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はぐれ退魔師の輸送代行(トランスポーター)

作者: 秋津冴

1.生贄の運び方

 香月秋奈は、少しばかり特別な事情を持った、女子高校生だ。

 身長が低いとか、外見がどう見ても小学生にしか見えないとかそういうことではなく。


 彼女は数いる同年代の女子たちからしても、やはり特別な存在だった。

 秋奈は、まるであやかしのような、金色の目を持って生まれた。


 女の双子。金目の女は、鬼に好かれるという。

 秋奈には生まれたときからいずれ鬼の贄となる運命が待ち構えていた……。




 ◇




 ガラゴロガラゴロと車輪は鈍い音を立てて、移動している。

 荷物の中に梱包されたまま、秋奈はもう既に数時間が経過しただろうことを感じ取っていた。


「いつ死に果てるのか」


 言葉を発しようとして、猿ぐつわをされた口からは「イムグムグ……」といった濁音しか漏れ出て行かない。

 むしろ喋ろうとすればするだけ、顔が汚れていくから、口を開けるのを止めた。


 いま上下逆になった状態で、膝を抱え込むようにして両手両足を拘束された秋奈が入っているのは。

 いやいや、押し込められているのは、巨大なスーツケースだろうと、秋奈は思う。


 巨大? そうでもないかもしれない。

 十六歳という年頃にしてはまかり間違えば、小学生と思われてしまうほどに、体型が幼く、従って身長もそれなりに低い。


 150あれば願ったりで、145でもいいかなと思える程。

 そんな彼女の身長は138しかなく、従ってスーツケースも大きめに分類されるものならば、身体を縮めたらすっぽりと収まることだろう。


 自宅の父親の書斎で捕獲?されてしまったのは、つい今朝のことだ。

 それからこの閉居な空間に囚われ、真横にされて、車のトランクに。


 トランクに、と考える理由は、書斎から数分間、いまのようにガラゴロガラゴロとトランクが転がされて行き、「よいしょっ」と威勢のいい声と共に持ち上がったと思ったら、平たい所に置かれたからだ。


 そのままバタンっと上から音がして、真横になったスーツケースの向こう側から聞こえてくるのは、車のエンジンがかかる音、そしてわずかな振動が走り、走行をする車両の中にいるのだ、と理解できたからだ。


 そう考えたら、つい先ほどまでどこかの誰とも知れない連中が運転する車の後部座席ではなく、トランクに放り込まれたのだと推測するのが妥当だと思われた。


 理由は他にもあり、後部座席ならまだ振動は座席のクッションでカバーされるはずだからだ。

 しかし、スーツケースは固定もされないまま置かれただけの状態。

 車が急ブレーキをかけたり、左右に曲がる時にはトランクルームの中で、スーツケースがあっちにいき、こっちにいきして、四方八方から圧力がかかる。


 そのまま全身をしたたかに打ち続け、胃の中におさめた朝食が口から戻りそうになった。 吐き気と頭痛と、全身を襲う断続的な痛みのせいで気を失うことも許されない。


(こんな拷問、さっさと終わらせてよ……誰か!)


 と、始終助けを必死に求めるも、荒い運転はずいぶんと長く続いた。

 不思議なことに、車がどの程度の速度で走っているかということは、こんな悲惨な状況でも分かるのだ、と秋奈はどうでもいいことに感心する。


 車両が、なだらかな斜面を上がり、それまでの荒い運転を見なしたように速度が緩やかになり、どこかでピッ、と音がした。

 それからすぐにエンジンが唸りを上げて、速度がどんどんと上がっていく。




2. 重量は?


