小乃字(しょうのじ)小三治(こさんじ)が呆れた様に溜息を漏らす。


「んなの出来る訳ねぇだろ。俺らがそんな事をやってるの見たことあるか?」

「確かに」


 世成(せな)が余りにもファンタジーチックな絵面の所為で当然の事を忘れていたが為の納得感。それに頷いていると剣術バカと言う事が知れ渡った笹竜胆(ささりんどう)黎明(れいめい)が眼鏡クイってした。何なら剣のことが話せて嬉しいのか此れ見よがしにクイクイしまってる。


二階笠(にかいがさ)教官は剣術だけで大業物にまでなった剣豪の御一人だ。そして斬撃を飛ばすのは剣豪と呼ばれる方達は最低限可能な技だと聞く。

 だから逆を言えば刃を飛ばす技術と言うのは出来る奴が少ないと言う事さ」

「はえー」


 感心していると三階菱(さんかいびし)三蔵(さんぞう)が肘で突いて来た。世成(せな)も同じ様に笹竜胆(ささりんどう)黎明(れいめい)を突き、また小乃字(しょうのじ)小三治(こさんじ)笹竜胆(ささりんどう)黎明(れいめい)が突く。教官にドヤされない様に自然と行う様になった癖の様な物だ。

 だが教官にはバレバレだった様で苦笑いを浮かべながら歩いて来た。また彼の後ろには四人の討蛛第二期生、要は一年先輩の訓練兵が五人。彼等は非常に緊張した様子だったが教官はニっと笑って。


「2011班から2015班は付いてこい。この5班20名を第203分隊とする。俺が護衛兼教官分隊長を務める二頭波(にとうなみ)だ。よろしくな後輩」


 軍服を纏うこざっぱりした男性。めっちゃ睫毛が長い二十代程の先輩に揃って「よろしくお願いします!!」と敬礼する。胸には伍長と業物の階級章を付けていた。

 授業で習った事だが伍長は軍の階級で班という四人の兵士の纏め役である。業物は剣刀士の強さの指標であり一般的な強さを示す。

 およそ数年間剣衛として働いた先輩と受け取ればその通りだ。


「ま、初めて府外に出るヤツも多いだろうが気楽にやれよ。鎮護府周りは泉岳斎(せんがくさい)様がいらっしゃる。だから中央は妖の数自体が少ない。安心してやっていこう。

 だが伍長の言う事は死んでも聞け。で、伍長も指示通りにやれよ? ちゃんと後輩達を守ってやれ。じゃ、状況開始」


 そう言った瞬間。全員がその場から消えた。二十一の土煙を残して。

 巨木の間の波打つ様な根を蹴り進む203分隊。彼等の気配を感じながら二頭波(にとうなみ)は当たりを引いたと喜ぶ。先ず教育課程の段階で土煙を起こさない程に鍛えられた者など極僅かだ。自身の評価というのもそうだが万一があっても死なせないで済む安心感があった。

 だが即座に慢心と自覚して注意深く気配を探りながら進んだ。


「……余り離れると流石にか。コイツを切り倒す!! 先ずは枝落としだ!! 枝ぐらいはスパっといけ!!」


 全員が敬礼と共に応答。十数㍍の距離を一飛び。枝の上で抜刀する。

 伍隊の長であるゴツい感じの先輩が振り返った。チラと手帳を見てから。


「よし!! お前ら。2013伍隊の先任伍長を任せて貰った亀甲(きっこう)だ。

 いいか? 一応、言っておくが幹の方に寄って切れよ。偶に、本当に偶にだがやらかすバカがいるからな。

 それと一発で切れそうにないところには切れ込みを入れろ。30度から45度な。行術は使うんじゃねぇぞ」


 そう言うと亀甲(きっこう)は指で三角形を空中に描きながら説明する。


「あとは細々したのはともかくデカい枝は確り落とせ。下で切ると面倒くせぇからな。上で切っちまったほうが楽だ」

「了解です軍曹殿」


 年上って事で仕切り役を任された世成(せな)が敬礼すれば他の四人も続く。それから各自バラバラに分かれて枝を切っていく。先の方でも人の胴三つ分はあるだろう枝を足場にだ。


