第2話 無能ぶり
領地経営を始めて1日で人口の8割が領地から消えた。
まず、あの奥方が変な噂を流した。
それはガルフ領主が気がふれてしまったという内容であった。
奥方だけならなんとか嘘だろと言えたが、他の代理領主達が口をそろえたので、まさかの民が別領地へと引っ越しを始めたのだ。
あの奥方は彼等に金貨を握らせて、自分達の領地に歓迎したそうだ。
よって、領地には人口が現在20人足らずとなっている。
冒険者ギルドには冒険者はおらず、ギルド長もいない。
酒場には酒場の亭主もいない。
畑には農夫がおらず、誰も働いていない。
残った20人は領地の守備兵とただの孤児達ばかり。
さらに出て行った人達は武具を持ち去って、今この領地には武具がほぼ無い。
15人の子供達と、3名の兵士。
2名は執事長とメイド長。
広大な土地に、今、この領地は滅ぼうとしている。
「ガルフ様、問題が」
「な、なんですか」
「建物の老朽化により、このまま放っておくと崩壊してしまうとのことです」
リンデンバルクが領主の屋敷でそう告げた。
次に走ってやって来たのはゼーニャメイド長だった。
「ガルフ様! 食料が盗まれました。後1週間後くらいしかもちません!」
「なんだってええええ」
ガルフの脳内は少しスパーク状態に陥るが。
「交易で何とかならないだろうか」
「ですが、現地の品々は隣の領地に行ってしまわれた民が持ち運んでしまい、この領地には何もありません」
「ええええええ」
「ガルフ様、なんとか知恵を絞るのです」
リンデンバルク執事長が無茶な事を呟くと。
「あ、ありました。方法が」
★
ガルフは老朽化した建物を見ていた。
「てかほとんどだろ」
「はい……」
「父上は何をなさっていたのだ」
この領地にある建物すべてが老朽化していた。
今にも倒れてしまいそうらしい。
理由は明確、隣の領地に引っ越していった奴等は壁などに使われていた鉱物をはがして資産にしたのだ。
なので無事だったのは孤児院と領主の館と、後は城壁ぐらいだろう。
「全部リサイクルしちゃおう」
「は?」
「意味が」
2人の友はそう呟いたが。
「あまり聞かないでくれ、俺も良く分かってないんだよ」
【孤児院と領主の館以外をリサイクルしますか?】
「ああ、頼むよ」
次の瞬間。
一時風が停止したかと思ったら。
この世界から忽然と建物が全て消滅した。
残されているのは領主の館と孤児院だけであった。
「は、えええええ」
「どゆことおおおお」
2人の友が狼狽していると。
ガルフは事の事情説明を始めた。
2人が頷いてくれるまでじっくりと考えて。
手の平に10枚のガチャ券が握られている事に気付いた。
「ふぅ、これを破れば良いんだよな」
【はい】
無機質な声で神声が呟いた。
目の前に10個の大きな箱が出現した。
地面に横たえられている10個の箱にはランクが表示されている。
Sが5個
Aが3個
Bが2個
Sが一番いい奴なのだから、結構運が良かったのかもしれない。
ドキドキして1個ずつ箱を開ける事にした。
最初はBを2個開く事にした。
==B:100人分食料
==B:100人分食料
==A:炎のダンジョン
==A:無限ダンジョン
==A:アイテムボックス
==S:ミヤモト
==S:アキレスドン
==S:パトロシア
==S:アーザー
==S:ウィンダム
最初の100人分の食料×2は物凄く助かった。
この領地には20人足らずしかいなかったので、非常に助かる。
次に炎のダンジョンと無限ダンジョンだが。地響きが起こったと思ったら、勝手に領地の城壁の内側近くに二つの塔が出来上がっていた。
中に入ればきっと地下深く潜っていくダンジョンがあるのだろう。
この領地の名産地として活用出来れば良さそうだ。
アイテムボックスについては、物凄いレアなので、大事に扱う事にした。
問題は。
残りのS級の5名。
彼等はこちらを見て片膝をついている。
まるで王に対する態度に。
「俺はそんなに偉くないよ」
1人の人間がこちらを見て呟いた。
「いえ、俺はミヤモトという元剣豪です。国と言う国を周り、強き剣豪を殺しつくしました。恐らく何百年も前の話なのでしょうね」
「み、ミヤモトだって、それは聞いた事がある。異世界から来た1人の剣豪。彼はその武勇でもって勇者と魔王を無差別に何人も殺したと」
「ふ」
そう言ったのは、執事長のリンデンバルクであった。
「み、ミヤモトさん、冒険者ギルドのマスターになってください」
「ふ、任せろ」
「ただ。まだ無いので、ダンジョン攻略をしばらく頑張っていただければ」
「ふ、任せな」
それくらい強いなら、冒険者ギルドマスターに任せる事だって出来るはずだ。
そんな無能ぶりな考え方は意外と功を称していた。
「閣下!」
「いえ、閣下ではありません」
「わしはアキレスドン、ドワーフ族の伝説の老師の一人だ。鉱山や鍛冶仕事なら任せろ」
「ちょっと待ってください、その人1000年前の伝説の人です。国を何度も滅ぼした事のある人で、間違ってゴーレムを作って爆発させたとか」
「……」
ガルフは口をぽかーと開けていたが。
「心配するな、それは幼少期の話だ。失敗はしない」
「あはは、本当にお願いしますよ」
これもリンデンバルク執事の発言であった。
次が無口な女性。エルフ族のようだけど。
「うちはパトロシア」
「たぶん、彼女は魔王を討伐した事がある伝説の乙女。世界樹を創作する事が出来るそうで」
「あ、ならお願いします」
「任せてね」
そう言って、パトロシアは近くの森の中へと消えていった。
城壁の内側には森がある。
もちろん草原もあるし、岩山もある。
本当にこの領地は資源に溢れている。
1人の少年がこちらをじっと見ている。
名前をアーザー
「僕は伝説の人間王アーザー」
「情報がありません」
「私もです」
「大丈夫だよ、ここにいる誰よりも強いから」
アーザーは気付けば隣にいた。
しかも剣先をガルフの首に当てている。
何もかも見えなかった。
「ね?」
「き、君は将軍になってくれ」
「任せてね」
アーザーは軽装備でありながら、だぶだぶの衣服をさせていた。
白と青の恰好はさながら、小さいイタズラ小僧のようだった。
「おいらはウィンダムだよー」
「ノーム族ですね」
「うんだ。伝説の建築家または鍛冶屋さ、そこのアキレスドンより後の伝説だけどね」
「それなら」
「建物作るんだろう? 人ではおいらだけでいい、ざっと家とか冒険者ギルドとか建てるから任せてちょ」
「頼むよ」
ガルフは5人の伝説級の人々を見回した。
ミヤモトさんはゆったりとした衣服を着ている。
あまり見た事のない布で作られた衣服。
髪の毛はヒモでしばっており。
異世界日本から来たとされる侍を彷彿とさせる。
侍が来ていた服装で浴衣と言う物があったはずだけど、それなのかもしれない。
アキレスドンさんは鎧姿でドワーフなので、ごってりとしている。
パトロシアさんは森の妖精のような衣服をしている。緑一色だった。
アーザーは先程述べた格好をしており。ウィンダムさんはどこぞの蛮族のような衣服をしている。
かくして、また1から領地を経営しなおす事を始める事となった。