 ああ、家の近所にある高速道路に乗ったのだな、とそれまで走った距離や、左折、右折を繰り返した回数、体感的な時間から、秋奈はそう理解した。


 そこからはたまにどこかのパーキングエリアに寄ったりした時を除いて、車が荒っぽく運転されることはなくなり、従って秋奈の身体が謂れの無い暴力に晒される回数も減った。


 しかし、拘束され窮屈な体勢のままに、真っ暗闇の中で狭い空間に押し込められるというのは、体力もそうだし、心の力も凄まじい速度で削られていくものだ。


 車両が高速道路を疾走すればするほど、秋奈のすべては魂に至るまで、がりごりと削られて、最初は丸い輝く玉のようだったそれが、いまでは小指の先程度になってしまっていた。


 もう抵抗したいという気力もなく、いますぐに解放され、助けてやるからそこで全裸に鳴れと命じられたら、素直に従ってしまいそうな程には、気弱になっていた。


 どれほどの長距離を移動したのかも分からないまま、恐怖と疲れと、臓腑をえぐりとられそうになる吐き気のせいで、意識が朦朧となって数時間。


 ぎっ、とブレーキを踏む音がして、車が停車した。

 またパーキングエリアにでも寄るのか、お腹が空いた、喉が渇いた、猿ぐつわをされているせいで、口の端からだらだらと零れる唾液が顔にべっとりと痕を残している。


 食道を遡って来た胃液が、それに追従して、耳の中にまで入り込み、嫌な臭いが顔全体を覆っている。


(胃液と涙や鼻水、唾液で汚濁になった女など、どこの鬼でも好んで喰おうとか思わないでしょ)


