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「その番っていうの……やめろ。恥ずかしい」
俺は頬を染めるでもなく、ただだだ眉間に皺を寄せた。
目の前で自分よりも人生経験浅そうな理人がとんちんかんなことを言って空回りしていると、尻が浮いたようなむずむずとした恥ずかしさが込み上げてくる。
理人は何を言われたのかわからないが、抗議したいというような不満な顔をして首を傾げ、じっと俺を見ている。
理人の黒々とした煮詰めた黒豆のような目の中に、懐かしさすら感じる自分の顔が映り込んでいて、その瞳を見つめ返す。
「お前は一度死んだよな?」
確認するようにゆっくりと問いかけてやる。
こういう禅問答のようなやり口は死神の仕事をする中で身につけたものだ。
理人は、死んだ事自体はしっかりと覚えているらしく、はい、と殊勝な返事をした。
「その時に肉体から一度解放された。オメガバースと人々が呼んでいる、肉体の性的欲求の最適解を求める性質はなくなってる」
バカ真面目な顔をして解説する俺って一体なにもんなんだよ。死神はなぁ、現世のことをよく調べないといけないもんで、割と博識なんだ。
魂だけ狩って持っていくにしても、肉体的な性質もきちんと調べておかなければならない。
理人が言うところのオメガバース性を象徴する番という概念は、肉体的なものだ。
それはオスがメスを求める、という生存本能的なものとは違うものなのだ。
「それに、だ。俺たちが初めて出会った時にもお前は俺がお前の番だ、と言ったよな」
近年稀に見る頭のおかしい発言だったので、さすがの俺も覚えている。
「あのときお前は肉体から離れて魂魄だけの存在だった。対する俺は肉体的な要素からはかけ離れた骨だけの存在だった」
まだあの時は俺は完全な死神だったしな。
人間と同じ存在ですらない。
「この時自身の番がわかるか、といえばNOだ」
理人は考え込む様に、じ、と黙りこくって俺の話を聞いていた。