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美味しい御飯がでぇーるぞー コイツはドエライ美味レーション

 喇叭が響く。頭パッパラッパーになりそうなくらいにバカデッケェ音。朝の静寂的な意味での破滅のラッパ。聖人だって「っせーなボケがァ!!」ってキレるだろう。そんぐらいデカい。


「頭いてぇよ……起床ラッパ」


 貫くと言うか劈くと言うか。頭痛に額を抑えながら世成(せな)は起き上がる。笹竜胆(ささりんどう)黎明(れいめい)以外は辛そうだ。

 廊下に並び階長の点呼を受け指示に従い寮外の周りを百周。朝食と身支度の時間になり取り敢えずトイレへ行き出して出れば行列。忙しなく身支度を終えて食事をとり清掃を済ませて食堂に集合した。

 学生達の生活の面倒を見る討蛛第三期生第二寮長が自己紹介をし生活規定や修学予定の通達などを受ける。


「以上、通達終わり。貴官等は佩刀式に於いて剣衛となる素質を示した。故に護国の剣と成らねばならない。努めて励む様に」


 最後に寮長はそう言って出て行った。この後は朝礼と掲揚をしてから剣衛の一番偉い人の話を聞くらしい。まぁ早い話が入学式的なアレである。

 世成(せな)はふと気付いて思った。『入学式も終わってねぇのに朝っぱらからランニングしたのかよ』と。だが同じ思いを抱いていそうな者は居ないように見えた。寧ろ良い生活だと喜んでいる。

 話し声に耳を澄ませば驚いた事に、白米と味噌汁に納豆と漬物に魚の干物という朝食、二杯目以降は玄米と言う一汁三菜を殊の外に喜んでいた。それは同室の二人もそうらしい。


「此処では腹一杯飯が食える。白米なんて初めて食ったぜ。外層の出だからあたりめーだがな」

「中層だって初めてだよ」

「あ? そうなのか三蔵(さんぞう)。下層なら白米なんて普通に食ってるもんだと思ってたぜ」

「いやいや基本的には配給品の味噌缶の汁と玄米ばっかりだよ。たまに魚が出るけれど本当に偶にだしね。白米は見たこともない」

「俺ぁ魚だって今日が初めてだ」

「あんな大きいのは僕も初めて。中層はどうなの?」


 世成(せな)はなんとなく分かっていたのだが待遇が非常に良かった事を実感と理解を得た為に、漠然とだが『色々と気をつけよ』と思いながら指示に従い練兵場へ向っていた。

 要は考え事をしていたのだ。だから少し考えてから。


「俺の場合は特殊だから参考にならないかもしれないけど白米は見たことはある。肉や魚も食えてはいたくらいかな。でも基本は乾麺と玄米だ」


 この世界に飛ばされる前なら寧ろ玄米の方がレアだった事を思いつつも肉か魚は欲しくてほぼ毎日食べてた事をボカして事実を少し抑えて言った。だがそれでも羨ましい食事ではあった様で三階菱(さんかいびし)三蔵(さんぞう) は羨ましそうに、小乃字(しょうのじ)小三治(こさんじ)は顔を顰めて。


「クッソ。羨ましいなテメェ。ナメんなよ」

「ナメねぇよ。それに惣菜三品は先ずねぇし。てか羨ましいまでは分かるけどナメんなは何処から来た」

「あ? 煩ぇ。理由なんかねぇ。外層はナメられたら死ぬんだよ。ナメんな」

「外層ってそう言う感じなん?」

「ったりめーだろ。化け物に食われるか人に食われるかだ。ナメられたらな」

「いや人て。なんか、すまん」

「忘れるなコノ野郎」


 非常に広い練兵場を埋め尽くす程の人、人、人。男女問わず整列しており誰もが軍服に着せられていた。年齢は凡そ15から18程である。

 世成(せな)に言わせれば小規模のイベント事程は人数がいた。人酔いをしている者が居るらしく所々でしゃがみ込む者がいる。しかし更に人も増えているのだから驚きだ。

 あと貴賓席っぽいとこに座ってる人の威圧感というか存在感がアホ程ヤバい。もう語彙かなぐり捨ててゲロやば。特に勲章付きすぎて軍服がラメラーアーマーみたいになってる爺さんは特級も特級。