 自分が置かれた状況を今更ながらに思い知り、悔しさと情けなさで噛み締めた奥歯が、ぎりっと鳴る。

 ついでに、天地逆にされ、ガラゴロガラゴロと運ばれる時間が長引くほど、頭に血が逆流してしまい、ぼうっと暑気を催す。


 再び、吐き気が沸き立って胃液が喉奥を焼いた。

 最悪だ。


 この状況に陥った自分も、売り飛ばした父親も、こんなことを占いで当てた術師も、みんな呪い殺してやりたいと、血の廻った頭で考えていたら、車輪の音が止んだ。


「待たせたな」


 暑い、真夏のなかのような茹でるような熱さを感じながら、乱暴な口調で誰かが誰かに声をかける。

 むこうにいる誰かは「別に」と短く素っ気ない口調で答えた。


 若い男の声で、こんな荒事に関わりそうにないような、涼やかなそれでいて知性に溢れた優しい声だった。


「重量は?」

「契約通り、35キロ……あ、いや。スーツケースも含みで、40キロ未満だ」

「そうか。なら、預かろう。中見は肉だったな?」

「あ、ああ。そうだ、生肉だがきちんとパッキングしてある。問題はないはずだ」

「中で汁が漏れるとかないようにしてくれよ」


 35キロ。自分の体重ではないか、と秋奈は暗闇の中で頬を赤らめた。

 いや、それは頭に集まった血が及ぼした単なる幻覚だったかもしれない。


 秋奈の全身がふわりと宙に浮く。

 今度は先ほどまでの乱暴な扱いではなく、丁寧な、いかにも大事な商品を扱っているという扱いで、スーツケースはまたどこかの床に真横に置かれた。


 ギシギシ音がするのは、多分、トランクルームの中でネットをかけるか何かして、スーツケースが運転時に暴れないように固定しているからだろうと、思われた。

 続いてそっとトランクルームの蓋が閉じられる。


 バタンと荒々しい音はせず、入り口がカチンっと施錠される音だけが、室内に響きわたった。

 それも闇のどこかに溶け込んでいき、外では男たちの話す声が聞こえてくる。


 やがて車は予想よりも重厚なエンジン音を立て、マフラーからは肚の底に響くような重低音が断続的に生み出され、秋奈を乗せた別の車両は発進した。




3. 破邪の一族



 荒くなく、左右に曲がる際の重力も低く、肉体をあちこちぶつけてうっ、とかぐっ、とか呻くこともなく、そのまま車は走り続けた。


 余程、運転が丁寧なのか、扱う品に注意を払う必要があるのか、彼……運転手はたぶん、若い男性のはず……は、微細な神経を張り巡らせながら、運転を継続する。


 それは彼個人の繊細で温和な人柄が現れているようで、秋奈は何時間かにも及ぶ拷問のような時間からようやく少しだけ開放された気分になる。


 心に安堵が生まれると……安心してはいけない状況なのだが、眠気が襲ってきた。

 睡魔の甘い誘惑に抗えず、秋奈はついうとうとと、舟を漕ぐ。


 遠くなる意識の向こうで見たのは、こうなってしまった、今朝の記憶だった。


 ◇



 日本には、神代の時代からあの世とこの世をつなぐ『岩戸』が存在する。

 岩戸が開くと、過去や未来から災いを及ぼす邪妖が招かれ、天変地異が起こるという。


 扉の鍵は「宝竜の御鏡」と呼ばれる神器によって、開閉するのだが、これを着け狙う輩がいた。

 邪妖と呼ばれる悪意に満ちたあやかしたちである。


 そんな邪妖を祓い、御鏡を管理するのが、十二家の破邪師たち。

 継承されてきた御鏡の本体を知るのは、代々の当主のみとされていた。


 そして、「宝竜の」と名が付くように御鏡を護るのは、破邪師だけでなく神格を持つ獣「宝竜」もまた、同様に家の守り神として継承されてきたのだ。


 秋奈は双子の姉、雪乃とともに、十二家の一つ、香月の傍流に生まれた。

 雪乃を産んだあと、母親は最後の力を振り絞り、秋奈を産み落としたのだという。


 母を愛していた父親は姉を可愛がり、妹の秋奈を「母殺し」と罵って暴力を奮い、片目の視力を奪った。

 家人たちからも、実の姉からも「死ねばいいのに」と嘲られ「残り物がまだ生きている」と笑われて、食事を抜かれることも多い日々。


 常日頃からそんな扱いを受けていれば育ち盛りのころに必要な栄養を賄えず、成長が止まってしまうのも、無理からぬことだった。


 学校に通うこともなく、「母殺し」として屋敷の地下牢に幽閉されて、早や十六年。

 年に数度、本家への挨拶周りの時期がやってくると、父親は途端に優しくなる。


 目に触れる場所への暴力は止み、必要最低限の作法を教え込む猿のようなしわくちゃな顔をした老婆がやってきて、秋奈に鞭奮いながらそれを覚え込ませた。


 世界が一面の銀景色に染まっていたり、むせぶ様な春の青々とした緑の香りを宿していたり、夏の濃い青空は身近で、冬の薄まった蒼穹は遠くに感じることなどを、秋奈はその都度知った。


 友人はおらず、たまたま雪乃が気まぐれに使い古したタブレットを与えると、それだけが唯一の生きる悦びになった。

 ネットの海に浮かぶさまざまな情報を貪るように吸収し、殴られ、貶められて育った日々。


 SNSを漁れば、外国の言葉も、自分と同じような少年少女が習っている学習内容も、数学や歴史、更には自分たち破邪の一族が生業としている妖怪退治などが都市伝説として語られていることは、とくに興味を惹いた。


 少ない栄養をどう生かせば、健康的に生きることができるか、それを模索し、家人が寝入ってから気づかれぬようにトレーニングに励んだ日々。


 肉体を鍛えれば、心もストイックになり、生存することのみを生き甲斐として励むことが、生きる拠り所になったのは、大きな収穫だった。


 そんな不遇なのか、それとも趣味に没頭できた甲斐あって、多少の暴力では心を悲しみの色で染めないようになったことが幸福なのかは、まだ意見の分かれるところだが。


 秋奈はすくなくとも、死ぬことを最期の手段とした。

 究極の逃げる策として選ぶようになったから、食事を与えてくれる家人にへつらい、食事の量をこっそり増やしてもらうことも。


 癇癪持ちでなにか気にいらなければすぐに鞭奮い、自分を罰する老婆のご機嫌を伺って、孫を失い寂しさを抱えていた老婆に取り入り、いつの間にか可愛がられるようになることも、特段、恥だとは思わなかった。


