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紅の月 - 物語を紡ぐモノ -《 上弦の月 - 第一部 - 》  作者: ぼんぼり
第弐夜

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17/30

16

「話をまとめると、人斬りとして手配書が出来たわけは、ちょうど血鬼って言う化け物に人が殺されたところに白狼が出くわし、その血鬼という化け物を斬り殺したからそれを目撃した人が人斬りと勘違いしたってこと?」


 原田よりも少し若い青年こと藤堂平助が、真剣に聞いていた様子で話をまとめ始めた。土方はどこまで話すつもりなのだろう。この話は『手配書』に限った話だ。煌妃は余計なことを話すまいと土方の動向を静かに見守っていた。


「そして昨日はその現場に見回り当番だった奴らが出くわしたってことか・・・。」

「いくらなんでも、信じられねぇーや。そんな夢のような話。」


 両腕を頭の後ろに回しながら、原田が言った。それを見て、煌妃はだろうなと相づちを打つ。普通の人間に話しても信じる訳ない。なぜなら、いきなり“化け物”が・・・とか実は、白狼は人斬りじゃなかったなどタイミング良すぎだし、常識離れしすぎだと思う。至極まっとうな意見だ。


「だけど、どうして他の隊士がこのこと知らないんじゃ?わしら、総司に呼ばれるまで化け物の話など知らなかったぞ。。」


 一番の年長者らしき人こと井上源三郎がゆっくりと落ち着きある口調で話した。そうそう、そうだよね。気になるよね。


「それは、昨夜の記憶を消したかららしい。こいつの仲間が、昨夜のうちに薬を盛ったと聞いている。」

「そんなこと出来るはずがなだろ!じゃ、どうして2人は記憶があるんだ?」


 おいおい冗談だろといわんばかりの顔をした無精ひげの男――永倉新八が言った。しかし「薬を盛った」と言葉を発したとたん一瞬で瞬間空気が張り詰めた。少なからず、警戒していた証拠である。


「土方さんと私には気配で気づかれそうで無理だったらしいですよ。白と黒のまだらの可愛い子猫でした。」

「子猫!!?」


 えへへと笑う沖田とは真逆に永倉、原田、藤堂の声が重なった。沖田は独り言のように、これぐらいの大きさで目がくりくりしててと白空の様子を活き活きしながら語っていた。どうやら気に入ってしまったらしい。まぁ、分からなくない。実際のところ、本当に可愛い。毛並みはふわふわしているし、喉を撫でればゴロゴロ言いながら甘えてくれる。あと数年もすれは成獣になるのが惜しいぐらいだ。


「猫が!!?総司、ふざけるのにも大概にしろよ!」

「永倉さん酷いです。ふざけてないですよ。至ってまじめです。」


 ふんっと沖田は鼻息荒くしながら永倉に鬼気迫るように、白空のすばらしさについてまた語っていた。かなり気に入ったみたい。


「いや、永倉くん。伝書鳩の例もある。しつけがしっかりしていれば、もしかしたら・・・。」

「山南さん、それは飛躍しすぎだと思うぞ。伝書鳩の例もあるのはわかるが、猫だぞ、犬でもなく猫。」


 ん?論点ずれてないだろうか。そう思っている煌妃の近くでまだ沖田が永倉に食いかかっていた。これはしばらくかかりそうだと煌妃は正座から足を崩し、この場が落ち着くまで様子を見守ることを決めた。まさか、ここで推しの力を見ようとは想像もしていなかったけど。


「随分と余裕だな。」

「だって、コレ長引きそうでしょ?それに足しびれるのやだ。」

「・・・そうかよ。」


 あれから半刻。沖田に絡まれている永倉以外はいったん頭の整理ができたのか、二人の様子を伺っていた。これは、土方さんが切り出すのを待っているのかもしれない。


「もう、しょうがないなぁ。動物が従うってとこ見せれば信じてもらえますよね?今、ちょうどそこにいる猫とか。」


 煌妃はスクッと立って戸を開けると縁側に出る。そして、ちょうど中庭を横切ろうとしていた三毛猫と目が合った。三毛猫は前足を上げた状態で固まっていた。様子をうかがっているのかはたまた何かの力が働いて動けないのか、誰かののどがゴクリと鳴った。


「その場で3回跳んだあと、私のところまでおいで。」


 まだ目の前の三毛猫は同じ格好で固まっている。三毛猫も混乱しているみたい。否、逃げたくても逃げられないってところかな。動物の本能で気づいているのかもしれない。気絶する前にどうにかしないと。煌妃は右指でパチンパチンと2回鳴らすと、突然金縛りから放たれたように素早く3回跳びあがると、煌妃の足元までかけてきた。さっきまで完全に固まっていたのが噓のようーー。


「いいこだ。ありがとう。」

「こりゃあ、驚いた。」


 三毛猫を抱き上げると部屋の中へと足を運び、ピシリっと障子戸をしめる。しかし、少なからず三毛猫は少し怯えていたが、煌妃は気にせず話を進めた。


「とまぁ、こう言う感じなんですよね。」


 少しおどけて見せて、煌妃はにっこり笑った。そして、この行動には、誰も文句なんて言えないだろうという意味も含ませる。すると、すぐ我に返った近藤が心配そうな声で呟いた。


「歳。」

「近藤さん、これは、好機だ。こいつはこれから役に立つ。」


 真剣な声で、土方が近藤に言った。それを近藤は、否定はしなかったが何か引っかかる部分がまだ残っているような表情をしていた。それを代弁するかのように、山南が口を開いた。


「土方くん、私は女子を入隊させることは反対だ。」

「そうだ。そのことについては、山南さんと同意見だ。」


 山南の言葉にかぶせるように近藤も言った。土方が次の言葉を言う前に煌妃は水を差すように溜息を漏らした。

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