「結構ムズいな……」


 非常にバランスが悪く風もある。落ちたくらいでは死なない身体にはなってるが、刀と言う形状の為に足元を切るのは難しい。片膝を突いて居合のように斬る形に落ち着いた。

 ただ効率がクソほど悪く笹竜胆(ささりんどう)黎明(れいめい)にコツでもないか聞こうとして振り向けば思わず驚く。


「うお。スパスパ切っとる……。と言うか立って切ってるし斬撃飛ばしてない? ウッソだろオイ。

 やっぱアイツ剣術だけ天才過ぎるだろ。この前の座学のテスト7点だったのに……」

「おい!! 飛鶴(とびつる)!! 今、僕の悪口言ったな!!」

「ヤベ……聞こえてたか。事実は言ったが悪口は言ってねぇぞ!! それより、ソレどうやってんだ?!!」

「凄く早く振る!!!」

「ありがとよ!!」


 試しにやってみたら切先の先の空間をなぞる様に枝の木の皮に切れ込みが入った。枝の皮一枚は切れちゃった時点でマジかよ感はあるのはある。しかし大人の太腿程の枝をスパスパやってるのがいるのだ。


「……未だ無理だな。マジで天才だろ黎明。勉強だけは出来ねぇけど」


 感嘆せざるおえなかった。当然、それは粒子という漫画や娯楽小説で非常に都合の良い魔法だの魔力だのの代替品が実際にある故だ。また笹竜胆(ささりんどう)黎明(れいめい)とは育った環境が違う。

 だがその努力を知っていれば当然の感想だった。ただでさえバカ早い起床時間前に起きて一人で素振りしてる奴とかスゲェに決まってんだって話である。まぁ何回か|猿叫っぽい声《きぃえぇえええエエ!!!》上げて寮長にバチクソ怒られてたけど。


「おん? あ」


 ゾワリ、とした。クロックポジションで一時の方向、凡そ距離500㍍。地面。


「感有り!! 一時方向!! 地面!!」

「三期生は伍長の元に!! 幹を背にして固まれ!!」


 二頭波(にとうなみ)世成(せな)の報告に即座反応して前に出た。刀を抜いた逆の手は森の方へ掌を突き出す。


「水行」


 二頭波(にとうなみ) が呟けば手のひらの先に水球が浮かんだ。薄暗い森の影から出てきたのは巨大な虻。全長は3㍍程だ。

 だがそれは飛んでおらずノソノソと歩いていて二期生や二頭波(にとうなみ) は露骨に安堵していた。

 だがそれも一瞬の事。二頭波(にとうなみ) は周辺を確認しながら。


「ただの肥大化個体だが周辺警戒を怠るな。行術発動!! 数形一槍!! 発つ!!」


 いうや否や掌の先の球体が伸びて槍となり直進して虻を貫いた。枝上からの攻撃に地べたを這う巨大虻がギチ……と身の毛のよだつ音を立てて巨大な複眼を向けてくる。マジでメチャクチャきしょい。

 しかし次の瞬間には轟音を立てて跳ね、また羽音を轟かせ二頭波(にとうなみ) に飛びかかる。


「よ、っこいせ!!」


 それを回り込む様に避け頭部と胸部の隙間に刃を落とした。勢いのまま虻は枝にぶつかって頭と体を別々に落とす。

 バラバラになったというのに羽と脚をバタつかせ口はシュリシュリ言ってた。本気で勘弁して欲しいくらいキショい。虫がキシャァとかってキショい音たてるのは反則である。

 蠢くそれを注意深く見ながら二頭波(にとうなみ) は一息。


「授業で習ってるだろうがこれが妖化の最初期段階だ。肥大化、異形化、模倣化、肥大化初期の妖は唯デカくなっただけで大した力は無い。それどころか無駄に重量が増えて動きが鈍いんだ。最近じゃ昆虫系や鼠くらいでしか見なくなったがな。

 まぁ、何にせよこれくらいの時期に倒しちまえたのは幸運だったぜ」

「妖ってぇのはもっとデカいんですか……」


 亀甲(きっこう)が嫌悪と恐怖を浮かべた目でチラリと虻の蠢動を見ながら言えば二頭波(にとうなみ) は首を振った。


「ああ。こんなモンじゃ無いぞ。そもそも、もし本当に妖が出てたら俺一人じゃ倒せない。お前らを逃す時間稼ぎが精々だ」


 死骸となった巨大虻にようやく一息。


「さ、続きだ。課題を済ませちまおう。気疲れしただろうが頑張れよ」


 そう言うと二頭波(にとうなみ)は納刀して世成(せな)へ。


「よくやったな 飛鶴(とびつる)訓練生。一年目で妖擬きとは言え迅速な報告。ありゃあなかなか出来るもんじねぇよ」

「は! 有り難う御座います! 分隊長殿!」

「おう。確りやんな」

「は!」


 その後は何事も無く遠征を終えた。そして一年の訓練生期間を終えて世成(せな)達は訓練兵として剣衛 祓滅(ふつめつ)兵学校に在籍する事となる。

 今までは一般教養なども含めたカリキュラムだったがより軍事的な知識や技術を受ける事になるのだ。

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