 逆を言ってしまえば彼女のそんな生きるために必死な行動が、功を奏したと言ってもいいだろう。

 やがて老婆は姉の雪乃よりも秋奈の方が筋がいいと評して、 単なる礼儀作法にとどまらず歌舞音曲から詩歌に至るまで、ありとあらゆる老婆の持つ才を授けてくれた。


 しかしそんな優れた才能を妹が開花させた後でも父親は姉と同様に「母親殺し」と罵って暴力を振るい、地下牢に彼女を幽閉したままだった。


 今朝までは……。




4. 陰陽庁の役人たち

 初夏の地下牢は薄寒く、吹き込む風が地面を冷ややかにするものの、いきなり起きてすぐに牢に併設された水風呂に放り込まれて、一気に目が覚めた。


 女中たちの手で隅々まで綺麗にされ、薄化粧まで施されて何が起こったのか理解に苦しむ。

 それが終わると与えられたのは、一着の濃紺に菫色の小菊が染められた浴衣。


 着替えを済ませたら、今度はこれまで一度も体験したことのない、姉の雪乃と、父親の三人で囲む朝食の席。

 運ばれてきた御膳には季節の食材で作られた一品が並び、これまで本家でいただく御膳でしか見知らぬ上品な味に、秋奈は涙を流した。


 一体どのような奇跡が起こったのかまるで理解が及ばなかったが、ようやく自分がこの家の家族として一員として認められたような、そんな時間に浸ることができた。


 だがその幸せな時間が許されたのはほんの少しだけのこと。

 食事が終わると父親の書斎に呼ばれ、来客として居合わせた二人の黒服の男たち。


 その隣にはなぜか一つの大きなスーツケースが無造作に置かれていて、一体何に使うのだろうと不思議に思っていたら、彼らのうちの一人が発した言葉は衝撃的なもので。


「金色の瞳を持つ女は鬼を招くと古来より言わておりまして」

「鬼?」

「ええ、鬼です。彼らは岩戸を辿って、幽世から現世にやってくる。あなたも知っているでしょう? ご実家や本家が何を守り、何と戦っているかを」

「え、ええ……。些少ですが」


 それが自分のこと。

 いま隣に座る父親のせいで、左目の視力を失ったものの、金色に見えないこともない鳶色の瞳と、どう関わるのか。秋奈は怪訝な顔をして両者の反応を伺った。


  いま身に纏っている仕立てのいい浴衣もそうだし、アップされた黒髪もそうだし、したことのない化粧を施されたのもそう。


 何かどこかで読んだことのある様な体験を今しているような気もしなくて、なんとなく居心地が悪い。

 黒服の一人が、話を続けた。


「全国の破邪を行う者や、その他に異能を持つ者をまとめて管理する政府機関がありまして。陰陽庁と申します。自分たちはそこから来ました」

「それはお役目ご苦労様です」


 老婆に躾けられた、上役の人に対してかける言葉が、自然と口をついて出る。

 歳の割に丁寧な労いの言葉が出てきたことに驚いたのか、 それともこれから告げる残酷な宣告について、何か悔やみを覚えたのか男達は、ちょっとだけ顔を翳らせる。


 まだ若い少女に、男性たちの微妙な心の変化が分かろうはずもなく、秋奈は この場に自分が呼ばれたことに対して、奇妙な不信感を募らせていた。

 金目の女は鬼を招く。陰陽庁。それがどう関わるのか。


 鬼が岩戸を伝ってやってくるなら、金色の瞳をしている自分は彼らを呼び寄せることになるのだろうか?

 もしそうなのだとしたら、これからどうしたらいい?


