戦友百人でっきっるっかっな
剣刀士となった世成は双胴飛行船に乗って空路を進み第2衛戍府を離れていた。
行き先は最も大きく最も安全な人類の拠点である。衛戍府を統合統括する戍卒軍令部。技術局を統合統括する帯礪総本部。吏道室を統合統括する道揆三議院。要は人類の中枢が集まった街である中央鎮護府だ。
中央鎮護府はその安全性から人類の重要な物が集められており唯一の剣刀士の育成学校があった。
「第2衛戍府より広いし人が多いな」
タラップから降り空港連絡鉄道を経由して駅から出た世成は街中を見て言う。その飛行船から見た広大な範囲に並ぶ長屋や鉄工所か化学プラントらしき煙突、また煉瓦造りの建築物なども飛行船から数多く見えていた。それらを地に降り立って見た感想だが思ったより驚きの色は少ない。
「ま、要は首都って事だよな……?」
言葉を濁したのは第2衛戍府よりは多いが首都と考えると少ない印象を受けた為だ。それは時間的な問題だろうと特に考える事もなく飯屋を探す。そして駅前故かこじんまりとした喫茶店を見つけた。
「はえー……第2衛戍府には数軒しか無かったけどマジか」
取り敢えずパスタ食いてぇなと言う漠然な思いで入る。研究協力資金に加え使う暇が無かった外食券が余っており、割と余裕はある感じなので特に気にもせず。入ってみれば中は割と小金持ちそうな客ばかりだった。
レコードが奏でる落ち着いた曲を耳にカウンター席に座り、コップを拭いていたマスターと言うか店主らしき慇懃な男性へ問う。
「このお店でパスタは食べられますか?」
店主は少し驚いた様に目を開いてから上機嫌に。
「御座います。本当のパスタで御座いますが」
「やったぜ。ん? 本当のパスタ? まぁ良いや。メニュー表を頂けますか」
「どうぞ此方を」
目を通せば確かにあった。と言うか金銭で買えるメニューの全てが高いが特に高い。また品数も少なくスパゲッティはカルボナーラとミートソースだけだった。
そして飲み物をどうしようかと視線を移して驚愕する。
「え、サイダーにコーラもある……!?」
大声は抑えたが衝撃はそのままに言葉に芯が入った。上機嫌にコップを拭いていた店主の片眉が上がり片目が一瞬大きく開く。
「お客さんコーラをご存知で?」
「……ええ」
「であれば驚くのも道理ですね。技術局の知り合いに品種改良されたコウサイの活用を頼まれまして。それで市場で売れるかの確認をしているのです。
ああ、そうだ。それとウチはうどん粉を使っていませんのでパスタとコーラであれば金銭で御提供出来ますよ。洋菓子とコーヒーは外食券が必要ですが」
「ハァァァァっっシャァ。じゃぁミートソースパスタとコーラ。食後にコーヒーとケーキをお願いします」
「承りました」
久々の洋食である。一品と合成タンパク質と乾燥野菜の味噌缶詰と玄米の生活。不味くは無いが単調だった。
店主が黄色い布の様な生地を冷蔵庫から出した。そして手回し式のパスタマシン。まさかのガチパスタである。
「一体どこで……」
「師に譲り受けた物です。リナルド料理の達人でした」
麺をゆがく間に愛宕梨くらいの大きさの玉ねぎの八分の一を微塵切りにしてからフライパンで炒め始めた。そこに乾燥合成肉のミンチを加えて炒めてからトマト缶を投入する。少し煮込んでから香草を加え塩で味を整え茹で上がった麺に乗せてから世成の前に。
更にグラスに氷を入れコーラを注ぎ輪切りのレモンを浮かせた。
「おぉ……!! 頂きます」
フォークを持ち巻いて口へ。チーズやタバスコ、特に胡椒が無いのは惜しい。だが久々の味だった。
「美味い。中央鎮護府ではトマトがあるんですね。うお……! めちゃくちゃコーラだ」
マスターは嬉しそうに。
「種子の保存の為に栽培されている物です。何方の衛戍からいらっしゃったかは存じ上げませんが食堂に出回る程度には流通しておりますよ。ケチャップの供給の大半は中央鎮守府からですね」
「第二衛戍府だと時間がなかったからなぁ」
「……ふむ? ああ、其方ですと砂糖黍や砂糖唐黍でしたか。佩刀式の飴の産地ですね。竹林の様な砂糖黍畑が有名と伺っております」
「……アレ砂糖黍だったんだ」
マスターと話しながら随分と重い印象を受けるが非常に美味いブロック状のケーキと苦味の強いコーヒーまで平らげまた来ようと決意してから駅へと向かった。
行先は剣衛 祓滅兵学校。祓うが撃退で滅が討ち取る術を意味しており、要は戦闘方法や剣衛としての生活などを教える場所だ。まぁ軍学校と考えればその通り。
今の時期で言えば草薙の各衛戍府から適正のあった、または適正が伸びた物達が集められる場所だ。
「第二衛戍府から来た飛鶴世成です」
「入学おめでとうございます。新入生の方は大演習場へ。今日は貸与品の受領と学舎寮への案内となります」
「はい」
言われて促さられるままに塔とでも形容したくなる教本の束を運び寮へ向かう。たぶん佩刀式の前だったらマジで運べないくらい重いそれを担いでだ。二階建ての長屋が並んでおり野郎の山。
「えーと第二男子寮13号室……ここか」
扉を開けば神経質そうなザ・委員長風ヒョロ長メガネ一人、元ガキ大将っぽい大きいのが一人、顰めっ面の小さいのが一人いた。
部屋は凡そ二段ベットと四つのロッカーで埋め尽くされている。メガネが睨め付ける様に、ガキ大将が胡乱げに、小さいのは100睨んでジロジロと。世成は三年は同室だろう相手である可能性を思い浮かべて軽く手をあげ。
「俺、飛鶴世成。よろしく」
上段ベットの上でメガネが眼鏡のブリッチの部分を指二本で押し上げ。
「笹竜胆黎明。15歳だ。出身は中央本丸の出だが気にしなくて良い。難しいだろうけどね」
続いてその下のベットのガキ大将がホッとしたように。
「僕は三階菱三蔵。こちらこそよろしく。出身は第6衛戍府七区中層の出で歳は15だよ」
最後に小さいのが睨み上げて。
「俺は第10衛戍府十一区外層出身 の小乃字小三治だ。16だぞ。年上だぞ。敬え」
「俺の出身ってかお世話になってるのは第二衛戍府一区中層。年齢は17。勝ったな」
「ンな!!」
「はい俺のが年上」
「グ、ギギギギギ。よろしく、おねがい、します」
「いや……そんなガチで頭下げんでも」
「吐いた唾はナメねぇ主義だァッ……」
「筋の通しどこそこ?」
「あんだとォ……?!」
「はい俺年上」
「グギギギギ……」
世成は思った。『コイツおもろ』と。すげぇ顔で睨んでくるがチンチクリン過ぎてあんま怖く無い。
「飛鶴君も本を置いたら急いだ方がいいよ。この後は服やら何やら運ばないといけないから」
三階菱三蔵が少し困った様な顔で此方を伺う様に言った。
「OK急ぐ」
こうして世成の剣衛 祓滅兵学校生活が始まった。




