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「但し、さっきも言ったように暗殺の命令は受けない。監察・密偵なら受けます。その代わり、あなたが知りたい情報は絶対的なモノであることを約束する。」
「それで、中立だといえるのか。」
「流石、土方歳三。情報通りだわ。さっきも言ったように、血鬼がねらっているのは時代の流れの中心にいる者、だとすると必ずここにいる誰かと関わるはず。だって、天子様とやらのためにここを――京を守るのでしょう?だから、その誰かが死なないように血鬼から助ける。だけど、あなたたちがその人を罰すると言うのなら何も言わない。手助けもしない。」
これでどうよ、と言わんばかりに勝ち誇った表情で土方を見た。その表情に、土方は口角をあげ、何かを決意したようだった。人を引きつけ、魅入らせる。これが、時の流れを変えるモノ――。
「なるほどな・・・よし、決めた。近藤さんには後で詳しく話しておこう。俺は、お前を利用する。いいな、白狼!」
「お互い様でしょ。土方さん。一応突っ込んでおくけど、白狼じゃなくて朔って呼んでください。」
「お前は、男装してここで働くことにする。白狼としての実績もある、そこらの女よりも強いだろう?それに、その体じゃ、心配することはないしな。」
「話を聞いてらぁ、言いたいこと言いやがって!そりゃあ、男と変わらないでしょうけど、この体じゃ!でも、お前に言われたくないっ!!」
「このことは近藤さんと総司・・試衛館側の連中にしか話さないこととする。」
煌妃の「無視かよ」という突っ込みは、見事無視された。抑えきれない怒りが、拳となって今にも土方に向かって飛び出そうとしていた。だが、背中の傷を考えると煌妃はなかなか前に進めず、無理やり抑え込もうと下唇を噛みしめた。
くそぉー、この女顔めっ!
「男装するのはいいけど、ということは、契約するってことだよね?」
「聞いてなかったのか?」
「聞いてたよ!アンタ、ホント不愉快な男だな。」
むすっとした煌妃は、頬を膨らませてキッと土方を睨みつけた。それと裏腹に、煌妃の目の前には、新しい玩具を見つけた子供のような表情を浮かべて、煌妃を見下ろす土方がいた。
すこぶる腹が立つ、えぇ、かなり。ここにきて1日も経っていないのに、イライラが増量するばかりだ。まぁ、ほとんどの原因が目の前にいる男な気もするけど・・否、99%、コイツのせいだ。断言できる。
そんな煌妃の感情とは裏腹に目の前にいる土方は、本当はまだ子供なのかもって思わせるぐらい楽しそうだった。
「・・ってこんな子供がいたら気持ち悪いか。それよりも、誰と契約しますか?」
「それは、また後だ。総司!!こい!!」
煌妃はきょとんとして土方を見つめた。すると庭の方から、沖田の面倒そうな声が聞こえた。
「はぁ、何ですか?土方さん。せっかく、遊んでたのに。」
「どうせ聞き耳立ててだろう。総司、男物の着物を調達してこい。それと、永倉、原田、平助、斎藤、源さんと山南さんを近藤さんの部屋に集めろ。」
「ばれてましたか。早速持ってきますね。」
ニコニコしながら、沖田は言った。沖田の胸に抱かれていた白空は、ぴょんと煌妃の前に降り立ち、頬をすり寄せてきた。上目遣いで見上げる白空があざと可愛いすぎる。
『契約することになったの?』
「しばらく・・ね。白空、隠れ里に行って空也呼んできてもらえる?これ渡せばいいから。」
『了!すぐ戻るからおとなしくしてるんだよ。』
幼子を諭すように言う白空に、軽い返事をしながら皇妃は首につけていたペンダントを白空の首にかけた。それから、入れ替わるように沖田が淡い黄緑の着物一式もって戻ってきた。煌妃はそれを受け取ると隣の部屋に移動して、慣れた手つきで、沖田からもらった着物を着込んでいく。
後で空也にも状況説明しなければならい。空也とは、忍の一族の頭である。ある人の知り合いの紹介で、会ってから随分とお世話になっている。怒られるだろうなぁと溜息をつきながら、憂鬱になっていく。気落ちしたまま最後に腰帯を結んだところで、土方の用事を済ませた沖田が遠慮がちに声をかけてきた。
「ちゃんと着られました?用意ができ次第、近藤さんの所へ案内したいのですが?」
「はい。ちょっと待っていてください。あとは、髪を結うだけですから。」
煌妃は、よしっと小声で気合いを入れると、障子戸をゆっくり開けた。
「沖田さん、お待たせしました。あのう、何か・・?」
何も言わず眉間にしわを寄せた沖田の表情が目に映った。着付けを間違えたのだろうか。いや、そんなはずはない。いつもの、昼間と同じ恰好だし。もし間違えていたらどんな生き恥をさらしていたんだろうか。そうであってほしくない。
「あのうっ、どこか間違えていましたか。」
その言葉にはっとしたのか、沖田の目はみるみるうちにまん丸くなって、びっくりした表情に変わった。
「何か言ってください。もしかして、掛け間違ったりとか・・。」
すると次は、なぜか照れたように頬をポリポリかいて困ったように返事をした。何を困っているのか知らないが、沖田の反応に煌妃は困惑していた。
「あっ、えーっと間違えてはいなんですか・・参ったなぁ。」
「なにがっ!」
「男にしては、美人さんなんですよ。そんな見目だと色々厄介なことが起こりそうだなぁっと・・。」
「はぁ?」
だからなにが、と心の中で突っ込みを入れる。でも、着付けがおかしくなかったということ良しとしよう。ギシギシと廊下を歩く音が規則正しく聴こえる。そして、小鳥のさえずり。少し冷えた風が頬を優しく触れる。大きく息を吸い込むと、気分をすっきりさせるような新しい空気が身体の中を駆け巡る。
「どーしたものか。」
「えっと、何かいいましたか。」
そう煌妃がポツリと呟くと前を歩く沖田が、軽く振り向いた。その表情が、あまりにも可愛いので煌妃はクスリっと笑みをこぼして言った。
「・・・いいえ、なにも。」
この雰囲気が好き。この空気が好き。なんて暖かい――。