「スゲェ……泉岳斎(せんがくさい)様だ」


 世成(せな) の視線を追った小乃字(しょうのじ)小三治(こさんじ)が感動した様に言い、三階菱(さんかいびし)三蔵(さんぞう) は完全にスーパーヒーローを前にした五歳児くらいの顔に、笹竜胆(ささりんどう)黎明(れいめい)は妙に張り切っていた。

 それは集められた全員が漣の様に生徒達に広まっていく。しかしその騒めきを止める様に古傷まみれの隻腕男性が登壇した。身体は馬鹿デカく威圧感が凄すぎるし目線は人を殺せると思う。


「寮生傾注!! これより剣衛元帥、泉岳斎(せんがくさい)様が御言葉を下さる!! 静粛にせよ!!」


 ビタっと止まる生徒は直立。話すとか怖すぎて普通にムリである。それくらい怖い。


 カツ、と。絶対に不要だろう杖をついて勲章ラメラーアーマージジイが動いた。そんな訳は無いのだが存在感によって物理的に押し潰されそうだ。

 軍服の上から見れば長身で細く枝の様だが力強さに山の様。白糸の滝を束ねた様な真っ白な毛髪を後頭部で一纏めにして同色の眉と髭を整えている。空の様に澄んだ瞳は目力が過ぎて鋭利を通り越して穿つ様。


「今し方紹介に預かった笹竜胆(ささりんどう)泉岳斎(せんがくさい)國綱くにつなである」


 その声は力強く響く。しかし極めて穏やかであった。視線だけで生徒達を見る。


「儂は天下五剣の一振りを担う者。剣刀士の適性を持った君達の先達として此の場に立っておる。故に君達を歓迎する。

 励め。良く食い、良く寝て、己を鍛え抜け。我等はそうせねばならぬ立場にあり、君達をそうする為に此処の門を潜らせた。

 剣刀士は此の草薙の人々を護る剣そのものであり、同じ立場たる玉鏡方と比べてもその待遇は良い。中層や下層外層に住む者はよく分かろうし上層の者とても理解出来よう。権利と特権には相応の義務が発生する。即ちその責を我等は果たさねばならぬのじゃ。

 これは死ねというのでは無い。寧ろ死ぬ事は許さぬ。死ぬ暇があれば無辜の民を護り人を襲う妖を討たねばならぬのだ。君達の、いや諸君の能力は生存圏の為にこそあると知れ。その事を努努忘れずに励んで貰いたい」


 士気旺盛。ただ老人が語っただけ。それだけで弛緩した空気は払底した。


「そしてこれは笹竜胆(ささりんどう)泉岳斎(せんがくさい)國綱くにつなではなく泉岳斎(せんがくさい)蒼穹として言う。

 暖かくして寝よ。身体を冷やすな。大事な相手と顔を合わせる事を忘れてはならん。手間を惜しむな。

 剣で在れ、しかし人である事を忘れるな」


 もう一度ゆっくりと壇の上から目だけを動かして生徒達を見て。


「以上を以て激励とさせてもらう」


 それを最後に全く不要だろう杖を突きながら壇を降りる。


 生徒達は来賓の人間を見送り応答の仕方や更新訓練の後に昼食、午後は基礎的な事を教えられた上で交友会活動などの選択。午後基礎訓練の後に旗を降下させ入浴夕食点呼。各部屋での自習の後に消灯となった。


 暗くなった部屋で世成(せな)は上の段の裏側を見ながら呟く。その目はシバシバで疲労が滲んでいおり。


「意外と、キツい……」


 言わば軍隊だから当たりの事。身体能力が上がっても気持ちが付いていかなかったのだ。そんな当然を吐いてから泥の様に眠った。

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