プロローグ
どうやら俺は死んだらしい。だが特に慌てることは無い。
「あなたまた死んだのですね。せっかくチート能力を与えたというのに死ぬのはある意味才能ですね」
目が覚めると事務室のような部屋の中だった。真っ暗な空間の中に平々凡々な机と椅子。
そこに俺は落ち着いた様子で腰を下ろしている。
そして目の前の席に座っているのは前に1度話したことがある女神。
「やかましい」
「あのですね。普通異世界でも死んだらそのまま天に召されるはずなんです。それなのに貴方といったら…」
女神はやれやれといった様子でため息を吐く。
ここに来る前に1人の爺さんにあった。
閻魔大王と名乗っていたが、どうやら本物だったらしい。
爺さんが俺のことは面倒見たくないと見限りやがったのか俺がここにいる原因。
「俺も望んで来たわけじゃない。あのクソジジイが自分勝手な理由で俺の事をここに送りやがったんだよ」
「はぁ、お父様ったら」
「え、閻魔大王あれお前の父親だったの?」
「そうですよ?」
「へー」
「あなた、自分から質問しておいて…」
昔、まだ日本にいた頃俺はごく一般的な会社に務めるサラリーマンだった。
ある日、朝の通勤中に通り魔に刺されて無事死亡。
その恨みから女神に暗殺の能力を授かり異世界でチート無双していた訳だが、また死んでしまった。
多分、仲間からの裏切りだ。ふざけすぎたみたい。
異世界での生活は実に優雅な物だった。金には困らないし、女にも困らない。別荘だっていくらでも作れたし、他になんと言っても人を殺しても罪に問われない。
「だから仲間は嫌いなんだよなぁ~」
「確かに仲間に殺されてましたもんね」
「え、お前知ってるのか?」
「それはもちろん。女神ですから」
初めて女神のことを神だと認めた気がする。パチモン女神だとずっと疑い続けていたが初めて、初めてだ。
「あなた、嫌われてましたもんね」
やっぱり?俺嫌われてたんだね。異世界に行って直ぐ設立した暗殺者ギルド。
序盤は皆俺の言うことを素直に聞き入れ、任務を遂行していたのに…。
「具体的に誰かは分かるか?」
「残念ながらそこまでは…」
「ちっ、駄女神が」
「あ、あなたっ…」
やはりこいつは駄女神だ。 一瞬でも認めてしまった俺が恥ずかしい。
でもだいたい目安はついているのだかな。
服ギルド長のマニラ。あいつも俺と同じ異世界人で俺と同様に暗殺に関するチート能力を有していた。
あの世界で俺を殺せるのはあいつか、はたまた別の異世界人か限る。
「いやぁ、それにしてもなんでまたここに来ちゃったかなぁ。しかもまたお前だし」
「それはこちらのセリフです。出来ることなら今すぐに消えて欲しい気持ちです」
「辛辣だねぇ」
「性格は変わっていませんね。貴方と最初に出会った時も散々イラつかされました」
無意識じゃない。意図的だよ。
「それで俺はまたここに来ちゃったわけじゃん?どこかに転生するわけ?」
「そうですね。ここに来たからにはそうなります」
それはそれで運がいい話だ。人生3回目という普通ならありえない話を俺は体験出来ているのだからな。
また暗殺者でもいいが正直飽きた。敵がいないし、皆俺にヘコヘコだし。
望むなら俺よりも遥かに強大で甚大な魔物がそこら中に徘徊してる魔界とか、はたまた女しかいないハーレム世界とかでもいい。
「ちなみに今回は能力は選べません」
「は?なんで?」
「それは2回目ですから。さすがに私もそこまでお人好しではないですよ。そして今、ある世界は滅亡の危機なので世界を救ってもらいます」
「やっぱ駄女神だなお前」
「さっきから駄女神駄女神うるさいです」
「駄女神駄女神駄女神駄女神」