 そんな不安と緊張感が入り乱れ、うなじから背筋にかけて嫌な汗がぬるりとした感触を帯びて降りていく。


「つい先日、陰陽庁の誇る占術部門が、あるレポートを出しました」

「はあ……?」

「金目を持つ女を生かしておけば、やがて世界に揺らぎが起こり、新たなる災いがもたらされるかもしれないという占いです」

「占いですか」

「ええ、的中率九割を誇る占いです。そのレポートを受けて、我々は相談に相談を重ねました。どうすればこの災いを避けることができるかと思い協議を重ねました。結果として導き出されたのは」

「……出されたのは?」


 うむ、と父親が重苦しく肯く。

 男たち二人が、ゆっくりとスーツの懐に手を入れた。


「香月秋奈様。あなたの「殺処分」を認めるというものです」

「殺? さつ、しょぶん……? え、え? さつ、なに……?」


 問い終わる前に、男の一人がなにやら銃のような物を取り出して、秋奈に向ける方が早かった。

 撃ちだされる電極、胸や腕の先に突き刺さる何か、そして激しい電流のもたらした衝撃に肉体が揺れ、精神が悲鳴を上げ、全身は硬直して震えるばかり。


「それではいただいて参りますので」

「お手数おかけいたします。このような生きる価値のない女でも、この世の役に立つのであれば本望でしょう」


 男たちの挨拶に対して父親の言葉はどこまでも冷淡で酷薄で、肉親の情などどこにもない残酷なものだった。

 そしてスーツケースを詰められ……現在に至る。




5. 魔女の一撃


(つまるところ、鬼の生贄にされるって事よね)


 緩やかな振動が続く中、どれほど眠ったのかわからないが、目覚めた時やはり同じ体勢のままでいることに、少しだけ安堵を覚える。


 どうやらまだ死ななくていいらしい。

 それからしばらくして緩やかに車が停車する。


 サイドブレーキを引きエンジンが止まった。

 運転席のドアが開く音、トランクルームへと回り込んでくる誰かの足音があたりに響く。


 続いてパチンという音とともに、あくまで感覚的にだが、上の方に被さっていた何かが取れたような気がした。

 つまり車のトランクルームの蓋が開いたのだ。

 続いてスーツケースを固定していたバンドが外される音だろう。


 それが響き、更になにやら今度は乱暴な、金属のような物でガッ、ゴッ、とスーツケースの淵を叩く音が数度、内側に響いた。


(何? もう鬼がやってきた? このまま食べられちゃうの?)


