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飯の種

 洋風の館と言うには盆栽があったりと大正時代の和洋折衷とも少々違う雰囲気の部屋で、ツルツル頭にパーカーと着物にベルトを合わせた格好の世成(せな)は、偉そうと言うか実際にメッチャ偉い人と対面していた。

 軍服をピッチリ纏うのは折敷の副官である三文字(さんもじ)であり、此方の世界に不慣れな世成(せな)の世話をしてくれていた人でもある。非常に清潔感があり気の良い人だが目つきが鋭く慇懃な為に堅物の印象が強いイケおじだ。


「さて、では答えを聞こうか。飛鶴(とびつる)君」


 指を組み、所謂◯ンドウポーズで三文字(さんもじ)は問うた。グラサンはかけてない。


「あ、じゃあその侍っぽいの? になります。えっと確か刀剣、じゃなくて剣刀士?」

「ああ、うむ。よく決めたな。だが何故だ? 戦いを好む性分では無いと見受けたが」

「正直、今お世話になってるとこのトイレットペーパー硬すぎてケツが死ぬッス。めちゃくちゃ良い暮らしをさせて頂いてるのは重々承知なんですが……。

 確か三祇(さんぎ)のどれかに入隊出来れば此処と同じ生活が出来るんですよね」


 話を聞いていたとはいえ三文字(さんもじ)は余りの正直っぷりに思わず困った顔をしてしまう。

 今の生活は随分と配慮した物であり上等な生活だがそれで足らないと言う。それは話の限り理解出来る。またそれが永続のものではない事を理解しているのは良い事だ。そして生活を良くする為に入隊するのは最も理由としては頷ける。

 でもトイレットペーパーを理由にするのはちょっと止めて欲しい。もうちょっと、こう他に言いようがあるだろうと思う。お世話になってるから頑張りますまでは求めないが何かもうちょっと別の理由が欲しかった。


「……それだけか?」

「……切実なんです。正直。あと飯」

「それは、まぁ。うん。そうだな」


 世成(せな)は現代っ子である。この世界はポストアポカリプス的な世界であった。その為に市井の生活で不便が多い。また技術的には進んでいても元の世界の一般的な物品と比べて遥かに質が低い物しかなかった。特に食事と衛生面は厳しく他も挙げればキリが無いが細々と厳しい。

 兵士でさえ食事の質は士気に影響する。災害が起きた時に何故に風呂と言う大量の水と燃料を要する物が国税と将兵不断の努力によって設置されるか。大人であれば30年も前の生活を今更出来るかと言う話。と言うか全体的に見れば30年どころでは無いのだ。

 こんなん現代っ子じゃなくてもキツい。化け物を見て、それと戦う事を決意する。その程度には切実になる程。


「それにウンガイキョウを倒せばもしかしたら帰れるかもしれないでしょう?」


 世成(せな)の言葉に三文字(さんもじ)は曖昧な表情を浮かべざるおえなかった。

 その発言が唯の諦めの上の言葉だと分かっているからだ。人型化したモンスターは非常に珍しい存在でありまた強力。そして科学的にそう考えざるおえない異世界転移の事実。それが再び都合良く起こるとも思えない。

 目の前の青年はよしんば自分が強くなった上でウンガイキョウを見つけるまでは出来ても、ウンガイキョウを倒し元の世界に帰れる可能性が無い事を理解していると知るが故に。


「分かった。佩刀式の結果の確認の後になるが少なくとも三祇学校には斡旋しよう。技官殿が煩くなるだろうが……」

「……ア、ッスね」

「少し時間がかかる。それまでは待っていてくれ。あと技官殿が呼んでる」

「っス。失礼します」

「ああ、頑張ってく——あ」

「ん? どうしました?」

飛鶴(とびつる)君。後ろ」

「え、あ」


 三祇(さんぎ)とは生物という生物が変異し、妖と呼ばれるようになった怪物から人々を守り、また妖と対抗する為に設立された組織である。

 では何故に三祇(さんぎ)か。政治を担う玉吏、戦闘を担う剣衛、技術を担う鏡帯、この三つの柱を以てしてそう呼ぶのだ。

 今、両開きの扉の隙間から顔を覗かせる女性は鏡帯感応粒子技術開発局長。黙ってれば極めて色っぽい見てくれの隅立(すみたて)局長である。今は獲物を狙う獣の様な顔して舌舐めずりしてた。


「ぎやあああああああああああああああ!!」


 世成(せな)は思わず三文字(さんもじ)の座る椅子の後ろに逃げた。端的に言って丸刈りになった理由である。また下の毛以上の物までも狙われたのだ。


「その、技官殿。お手柔らかにしてやってはくれませんか」

「三文字大佐。しかし感応粒子と結合していない純細胞のサンプルは貴重です。粒子と細胞の結合プロセスを見ることが出来るのですから。それを思えば彼の毛も爪も体液までも値千金、いえ千金以上の価値がある隊員達の命を救う無限の可能性があるのですよ? 

 何をせずとも時間と共に自然に結合を深めていってしまっているのですから、出来ればギリギリまでサンプルを集めさせて頂きたいと考えていますわ。

 少なくとも三ヶ月は三祇(さんぎ)学校の新入生は受け付けていない筈です」

「……うぅむ。隊員の命を持ち出されてはな」


 三文字(さんもじ)は椅子の後ろの世成(せな)に向かって掌を立てて軽く頭を下げ。


「すまない」

「え?」

「頑張ってくれ」

「え?」


 ニッコニコの隅立(すみたて)局長がパンパンと手を叩くと白い和服を着た研究員の男達がガシっと世成(せな)の両腕を掴んだ。


「そうとなれば採集よ!!」

「いやあああああああああああああああ!!」


 こうして尊厳ないなった。

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