女神は悔しそうな表情を浮かべる。
それに対し、俺は心底楽しんでいた。人を煽るのはやはり楽しいものだ。
特にこの駄女神のような見ていて愉快な反応をするやつはな。
「じゃあ俺のジョブは何になるんだ?」
「勇者です」
女神がか細い声で囁く。
「ん?なんだって」
「勇者です」
「勇者?悪質な冗談か?」
「まじです」
「まじ?」
「まじです」
「まじまじ?」
「まじまじのまじです」
おい嘘だろ。俺に勇者にならって言うのか?めっちゃ良人側ジョブじゃねえかよ。
「変更は効きません。あなたには次の世界で勇者パーティを結成してもらい、世界を今滅ぼそうとしている魔王を討伐してもらいます」
「思ったんだけどよ。閻魔大王なら魔王そいつのことを消すことはできるんじゃないの?」
「残念ながら閻魔大王様は生あるものに干渉することは出来ないのです。魂にはいくらでも干渉出来ますが」
「やっぱお前の父親なんだな」
蛙の子は蛙だ。このことわざ、よく出来ているな。適当すぎて頭が上がらない。
「あなたね…」
「あ、そうだ。そのパーティを作るってやつは却下で」
「出来ません」
ついさっき仲間に殺されたやつによく言えるよなその言葉。空気の読めなさ具合は褒めたたえてやろう。
「じゃあ勇者にはならん」
「それもできません。なってもらわなくては困ります」
「どうせまたチート能力を貰えるんだろ。それなら仲間なんて必要ない。俺だけで魔王くらい殺せる」
「違います。その世界の魔法には2人以上のパーティでコンボを発動させなければ完全に消滅させることが出来ないのです」
なんだそのゲームみたいな設定は。最初は意味が分からず死にまくって、後々攻略サイトを確認して討伐方法を把握するゴミゲーじゃないか。
昔、そのようなゲームをやったことがある。ボスの討伐方法がHP半分以下で○○を持ったまま撃破だったかな。
「2人以上って言ったな?」
「えぇ」
「なら俺にいい案がある。その話にのってくれるのなら勇者でいいぞ」
「話だけ聞きましょう」
のったな。俺の天才的アイデアを聞いておののけ。
「お前、着いてこい」
「…」
「…」
「…」
「…」
「……………………………は?」
「は?ってなんだよ。提案だよ提案。お前がこれに賛成してくれれば俺は勇者になるっていってるんだ。どうだいい案だろ?」
「あなた、頭のぼせてるんですか?」
未来の勇者様に失礼なことを言うな。
「至って正常だが?」
「私は女神なんですよ。ここを統括する」
「統括って言ったってお前一人しかいないじゃないか。閻魔大王なら聞いたぞ。ずっと独り身で可哀想だって」
女神は俺を1度睨むとため息をついた。
「それでもですね。私は女神なんです。ここから動くことは出来ません」
そんなことも無いようだが?
俺は女神の後ろに立つ閻魔大王を指さす。
「どうやらお前のお父様は賛成の様子だぞ?」
「え、お父様?なぜこちらに」
「お前のことが気になってな。軽く覗くつもりで来たのだが興味ある話が聞こえてきてな。ここまで来た」
閻魔大王。結構ふざけたやつということだけは分かった。まぁ、そもそも面倒だからと死者を女神のところに飛ばすこと自体異例だし。
「私はその男の提案に賛成だ。このままだったらお前は結婚できないだろうし、広い世界を知って欲しいというのもある。私も昔閻魔見習いの頃…」
それから数十分閻魔大王の自慢話が続いた。
女神は途中から死にそうな顔をしていたし、俺は寝ていた。
「ということでお前にはその男と異世界に行ってもらう。花嫁修業も込めてな。あ、そうだ。もしその男のことが好きになったらそこで暮らしていいからな」
俺は、女神と共に白い光に包まれた。