 運転手は鬼が指定した場所に、もしくはやってくるとされる場所に、スーツケースごと車を乗り捨てていったのではないか。


 思わず喉から血しぶきを上げて首をあらぬ方向に曲げ、目の輝きを失っていく自分の末路が目に浮かぶ。

 もちろん、そこに喰らいついているのはよくアニメやマンガなどにでてくる、悪鬼羅刹。


 いや、ここでいうならゲームとかで見るようなオークのようが正しいかもしれない。

 とりあえず、そんな最期を想像してしまい、妄想たくましいなおい、なんて別の自分が頭の片隅でツッコミを入れてくる。


 破壊音が止み、鍵が壊されて、ギッという音とともに光が差し込んだ。

 目隠しの隙間から網膜を刺激するそれを避けようと、思いっきり目を瞑る。


 ぎゅううっ、と。強く、固く。

 たったひとつだけ残った右目だけは奪われないように。


 光をこれ以上、無くすことは嫌だった。

 というよりも、鬼を視るのが怖かった。


 まだ死を受け入れたくなかった。あれほど、死ぬ目にさんざん遭わされたのに、まだ生きたいと願うのは本心だ。

 猿ぐつわが解かれ、両手両足を拘束していた手錠のチェーンが、何かによって切断される。


 ああ、もう終わり。

 秋奈が覚悟を決めた瞬間、聞こえてきた声は「もう、いいぞ」という、陰陽庁の男たちと会話をしていた男性のものだった。


「……」


 多分、虚ろな視線をしていたのだと、思う。

 後から考えてみれば、唾液に胃液、涙に吐しゃ物とひどい有様だった秋奈を、太陽を背負った彼は見下ろしながら心配そうな顔で一言、「酷いな」と評したのだった。


「ひどい臭いだ。自分で降りて来いよ、いいな?」

「あ、え…… おろ?」


 長く口枷を嵌められていたために、うまくろれつが回らない。

 それでも男性の言っていることは理解できたから、ふらつく頭に片手を添えた。


 もう片方の手と両足で必死に踏ん張って体を持ち上げると、トランクルームの縁に腰掛けることまではどうにかできた。

 しかしそこから先はどうやっても体が言うことを聞かず、秋奈はただぼーっとうつろな視線を男に向けるのみだった。


「俺が見えるか?」


 そう言われて初めて彼の顔をしげしげと見つめる。

 20代後半、丁寧に撫でつけた黒髪と自分とは全く違う黒い瞳がい印象的。


 男性か女性かわからないような中性的な顔立ちをしていて、肌は日に焼けて浅黒く、高くすっと抜けた鼻梁と、彫りの深い顔立ちは、よくファッション雑誌に載っているような外国人の男性モデルを思わせる。


 浮世離れしたその美しさに、秋奈は思わず見入ってしまった。


「おい、大丈夫か? 異臭がするから開けてみたら、なんだよこれ。中見は肉じゃなかったのか? 生きた人肉を運ぶなんて、聞いてないぞ」


 男は現実か幻か、それとも夢を見ているのかと戸惑う、秋奈の目の前に手を持ってきて左右に振ってみる。


「っ……はっ!」


 彼の美しさに見惚れていたことに唐突に気づき、秋奈は我に返って頬を染めた。

 ついでに、人肉とか物騒な単語がセリフに並んでいたことを思い出し、恐怖の下火が心にちらほらと焔を灯すのを感じる。


「おーい? 見えてる? 片目だけか? おい、お前。名前は?」

「っ……あ、秋奈!」


 何をどう解釈していいのか焦りばかりが募るなか、秋奈にできることは近づかないで! と叫ぶことと、顔を背けること。そして、どうにかしてこの窮地を脱出しようと足掻くことだけだった。


