秋めく桜の色づく頃に
短編です、気が向いたら他のも出すかも、、、
誤字脱字等はご連絡ください。
「はぁ、暇だな」
私は少々寒くなった秋空の下を、厚いコートを着て散歩していた。
辺りは一面の紅葉で埋め尽くされ、まさに秋景色といった感じだ。
紅葉と言っても全てが紅いわけではない、まだ色づいていない緑のものや、黄色のものがアクセントとなり、私の目の前の景色を彩り豊かにしていた。
「よっこいしょ」
私は、いつも座っているベンチに腰掛けた。
しばらく腰掛けていると横に猫が座ってきた。
『また来たの?あなたも暇ね』と、言ってるような雰囲気で私の横で包まった。
「はぁ〜」
私は少し色の薄い空を眺め、ゆっくりと目を閉じた。
瞼の裏に懐かしい景色が浮かび上がってきた。三年前、高校二年の夏、まだこの辺りが緑に染まっていた頃だ。
懐かしい。この時期のこの辺は小さな子供が親と一緒によく遊びに来るような場所だった。しかし、それは決して子連れだけが来るというわけではなく、中高生にとっては友達との遊び場、大学生にとっては有名なデートスポットとして有名だった。
無論、私もよく友達とこの辺で遊んでいた。その時にどんな会話をしたか、何をしたかは詳しく覚えていないが、いつも楽しかったのだけは覚えている。
『もし、あの頃に戻れるなら』
そう、何度願ったことか。
高校三年の春、私の脚はなくなった。
交通事故にあった。
しばらくは痛みに悶え苦しんだ。しかし、私の中にはまた、みんなとあの道を歩きたいという意思があった。
それからは苦悶の日々だった。
リハビリに励み、なんとかして義足で歩くことができるようになった。
しかし、それはあまりに遅すぎた。
私がやっとの思いで歩けるようになったときにはいつも話していた友達は全国各地に散っていった。
(仕方がないよね、大学だもん)
私は、そうやって無理やり自分を納得させた。しかし、大学に進まなかった私は段々と無気力になっていった。
そっと目を開けると、隣で寝ていた猫の姿はなくなっていた。
「はぁ~」
明るく私を照らしている街灯を一瞥して、私は帰路に着こうとした。
しかし、私の目をひときわ強く惹きつける一本の木があった。
「ん?」
私はおもむろにその木に近づいた。
「桜?」
その木はこの時期に決して咲くことのない桜の姿をしていた。枝には花を咲かせ、紅葉の中の桜ということもあってか、ロマンチックに感じた。
しばらく眺めていると、隣から小さな鈴の音がした。
隣にはさっきまで私の隣で寝ていた猫がいた。しかし、その首にはいつもはない首輪と鈴があった。
その猫の目は奇妙なほどに私の目を鋭く貫いてきた。とても気味が悪い。心の奥まで見られているような気がし、いますぐにもこの場を立ち去りたいと思った。
しかし、それ以上に目の前の桜の美しさに惹かれた。
私の意識が桜に向いた瞬間、次は先程よりも大きく、鈴の音がした。
『チリン』
その音はまるで風鈴のようで、、、
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ーー
ー
「ねぇ、、ねぇ!大丈夫、夏海?」
「え」
気がつけばそこは、今までいた公園ではなかった。隣には懐かしい顔があった。だが、誰だろう。顔にもやがかかっている。
蒸し暑い、服が肌に引っ付く感覚が全身に広がった。
「ねぇ、ほんとに大丈夫?」
「あ、うん」
私は訳のわからないまま、勢いに身を任せ返事をした。
「今日は、猛暑日って天気予報言ってたからね。暑さにやられちゃったんじゃない?昔から夏海は夏に弱いよね、夏に海って書くのに、、、」
隣の彼女はそう言って、少しはにかんで笑い、手元にあったジュースを飲み始めた。
『チリン』
また、風鈴の音がした。
次に目を開けると、そこは私がいた道だった。しかし、その光景には懐かしさを覚えた。
(そうだ、あそこにあったホテル。高二の冬に壊されたはずじゃ)
その光景は、明らかに過去のものだった。
「ねぇ!夏海、行かないの?」
前の方から三人、私に呼びかけていた。
「行くよ」
とっさに出た。私は何も考えていなかった。
体が声に答えたんだ。
「じゃあ、急ぎなよ!」
(無茶言わないでよ)
私は義足だ、みんなと同じスピードで歩けるわけが無い。そう思っていた。
「えっ」
驚きの声が漏れた。「足」があったのだ。
思わず止まってしまった。
頭の中は混乱してて、何が起こっているのか理解できていない。
でも、心が叫んでいる。
心が踊る感覚、久しく感じなかった「高揚感」が私の全身を駆け巡った。
私は大きく足を出して、前の三人に向かって走り出した。
『チリン』
再び景色が変わった。
『チリン』
更に景色が変わった。
景色が変わるたびに、私の中で消え逝くはずだった感情が息を吹き返した。
高揚感、同情、悲しみ、喜び、達成感、悔しさ、葛藤、嫉妬、優越感。
人との関わりの中で生まれる感情は懐かしく、一周回って新鮮味も帯びていた。
『ピキッ』
次は何かにヒビが入るような音がした。
目を開けると、私は「私」を見ていた。
「私」は友人と歩いていた。その足取りは軽かった。きっと、なにかいいことでもあったのだろう。
しかし、そんな様子とは裏腹に私の心臓は大きく高鳴っていた。今までの感じとは違う。それは「恐怖」だった。
その景色は私が足を失った場所だから。
忘れるわけがない。忘れてはいけない記憶が私の胸をきつく締め付ける。
早く逃げて!
