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紅の月 - 物語を紡ぐモノ -《 上弦の月 - 第一部 - 》  作者: ぼんぼり
第一夜

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02

「化け物。」

「何なんだ、アレは・・・。」

「あっありえない、いやっそんな――あぁ、酔いが回ったか・・・。」


 そこに到着したときには、もう既に手遅れだった。5,6人の男がその場に縫い止められているかのようにアレの前に立っていた。その中には、アレの姿を見て現実逃避する者や震えている者もいる。明らかに目の焦点が合ってない。


 当然だろう。アレは、刃物のようにとがった長い爪、太く鋭い牙、そして目が合ったものすべてを射抜くような鋭い金色の瞳。吐く息は、食べ物が腐ったような臭い。この世の常識は通用しないほど現実離れしていて、漠然とどうすればいいのか分からない恐怖があるのだから。


「白空、ドキドキする。想定していたより人が多い。もうーー。」


 次に続くはずの言葉を急いで飲み込んだ。その理由は、自分自身がよく知っている。その言葉を言ってしまえば、すべてがなかったことになるということを。そして、その言葉をいった未来がどんなものになるかも私は知っていた。やっぱり、”彼ら”が伝えてくれた通りだった。


 以前、追い詰めた時よりも、目の前にいるアレは、闇を纏った塊と感じるぐらい巨大になっていた。この大きさまでになると、人では誤魔化しきれない。何人その爪で貫いたのだろうか、そして何人喰らったのか――。


 また、ここで骨が砕ける音をまた聞くのだろうか。あの悲痛な最後と共に。それともいち早く終止符を打てばいいなら、私は耳を両手で覆い、目を閉じればいい。キミは、それを”残酷”だと言うだろうか。


 想定していないことが起きると私は俯瞰してみる性格らしい。全く自分事とは思えない。ここにたっているのは別の誰かなのではないだろうか。


「だから、頭は冷静に観察してるのか。」

『ネガティブモードに入ってる感じ?それとも、帰りたいって?』

「そうじゃない!てっちゃんに怒られる。ただ・・・。」


 この手は人の穢れに染まることはない。だけど、心は穢れに染まっているだろう。心の痛みを都合のいいように見送ってきたこともある。


「人の命の重さって何だろうね。」


 私は、偽善者であり弱虫だ。戦う勇気さえ持ち合わせていないのに、戦おうと足掻く。そして、真実を見て自己満足程度に嘆くのだ。自分がここにいる意味を問いながら、心を偽りで覆い隠す。アレと戦える力を持っているのに、アレを倒せる術を持っているのに、たくさんの”世界”を知る自分は小さな灯をあっさり見捨てることができるのだ。


 何が、「罪を購う」だ。

 何が、「存在理由」だ。

 何が――・・・


 何度も自分に問いかけて、何度も嘆いて、闇に落ちる。私は、自分自身が嫌いだ。現実を見ていないのは私も一緒。だからといってどうしようもできない。否、その覚悟がない。

 私はこの状況を乗り越える最善の策(逃げ道)を探していた。しかし、白空は私の瞳に宿る"迷い"を見逃しはしない。


『ねぇ、煌妃・・・キミが本当は強いこと、己自身と対峙できること知ってる。でもね、命の重さの重圧に耐えられなくてキミが、それから逃げようとするのは強さじゃない。ただの逃げだよ。震えてても恐怖を抱こうと今、都合のいい理由をつけて真実だと思いこみ目をつぶることはしちゃいけない。キミはこの現実と全ての真実を見る義務がある。だからと言って、キミを責めようとは思っていないし、崩れそうになったら頼ればいい。つらくなったら大声で泣いたっていいんだ。どんなときもボクが傍にいるから。まだ、”始まり”なんだ。キミの小さな両肩に、”世界”の行く末を全てかけようなんて誰も思っていない。キミを支える為に、共に分かち合うためにボクらは存在するんだ。だから煌妃、何をやっても心が後悔するのなら精一杯足掻いて、そしたら、違う未来が開けるかもしれないだろ。何もしないで後悔するのと何かをして後悔するのでは、全く違うんだ。さぁ、一緒に”世界”の先へ行こうよ、煌妃。』


 しっかりと強い光を宿した白空の瞳と声が全身を廻る。私の表情に満足したのか白空が頬を優しくなでた。その優しさに、にやけながらも視線をアレと対峙している男たちに映す。自分でもわかる。心が暖かい。白空は自分の不安を、駄目な部分を見てくれる。そして、その部分と見つめ合う勇気をくれる。もう失いたくないから、だから私はこの気持ちと向き合わなければならない。


「ホント、最低。自分自身に反吐がでる。行動にしないとなにも変わらないのに、でも次に進む”勇気”の先が怖い。・・・みんな一緒なのにね。」


 私が迷っている間にも眼下では、血鬼と一戦交えている彼らが居る。

 鋭い爪で地を抉り、獲物を狙う。人の彼らは、それから逃れるのに精一杯なのだろう。ついに、黒く沈んだ赤が血鬼に歓喜の声を与えていた。重低音で響く声は、空気を震わせるほどに空気の厚みを感じさせた。


「後始末するのにやるべきことが多すぎる。」

『また、そういうこと言う!煌妃!刀を鞘から抜いて、さっさと屋根から降りる!ほらっ!』


 その時タイミングよく嫌な声が聞こえた。

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