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「あぁ・・すごい、驚いた。それにしても、随分と華奢な野郎だな。」
「一応、それ褒め言葉として受け取っておく。」
それは本当に女だし。筋力もムキムキじゃない。程よい脂肪ついてるし。それでも、沖田と戦って互角だったとか、化け物倒したとか、言ってやろうかと不穏な空気が煌妃を取り巻く。だんだんと戦闘モードに入っていく煌妃に気づいたのか土方からあきれたようなため息が聞こえた。
「さっそくお前は――・・今日からオレの小姓として入隊することになった。白狼だ。」
「はぁぁぁぁ!!」
なぜか、煌妃の叫びが響く。どちらに驚いたのかわからないぐらい他の人たちも狼狽していた。しかしその中でただ一人、沖田だけがケラケラ笑っていた。煌妃は、瞳を大きく見開きながら瞳を泳がせるほど、さっきの土方の発言に必死に抵抗していた。もちろん、後ろには"気持ち"的にはと言葉を補うのが正しいのかもしれないが。
「土方さん、最高ですよ。これでは、誰でも驚きますって。」
「昨日、世話になった人ということで聞いていたが、白狼とは本当か?歳。」
「あぁ、間違いない。そうだな、総司。」
「えぇ、昨日までは。」
「しかし手配書とは、随分と姿見が違うようだが・・。」
煌妃の叫びを無視して、落ち着いた口調でえくぼの男が切り出してきた。再びあの手配書だ。案の定ムスッとした表情に沖田は、再び笑っていた。一言一言に表情が次々変わる煌妃の表情が、どうも沖田の笑いの壺を幾度となく突っつくらしい。
「確かに、いくらか違うところがあるのは仕方がないが、こいつは全然違う。」
「手配書に書いてあるのが夜の姿でこれが昼間の姿ってことかな。あんな目立つ格好で昼間歩いていたらここにいるよー!って宣伝しているようなものだし。」
「だってよ・・「そんなにお気に召さなかったら、白狼になりましょうか?1つ丸薬残ってるし。」えっ?」
思いもよらない答えだったのか、原田は肩をびくっと震わせた。煌妃は立ち上がると、部屋の中に座っている者たちの顔を一通り見て、ゆっくりと原田の方へ顔を向けた。
「アナタ、原田左之助、でこっちが藤堂平助、永倉新八。なるほどね。」
やはり大きな手札を手に入れたようだ、と土方を左側の口角をあげる。試衛館側の人間にしか知らせないとは言っていたが、本当に"あっち側"の人間はいない。そろそろ時期なのかも。煌妃は舌をちらっと少し出すとゆっくりと上唇をなめた。
ーー面白くなってきた。
「歳!流石に罪人を入隊させるのは出来ないぞ。」
「こいつの情報網は今の俺たちには必要だ。」
「そうそう、必要、必要だよね。」
そう軽く言いながら、煌妃は右耳の裏をスッとなぞり耳たぶの裏につけていたものを取ると、それに覆いかぶさっていたものを外して飲み込んだ。そうして、原田の顔を覗き込むように近付ける。誰かが自分の名を呼びつける声が聞こえたが気にしない。
「おっいっ。」
あと数少しでくっつきそうなぐらいで止めると、原田の顔を両手でがっちり固定し目線をしっかり合わせた。
「普通、ここまではやらないんだけど、面白そうだからさ。よーく、見ててね。」
瞳を閉じ、再び開けば紅を宿した瞳――。深く息を吸い、ゆっくりと吐き出せば、黒を宿した髪は銀へと変わっていった。口をパクパク、金魚のように動かしている原田を見て、満足した煌妃は両手を離すと、全員が見える位置へと移動した。
「はじめまして、壬生浪士組――試衛館一派のみなさん。私、白狼と申します。以後、お見知りおきを。」
「こんなことが――。」
「アナタが見てきたものがすべてだと思わないで。山南さん。時に、常識を超えたものが現実には起こりうるものよ。」
そこを発見した時がおもしろいんじゃない、と言わんばかりに勝ち誇った態度をとった。腰に手を当てると、一瞬のうちにさっきまでの黒髪長髪の黒目に戻った。丸薬一粒だとこんなもんか。
「念のため言っておくけど、妖怪とか物の怪とかの類じゃないからね。しかも、正真正銘のお・ん・な!わかった?」
「単純なやつ。」
呆れたように土方が言う。煌妃は、そんな土方の横に座り、『あの手配書が許せない』と言い放った。土方は深いため息をつきつつも、事の次第を話すことを決めた。




