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タッタッタと規則正しいリズムで誰かが走ってくる音がしたかと思うと、豪快にガラッと障子戸があいた。
「あーいました、いました。やっと見つけましたよ。あれ?土方さん、ダメですよ。あんまりきれいだからって襲うなんて。」
「どういう意味だ。総司!」
「あらまぁ、沖田さん。おはようございます。昨夜はどうもぉーこういう意味だと思いますよ。」
煌妃はクスッと笑って、顎にある土方の手を指さした。土方は、気まずそうな顔を一瞬したかと思うと、ふんっと言って手を離す。照れているのか呆れているのか、やっぱり面白いな。この人は。
「おはようございます。えーっと。」
「あっ、昼間の名前は、朔と申します。」
ニッと口角をあげた煌妃に白空は、「やれやれ」とため息をついた。
「総司、お前はこの姿何ともおもわねぇーのか?」
「ん~いやだなぁ~土方さんは。あの身のこなし、普通の人ではないと思いますしそれに、どんな姿だろうと朔さんは朔さんじゃないですか。」
土方と別な反応を見せた沖田に、煌妃は少なからず好感を持っていた。これは口説かれているのだろうか。目の前にいる男のさわやかな笑顔にこのセリフ。最近よく見かける土佐弁の男にそっくりだ。
「歯の浮くようなセリフありがとう。」
沖田は普通の人とは違う視点と"見る"目を持っている。ここの人間では珍しい部類。
「流石、沖田総司。この性格であの剣筋、なかなか侮れない人。それに、ほわほわした感じに白空も懐くわけだ。」
『煌妃!!』
慌てて鳴く白空に、煌妃は悪戯な笑顔を見せて右手を左右に振っていた。口元は、バイバイと動いている。
「あっははは、おもしろい人ですね。その猫、白空というんですか。」
アナタほどではありませんが、とか。
「はい。沖田さん、白空を外で遊ばせてもらえますか?」
ここにアナタがいるとちょっと面倒だから、とか。
「いいんですか?じゃ、失礼しますね。」
手っ取り早くいなくなるでしょ、とか。
「はい、お願いします。」
全て心の内に留めておく。そんな腹黒さに気付いているのかいないのか、白空は頬をひきつらせていた。
『煌妃・・・何かあったら呼んでね。』
どこか心配そうに言った白空に笑顔で大丈夫、と言って沖田のところへ促した。沖田と白空が部屋を出て行ったのを確認すると、チクリと痛む背中に耐えながら土方の前にきちんと正座して突拍子もないことを言ってみた。
「土方さん、わたしと契約しませんか?」
「は?」
目の前にいる男はこれでもかというぐらい目を見開いていた。顔の形が整っているほど、この場面でのこの表情は、とてつもなく滑稽すぎる。心が震えるほどの笑いがあふれだし、満面の笑みを零しながら「唐突ですけど」、と付け足した。
「普通は近藤さんに話した方が良いと思うんですが、でもこういう事は土方さんに言うのが適材適所かなぁって。」
「そういうことか。」
「話が分かる人で助かる。まずは、二分化している状況をどうにかしないとね。それに、今のままでは武士になること難しいでしょ。大坂のアレは流石に驚いたわ。」
「そこまで知っているのか・・あぁ流石、世間を騒がす白狼というわけだ。昨夜のなりといいお前には何かあるんだな。」
「何かあるって・・まぁ、あながち間違いじゃないですけど。"彼ら"のことは自信がなきゃ言いませんし、ここに居ようとは思いません。それに個人的にあなた達側よりも関わりたくないですし。」
土方が、困惑しているのにも関わらず煌妃は話を進めた。なぜなら、この男なら状況をすぐに、そう確信があったからだ。最近、色々調査して解ったことだが、土方歳三という存在は浪士組にとても重要な核となっている。そして、この組織のためなら何でもやる男だ。そういうと語弊があるかもしれないが、"戦略"を立てることに長けている。まだまだ甘いところもあるけれど【壬生浪士組局長 近藤勇】の夢を叶えるなら何でも利用するだろう。そのぐらいの度胸と覚悟を決められる男だ。過剰評価しすぎかもしれないけど。
さて、どうしたものかと首をかしげながら、煌妃は土方を仰ぎ見た。そして、相も変わらず何を疑っている表情している土方にため息をついた。あーあ、どんな形でも関わってしまうなんて。どんな縁だよ。
「はぁ・・・。」
浪士組という集団に、なるべく関わらないようにしてきたつもりだった。その核となっている人物に出会うことは、面倒事が進んでやってくることに間違いない。それでも、その先の未来へ少しでも可能性があるならば・・・。出会うべくして出会ってしまったのなら、利用される前に利用する。それが、あの日誓った自分の決意なのだから。
「一応、忍という部類には入ると思います。しかし、普通の忍とは違います。だからと言ってお庭番でもないです。・・・暗殺は嫌いだから請け負いません。"人"を殺めるのってただならぬ覚悟が必要でしょ?私、臆病者だからできないわ。」
「ん?」
何に引っかかったのかは知らないが、土方のこめかみがピクリと動いた。非常に、失礼極まりない。
「私の一族は、古代から続く忍の一族で、このことを知っているのはごくわずか。今では伝説や迷信などと各地で語り継がれている形となっています。ごく一部では時の“調停者”と語られていることもしばしば。」
「調停者?」
煌妃は、一度目を閉じてゆっくりと昔話を語るように言葉を紡いでいった。ただそれを話すことで、彼らを守ると言うことを心に誓いたかったのだ。もう、二度と過ちを犯したくない、その一心で――。
*プチメモ
煌妃=白狼=朔 同一人物。




