10.
「あの……名前……なんて呼べばいいですか? ほんとはもっと早く聞きたかったんですけど……」
すでに理人と出会って一日以上軽く経過している。
そういえば俺がこいつの名前を知っているのは、迎えに行く時の個人情報票を見ていたから知っていただけでこいつが名乗った訳ではない。
お互い自己紹介もしていなかった、というわけだ。
理人は俺のことを「運命の番」とか呼んでいたが、もしかしてそれも俺の名前がわからなかったからそう呼んでいただけか?
人のことを「運命の人」呼ばわりとはずいぶんキザなやつだと思っていたが、ただの小心者だったのかもしれないと認識を改めた。
「あぁ、名前な、名前……」
俺は名前を名乗ろうとして、気づいた。
死神になった時に生前の情報は忘れてしまうため、こんな風にイレギュラーで生きかえったといっても生前の名前など覚えていない。
死神をしていたころは死神には登録番号があるため、それをもじった名前で呼ばれていた。
俺の登録番号は10596……
別に死神の制度の話をして、名前がないことを明かす必要などない。
「あっ、と……俺は東郷九郎だ」
この短い時間に当て字まで考えだして、俺は理人に名乗る。
めちゃくちゃそれっぽいな。
我ながらいい当て字だ。
「わかりました、東郷さんですね」
理人は「やっと聞けました」と安心したような顔をしている。
ずっと聞こうと思って気を揉んでいたらしい。
俺の気が効かないせいでいらん気苦労をかけてしまった。
「とりあえずこの村の人にこの場所について聞いてみることにするか」
昨日は疲れでろくな会話が出来なかった。
この村だけでなく、この世界について話を聞かなければ。
……そういえば、俺は元の世界でまた死神をやりたいと思っているが理人はどうなのか聞いてなかった。
この世界がまっとうな世界で理人がこの世界に残って生きていくというのならそれはそれでいいと思う。
なにせ理人の場合は元いた世界では死人な訳だし、元の世界に戻りましたやっぱり死んでますってなるのはかわいそうだ。
まだ若いんだしやりたいことはたくさんあるに違いない。
ある程度この世界のことを知ってから今後どうしていきたいかを聞くことにしよう。