私はそう叫ぼうとした。しかし、声は出ない。
その出来事は一瞬だった。
私が一度瞬きをすると、眼の前にいた「私」はトラックに足の根元から轢かれた。
道路に鮮血が流れる。足先が痙攣している。所々に飛び散っている白い欠片は骨だろうか。
辺りでは救急車を呼ぶ人、私に必死で声をかける人、股を紐で結び止血する人、ただ叫ぶ人、呆然とする人、多様な人が見て取れた。
次の瞬間、私から地面はなくなった。
今まであった足がなくなった。
私は自分に「脚」がないことを改めて自覚した。
『パリン』
ヒビが入る音ではなく、明らかに何かが割れる音がした。
再び私が目を開くと、そこは公園の椅子の上だった。
見慣れたはずなのに私は眼の前の景色に違和感を感じた。彩りがない、目の前からはモノクロームな景色がただ流れ込んでくる。
あれからどれだけの時間がたっただろう、二年、いや三年ほどか、一瞬のようで長いようなそんな時の間を過ごした。
気がつくと、隣には猫がくるまっていた。
「あなた、一体何者なの?ただの猫って訳ではないんでしょう?」
私がそう言うと、猫は眠そうに大きな欠伸をし、口を開いた。
『僕は管理人だよ』
猫が喋ったことに驚きはなかった。別にどうでも良かった。
「管理人?」
『そう、「秋桜」管理人。君も見たでしょ?あの桜の木を』
そういえばそうだ、あの木を見てからだ、すっかり頭の中から抜け落ちていた。
『自分の過去と向き合ってどうだった?』
猫は私に問いかけてきた。
「眩しかったわね」
私は小さくつぶやいた。
「友人と楽しそうに話して、楽しそうに笑って、一緒に泣いて、、、、本当に、眩しかったわ」
不意に一粒の涙が頬に流れた。
「それに比べて私は!友人の顔も名前も忘れて、過去のことを忘れないようにとしていたはずなのに全部忘れていた!」
自分の愚かさを呪った。
「やり直しは、出来ないのよね」
私の視界はグシャグシャに歪んでいた。
『そうだね、やり直すことはできない。それがこの世の中の真理だし、ルールだ』
猫は冷淡に答えた。いや、冷静なのだろう。
『でも、それでも進むしか無いんだ。自分の脚で。君のそれは、なんのためにあるんだい?』
私は視線を落として、脚に目をやった。
色は極めて私の肌の色に近く、気をつけてみないとわからないほどに馴染んでいるが、私の脚じゃない。
「私には、脚がない」
『いや、ある』
私がそう言うと、猫ははっきりと否定した。
『君が、その「脚」を手に入れようとした時、君は決意したはずだ』
その言葉を聞いて、私はハッとした。
『君はもう、答えを得ているはずだ』
猫はそう言うと椅子から降りた。
『元の場所への道は私が開く。けど、その後どの道を進むかは君が選んで』
『チリン』
その時になった音は、小さな鈴の音だった。
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目を開けると、私は椅子に座っていた。
辺りはすっかり暗くなっていた。しかし、私の視界は昼間よりも明るく、色づいていた。
私は自分の脚ではなく、自分の道を見て歩き始めた。
いやいや、この度は読んでくださいありがとうございました~。
いやー、ほんとに感謝ですねー。
メンタルボコボコで色々あって書くのをやめてたんですが、ちょっと機会があってまた書かせていただきましたー。
「秋めく桜の色づく頃に」
いかがでしたか?まぁ、高校生のちっぽけな脳みそじゃ、人生観なんて語れるわけ無いとは自負していますが、これから大学、就職という大きな分岐点を目の前にする私達にとって、脚とは、道とは何なのかについて自分なりに考えてみました〜。
久々に書くとスラスラと言葉が出てきて存外びっくりしました。
僕の前作(一つは連載休止中)を読んでくださってる方がいたら申し訳ないのですが、更新はまたしばらくあとになりそうです。
コメントや感想等はどんどん送っちゃってください。励みになります。(ゼステューホンは傷つきやすいので、優しくしてあげてください)
これからも桐ヶ谷蓮並びにゼステューホン・スィミアの作品をよろしくお願いします