 だがあいにくと長時間同じ態勢でいたために、慌てて立とうと浮かせた腰は、意に反してごきっ、と鈍い音を立てるばかり。


「ぐえっ」


 同時にこれまで体感したことのない腰の痛みが脊椎を這い上がり、脳に凄まじい刺激を与えて全身の神経を覚醒させ、意識を明確にする。


「こっ、こしが……」


 ああ、これが噂に聞くギックリ腰だ。と理解するのにちょっと時間がかかった。




6. 鬼の湯殿

 へなへなとその場にへたれこむ秋奈を見て、青年はいかにも面白そうにくっくっくっと笑いを押し殺す。


「お前間抜けな女だなぁ? こんな窮屈な場所でずっといたんだから、いきなり動こうとしたら体がどっかおかしくなるくらいわかるだろう、普通?」

「たっ、助けて。足が、うぐうっ……」


 呻く、嘆く、脳天を貫く鈍い痛みをこらえながら、女性の日ですらもこんなに酷い痛みに襲われたことはない、と自分の浅慮を秋奈は後悔した。


 無様だ……、それと笑うことはないじゃない! というかすかな怒りも、殺気すらも沸いて来そうだった。

 それらはちょっとばかり身体を捻っただけで突き上げる痛みによって、脳裏のどこかに追いやられてしまったが。


「心配しなくても俺はお前の味方と言うかどう言えばいいんだろうな。契約違反をされた時点でつっかえすべきなんだが」

「や、やめてっ! お願い、それだけは! 今度は本当に殺される、絶対に、殺される」

「殺されるなんて物騒な話はやめてほしいんだが。俺は単なる運び屋だぞ?」

「はこび、や……?」


 そうそう、と青年は肯く。

 彼の顔から下をゆっくりと見て、秋奈は痛みを堪えながら眉根を寄せた。


 彼は高級そうなネイビーブルーのスーツに、若草色の小紋柄のネクタイ。

 胸には綺麗に山型に折りたたまれた純白のポケットチーフが差されていて、襟元からは白の光沢のあるワイシャツが顔をのぞかせていた。


 足元に目を落とすと、そこは見慣れたアスファルトで舗装された場所で、濃いキャメル色に輝くつま先の尖った革靴を履いている。

 どこからどう見ても、やり手の営業マンとか、銀行の人みたいな出で立ちだ。


 とはいってもずっと地下牢に居た秋奈にとって、それらはタブレット越しに見た、ドラマでしか見知らぬ存在だったが。


「運び屋、だな。幽世と現世を往復する個人輸入代行、みたいなもんだ」

「は?」


 輸入代行? なにそれ。狭い世界で生きてきた秋奈にはまったく想像がつかない仕事だった。言葉の意味は理解できたけれど。


「たまにあるんだよ、こういった運んでいる間に、異臭がする荷物が」

「異臭……」


 はっとなって自分の放っている異臭に、再度、自覚させられる。

 むわっとむせるようなすえた臭いに、胸が激しくかきむしられるような、ムカつきを覚えた。


「おっ、おい?」

「駄目っ、も……無理」


 視界がかく乱される。

 ぐっるんぐるんと世界が回った。


 焦点がぶれて男の姿が二重、三重に重なり合って、さらにぶれていく。

 ああ、目が回るって本当に世界が回るんだ。


 そんなどうでもいいことを冷静に受け止めながら、秋奈は辺りを汚さないように? いや、腰が痛すぎてそこになだれ込むしかできなかっただけだ。


 詰められていたスーツケースの中に、胃の中のものを盛大にぶちまけた。



 ◇



 ちゃぷんと、淑やかな音が静謐な空間にこだまする。

 手に湯を浸し、それを持ち上げたら、数滴の雫とともに水が漏れ落ちた。


 周囲には鮮やかな髪色をした女性たち肌襦袢だけになり、たすきがけをした状態で湯船に浸かる秋奈の髪や肌をせっせと磨いてくれている。


 赤に紫、橙に青、藍色に紫。

 どこかの童話で耳にしたような髪色の彼女たちの額には等しく、同じようなものがあった。


 一つであったり、二つであったり、三つはあまりいない。

 一角、二角、三角と絵巻物で名付けられた「鬼」の女性たちだ。


 湯殿の屋根の一部から、夜闇を照らし出す銀月の明かりが差し込んでくる。

 それに照らされて透けるように輝くその髪色は、染めたものではなく天然のものであることを、ぼんやりと見上げる秋奈に示していた。


 ここは鬼界。

 その一部、どこかわからない土地の鬼の長者の屋敷の一室。


 そこに設けられた風呂の中で、屋敷という意味では十数人の使用人を住み込みで働かせている実家もそれなりに大きかった気がするが。

 ここはその比にならず、40畳ほどの部屋が数室ある香月の本家よりも更に巨大で贅に尽くしていた。


「やってこられた時、驚きましたよ」


 一角鬼。紅の髪色と真っ青な瞳をした小柄な少女が、にこやかに微笑んで声をかけてくる。

