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紅の月 - 物語を紡ぐモノ -《 上弦の月 - 第一部 - 》  作者: ぼんぼり
第参夜

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「ごめんください。」


 沖田の声が屋内に響いた。その声に煌妃と花、杏は顔を見合わせて一度うなずく。煌妃はゆっくりと沖田の声がする方へ足を向ける。


「あっ!天城さん!寝ていなくても大丈夫なんですか?」


 パタパタと沖田さんが白空を抱きながら煌妃の元へ走ってきた。その後ろには、にっこり笑った藤堂さんもついてくる。


「傷、まだ痛む?」

「いいえ、お二人の治療が素晴らしくて随分と良くなりました。」

「では、ワタシたちは土方サマに天城サマのご報告をしてきマス。」


 花は、張り付けたような笑顔になって言った。目が全く笑ってない。怖すぎる。いつになく素っ気ない花に鳥肌が立った。何か怒ってる感じがするのだが・・・。


「それには及びません、私が話を聞くよう頼まれました。」


 沖田が、2人が去る前に言った。


「そうですか、では無理をしなければ、大丈夫でしょう、とお伝え下さい。天城様の回復力が化け物・・いえ、常人を上回っておられているので激しい運動をしなければ大丈夫です。」


 棘がある。杏、言葉に棘があるよ。これはやっぱり怒っているってこと?というか貶されている気がするのは勘違いじゃないよね!そんなことを思っていたとはつゆ知らず、杏は淡々とことを進める。


「それでは私たちは、荷解きがありますゆえ、失礼いたします。」

「あっ、お世話になりました。」

「ありがとうございました。」


 煌妃が言う前に、沖田がお礼を言った。そして、それに続くように煌妃が怪訝な表情を浮かべながらお礼を言う。そんな表情を花と杏は気づいていたが一度チラ見して境内へ足を向けた。その2人とすれ違いで原田と永倉が山門へ入って来た。しかし、2人の目線は、花と杏を追っている。どんだけ、女の子に飢えているのか、煌妃は呆れたようなまなざしを原田と永倉に送った。


「天城!!起きてて大丈夫なのか?」

「はい、永倉さん!もうすっかり!」


 2人から甘い香りがぷんぷんだよ。お菓子でも買ってきたのかな?そう思いながら、嗅覚を敏感にさせる。その匂いと混ざって微かに血の匂いも混ざっている。さっきまで斬り合いをしていたんだ、と煌妃に気付かさせるには十分だった。甘い香りから急に現実へと戻された気がした。そのとき、煌妃のすっかり発言に疑問を持った沖田が、言葉を付け足した。


「無理しないという条件でしょ?・・・あっ!原田さん!甘いものの匂いがする。」


 沖田は、きらきらと目を輝かせて原田に近づく。


「総司・・相変わらずだな。でも今回は、天城の見舞品だから駄目だぜ。」

「えー!ずるいですよ。私もお菓子欲しいです!」


 ほほをふくらませて、必死に原田さんに訴えていた。まるで子供みたい。体と中身があっていない感じがするんだけど・・・不思議な疑問を残しつつも、沖田の発言に煌妃は声を上げて笑った。


「あっはは、じゃ、一緒に食べましょう。沖田さん!」


 煌妃はにっこり笑って、だだをこねている沖田に向かっていった。これが母性というものなのだろうか。ちょっと違うか。


「優しいですね!天城さん。」


 案の定、沖田のきらきらした瞳と期待する声にまた笑いが込み上げた。


「もうっ・・ダメ。あっはは!沖田さん、面白すぎ。」


 そのとき、聞き慣れない男の声が聞こえた。


「天城とやらお前のことについて話がある。八木邸で土方さんが呼んでいる。」


 いつ来たのかわからないほど、静かにすごく礼儀正しい青年が煌妃に向かって言った。その青年は、とても落ち着きのある雰囲気で少し違和感を抱いた。これは多分あっている。


「・・斎藤・・一。」


 そして煌妃は、その違和感を確認するように指をさしながら、口に出してしまった。


「呼び捨てとは良い心がけだ。」


 眉間にしわを寄せて斎藤一は言った。煌妃は、急いで我に返ると慌てて誤魔化す。


「いやっえーっとすみません。ちょっと・・斎藤さんはオレらの業界じゃ有名で。」

「業界?」


 煌妃は斎藤の反応を見て、土方が何も話してないと推測した。そして、煌妃達が持っている斎藤一に関する情報も土方達は知らないかも知れない。そう考えると、斎藤が会津の隠密だっていう情報は伏せて、誤魔化す必要がある。


「業界・・業界・・えっと、京ではと言う話です、はい。」

「・・・・。」


 煌妃は、斎藤の微妙な反応を見て変な汗が出てくるのが分かった。それは、苦手という感じではなく、これ以上ここにいれば何かぼろが出てしまう。そんなことを予測させる空気だった。逃げたい。無理矢理、誤魔化した様子が煌妃の表情にばっちり出ていた。この時点で、煌妃の平常心は既に保たれていなかった。その様子を、助けるために沖田が言ってくれたのか定かではないが、そのこときは十分に助け船だった。

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