09
次の瞬間、鈍い音と軋む音を煌妃は感じた。鋭い爪が煌妃の背中の肉を抉ったのだ。何度もギシギシと硬いモノをひっかくような音が体全体に共鳴する。
一瞬にして、煌妃の着物が黒に変わった。
「うっあ”っ・・ごほっ。」
咳き込み煌妃の口からあふれ出したのは鮮やかな朱――。煌妃は肩で息をしながら、背中と繋がった爪から離れようと震える足で前に出る。
痛い。気を失いそうになるぐらい背中がズキンズキンと鼓動を打っている。まるで、背中に心の臓があるみたいだ。
くそっ、油断した。ダメ、気を失っちゃ・・いけない。立て!動け!苦痛に顔をゆがめながらも、心の中で何度も自分に言い聞かせる。
「おいっ、お前!」
『煌妃!』
煌妃は、苦痛に顔をゆがませて刀を構える。そしてゆっくりを呼吸を整えて、眉間に力を入れる。そうしないと気を失いそうだ。
次の瞬間、煌妃の刀が血鬼の手を貫いた。人の声ともとれるような悲痛な叫びが響く。突き刺された部分は、さっき倒した血鬼と同様に石化すると風化した。
「ホント、注意力散漫だった。ぐっげほっ・・くそ、血が・・・。」
「貴女・・大丈夫ですか?」
慌てて沖田が駆け寄ってくる。その様子を確認するように見ると、安心したのか弱々しい声で言った。
「よ・・かった・・。」
目の前が暗くなる。あぁ。眠い。あぁ、――寒い。
煌妃の体がゆっくりと崩れ落ちる。それを、支えるように沖田が抱き留めた。
「しっかりしてください!早く医師に見せなければ!」
「総司、お前はそいつを一旦、屋敷に運べ!」
「承知。」
沖田は自分の袴の裾を引き裂くと、煌妃の背中に強く押し付けた。
「・・・いつっ。」
うなりをあげた白空が、沖田の手にかみつく。
『煌妃にさわるな!!』
「・・大丈夫です。キミのご主人様を助けてあげますから。」
沖田は、苦笑しながら白空の頭をなでる。すると、白空は何かを悟ったかのかゆっくりと噛みついた手を離した。沖田の手にはくっきりと白空の歯形が残っていた。
しかし白空はそれを気にせず、心配そうに煌妃にすり寄る。
『ごめん、ボクが付いていたのにキミにケガをさせてしまった。やっぱり、煌妃がケガしたってばれたら彼らにお仕置きされるかなぁ・・。ねぇ・・煌妃ぃ・・。』
白空のくぅ~んっという悲しい鳴き声と共に、夜は更けていった。




