08
「「土方さん!」」
「あの男の傷は、私しか治せない。血鬼に喰われた場所から呪詛の浸食が始まる。・・・土方歳三、お前は仲間を見捨てるのか?」
『煌妃っ!やりすぎ、言い過ぎ!いい加減にしろ!このバカ娘!』
カッと見開いた、白空のエメラルドグリーンの瞳が金色に輝いた。それに気づいた煌妃は、タンっと後ろに飛び距離をとると、肩を震わせて涙目でキッと白空を睨みつけた。
「土方さん、何か様子がおかしいですね。」
「あぁ、それより今のうちに富岡を連れて行け。」
「はっ。」
「白空のっ、白空のばぁかぁーどうして、土方の味方なのぉ!白空は、私の味方じゃなきゃ駄目なのっ!しかも、そこっ!逃げちゃダメだって言ったのに!」
半泣き状態で尋常じゃない声がさっきまでの空気を壊す。ダンッダンッと足踏しながら、「うぇーん」となく姿はまるで駄々をこねている子供みたいだった。
『うるさいっ!後始末が大変になる!』
「ひどいよー、これも土方歳三のせいだぁ。私のモノ横取りするなんてぇー。」
「おいっなんの話だっ!」
「いつの間に、手を出してたんですかっ「総司っ!お前って野郎は。」冗談ですってば。それより、私たちには聴こえない何かがあるみたいですね。」
煌妃の瞳から今にも流れ落ちそうな涙を袖で拭うと刀を構えなおした。まさに、当事者たちが状況を知らない、修羅場――。
「もう殺す。」
「またですか、この雰囲気。前にもどこかで感じたことが「覚悟しろっもう、このせっうっぷ――。」」
沖田の呆れた呟きを遮り、煌妃が叫ぶ前に、白空はぴょんと飛んで煌妃の顔に張り付いた。
「ふぁにふんほ、ひゃひゅあ。」
「・・・なにかわかりませんが、自滅したみたいですね。」
「あぁ、一体何なんだ。」
コントなんてやってる場合じゃない!と、白空が顔に張り付いたまま、煌妃が叫んでいたのは誰も知らない。
発作的に湧き上がってくる感情を抑えることができなかった。それは、強いものに出会った時の武者震いと同じ。それは、"死"に直面した時の恐怖と同じ。そして、大切な人に裏切られた時のどうしようもない苛立ちと同じ。白空は、いつも隣にいてくれるって知っているのに、わかっているのに、心が言うことを聞いてくれなかった。私はこんな性格だっただろうか。たまに感じる違和感に不安を覚えるけど、今回は白空に感謝したいと思う。だって、あのまま雰囲気にのまれていたら、目の前の男たちを殺していた。
ー私が、罪を犯す前に彼らは止めてくれる。
―私が、道を外す前に彼らは教えてくれる。
―私は、"裏切り"を許さない。
―私は、"私自身"でなくなることを・・・
白空はゆっくりと煌妃の顔から剥がれおちた。タンっと地に着く足音が、再び戦闘の合図となる。
「少しだけ、寝ててくれれば――全てが終わるの。」
突き上げる剣先が、土方の頬をかすめる。次は殺気を帯びた紅の瞳が、沖田を捕えるとお腹にけりを一発くらわせる。うっと苦しい声と共に、沖田は片膝をついた。しかし、煌妃の攻撃は止まらない。今度はけりを入れた足を軸にして、今度は土方に回し蹴りを放った。
「甘い。」
土方は足首をつかむと力を込めた。だが、それは軸足を変えるだけ。効かないというように、煌妃は、地についている足に力を込め飛びあがり、身体を横に回転させた。
『煌妃!!』
白空が叫ぶと同時に、土方の背後に赤黒い大きな手が空中に突如出現した切れ目から土方をねらって、振りかざそうとしていた。煌妃は、とっさに土方を思いっきり手前に引っ張り、沖田の方へと押し出した。




