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「俺とお前は断じて番なんかじゃない」
このままこいつと二人でここに住むのであれば、こう言うのはキッパリはっきり決着を付けておかないと後々大きな禍根を残すことになる。
「お互いにバース性を持たない魂魄の状態で出会ったのに、番だなんだと言ってるお前って、お門違いも甚しいと思わないか?」
わざと普段使わないような硬めの言葉を選ぶ。
嫌われようと構わないぐらいの強い否定をして、理人が俺に対して好意を持たないようにしたい。
「でも、オレはあんたを見てると、胸がギュッとなってハッとなるっていうか……」
切なそうな瞳は潤んでいて、動物であれば耳をへたらせていただろう分かりやすい落ち込みようだ。
無意識なのか、理人の手は自分の心臓のあたりの服を握りしめてしわくちゃにしている。
「……それ本当に俺がまだ骨の時にも思ってたのか?」
あの姿が性的な範疇にはいるんだったら驚きだ。
なにせ本当に骸骨そのものなんだから。
「確かに骸骨だったけどさ、あ、この人だ間違いないッて感覚があって……生きてる間には番に出会えなかったし、この人だったのか! って、この人と出会うために俺は今日トラックに轢かれたんだ! って思ったと言うか……」
感覚的なことを言葉にするのが苦手らしく、たどたどしく言葉を途切れさせながら理人はなんとか言いたいことを言い終えた。
「それはアレだな、典型的なスライド現象だな」
理人の話を聞き、俺は腑に落ちた。
うんうんと腕組みをしながら何度か頷いて、訳知り顔で理人に解説してやる。
「トラックに轢かれて死んだことがショックで、それに対してなんらかの意味を求めようとした結果だろう」
「今理人が言った《《この人と出会うために俺は今日トラックに轢かれた》》なんて思想はそのまんまじゃないか。本来トラックにひかれたことに意味などないのにそこに意味を見出そうとするからそんな風な気持ちになったんだ」
そうと分かれば理人のあなたは俺の番、という気持ちもきれいさっぱり覚めることだろう。
俺はごく普通に、理人と知り合いとしての距離間でいたいと思っている。
友達でも、まして恋人なんてありえない。
俺からすれば理人はまだまだ子供でひよっこ。
何十年も死神してたんだ。精神的には俺は初老、いや、大往生直前の悟りを開きかけている年齢のはず。
「そう、なのかな?」
理人はうつむいて床をじっと見ながら、首を右にひねったり左にひねったりと忙しい。
よしよしもうすぐ丸め込めそうだと俺は、さらなる一言を添える。
「じゃなけりゃお前は骸骨に懸想する変態ということになる」
「俺は変態じゃない!」
力いっぱいの否定に俺は、してやったりとにんまり口を緩める。
そうそうこの年代の子は変態とか変人とかにあこがれる一方、自分がそのカテゴリーにあてはめられると俺はそんなんじゃない、と反発したくなるんだよな。
「そうだろ?」
「じゃぁこの気持ちは」
「気のせいだな」
「そう、か気のせいかぁ」
しめしめ、これで金輪際理人は俺のことを【俺の番】だとか言い出さないことだろう。
俺は自分の思い通りの展開にもっていけたことに満足して、鼻息を荒くした。