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風呂ということはどこかに熱源があるのか?
風呂場の外側が見える位置にある窓から外の様子を覗いてみたが、外には給湯器は置いていない。
日本とは別のテクノロジーがあるのか。
あの胡散臭い神が用意した別格の対応なのかわからないが、あるものはありごたく使わせてもらうのが俺だ。
こんなわけのわからない世界……遠慮していたらのたれ死んでしまいそうだからな。
死ぬならちゃんと自分の生まれた国でといえば時代錯誤と鼻で笑わるかもしれないが、俺はそういう考えだ。
村の建物はコンクリートではなく木造建築だし、風呂も檜造りっぽい。どこまでの生活水準なのか測りかねるが、村人たちを見るに、特に生きるのに困るということはないんだろうなと感じている。
日本で言うところの限界集落って感じだろうかと当てはめてみる。村の人間は老人ばかりというよりかは子供と、大人の配分が絶妙で限界集落というよりはどこか計算された人員配置という雰囲気だ。
なんだろうな、寄せ集めの人間たちだけで出来ている割にはうまく計算されている、というか……
男女比率もほとんど五分五分のようだし。
思い起こしてみれば皆妻帯者だった気がしてくる。
考えをまとめながらわっしゃわっしゃと身体と頭を手早く洗い終えた。
髪には大量のワックスを塗るながら生前の習わしだったが、ご丁寧にそれも忠実に再現されているため、髪は二度洗いを必要とした。
「ふぃー、生きかえる~」
死んでからこのかた風呂とは無縁だった。
乾燥していた皮膚に熱い湯が染み込んできて身体を温めてくれる。
「ああ~」
このままゲル化して風呂に溶けてしまいそうだ。
気持ちいい。
なんて極楽をこの世に生み出してしまったんだ、人類……!
骨の身よりも肉体のある生活というのは、行動の幅が段違いに多い。
しかし、それはそれこれはこれ。
死神の仕事に対してはめちゃくちゃ誇り持ってたから、戻れるなら戻して欲しい。
身体から離れる魂魄を大鎌で、狩るのは快感以外のなにものでもない。
それに魅せられて何十年も死神家業をしていたんだ。
俺はふと思い出して左の腹の部分に目をやった。
そこは俺がヘマしてこしらえた不名誉な傷跡がある場所ーーだったが、そこにはなんの傷跡もない。
……与えられた肉体、新しい肉体というわけだ。
はぁーと思い切りため息をついて湯気を吹き散らかす。
せっかくの檜風呂。
俺はいやな感じを振り払い、無になるように天井を見つめた。