 にっと笑った人懐っこい笑顔が可愛らしいが、その頬からにょっきりと犬歯のような牙が顔を覗かせていて、小心者の秋奈は思わず頬を引きつらせた。



7. 仙丹と贄姫

 自分が贄。嫁のエサとしてここに送り届けられた、と自覚しているからだ。

 あの男、運送人と身分を明かした男は、椋梨凌空くれなしりくと名乗った。


 車のトランクに嘔吐せず、スーツケースにぶちまけてくれたことについて、なぜか感謝を述べられて唖然とする秋奈に向かい、彼は清潔なタオルを与えて顔を拭くように言った。


 まだ開栓されていないお茶のペットボトルを渡されて、それを飲むとどうにか気分は治まった。しかし、腰に響く魔女の一撃は未だに止まるところを知らない。


 腰を抑えてうずくまる秋奈に、市販の痛み止め飲み薬をくれた凌空は「ぐぐぐ……」と呻く秋奈を抱き上げて、後部座席に寝かせてくれた。


 逃げようとするも、ぎっくり腰のせいでまったく力の入らない下半身に愕然としつつ、「これからどうする気なのですか」とまた板の上の鯛になった気分で質問した。


 こんなにがりがりで、栄養不足で成長も止まってしまった肉体が、鯛のように豪華な食材に成れる気はもちろんしなかったが。


 人生詰んだ、と諦め半分。戻されたら確実に終わるという予測半分。

 どっちに転んでも、鬼か邪しか待っていない。


「頼れるのはあなただけです。この命の舵を握るのは、あなただけ……凌空さん」


 このとき、バックミラーに映った後部座席の秋奈を見て、息も絶え絶えに命乞いをしている、と凌空は思ったらしい。


 依頼主には裏切られる、こんな厄介な荷物はしょい込む、おまけに届け先にはとりあえず行かなければならない。

 そんな運送人としての使命感と義務感のはざまで苛まれて、凌空は「ああ……なんでこんな面倒なことに」と零していた。


 凌空の車は真っ白な高級外車で、それはどうやってなのか仕組みすら謎だったが、虹色に光り輝く泡のようなものに包まれて、疾走していた。


 どこかよくわからない山道を駆け抜け、巨大な岩肌に速度を緩めずに突入する。

 ぶつかると目を瞑り衝撃に備えた秋奈は、まったくそれがやってこないどころか、車が走り続けていることに驚きを感じて、目を開ける。


 すると、そこにあったのは現実ではないどこかだった。

 まだ夜にもなっていないというのに空は満天の星空が輝き、しかし、青でも藍色でも赤でも黒でもない、壮麗な紫色に彩られて天空があった。


 遠くにも近くにも、大空を行き交うのは、中世の海賊映画に出てくるような帆船で、よくよく見ると、それは縁起物で使われる七福神が座する宝船のような形をしている。


 凌空の駆る外車は地上をひた走るが、舗装されている道などないはずなのに、大きな振動すら起こらない。

 やがて車は巨大な都市に差し掛かり、そこは本家にお目見えする道すがら実家の車の窓から見た市内のビル群を更に大きくしたような、摩天楼が広がっていた。


 洋画などで見るニューヨークの街並みみたい、とその景観に圧倒され、秋奈は少なからずの感動を心に覚えた。

 市内から郊外にでる道を行き、ようやくたどり着いたのが……。


「鬼の長者、支倉の屋敷だ。ここに届ける予定だったんだよ」


 とどこか後悔めいた口調で、凌空はぼやくように言う。

 ようやく年貢の納め時? いや、この身の終わりはこんなにも虚しいものなのだ。


 私は最後まで助けを求めた人にすら、見捨てられるのかとぼろぼろと涙を零すと、彼は「違うからな?」と言い訳のように漏らした。


「何が違うの……」


 もうどうでもいいだろう、どんな間違いがあっても。この身は鬼に食されて終わるから、最期はなるべく痛みの内容にして欲しい、とか勝手に観念していたら、それ自体、大きな間違いだった。


「鬼はもう数世紀前から人を食べたりしない」

「は?」

「そんな因業な悪習は、もう終わったんだ。あいつら、いまじゃあんな天空に浮かぶ船で幽世の色んな国々と交易して、現世の日本並みに裕福だからな」

「は……?」


 何の悪い冗談だろう。

 ならば、なぜここに連れてきた?

 思わず、そう心で毒づいた。


「犯罪件数も日本より少ない。平和で安定した文化を築いているんだよ。俺たちが惨めになりそうなくらい、あいつら、金持ちだからな」

「……絶対、嘘だ」


 その否定の言葉は、それからあっという間に覆された。

 支倉の長者の屋敷から、たくさんの女中と思しき女の鬼たちがわらわらと凌空の車に列を成し、その中央を歩いて来る鬼は一際美しい女鬼で、角を四本持ち、滝野と名乗った。


 まるで人の名字の様だと考えていると、凌空が滝野に頼んだらしい。

 痛み止めと言われ与えられた丸薬。


 これを飲んでどうせ意識を失って、気付いたら……とか闇に呑まれそうな想像をしつつ、口に含むと、たちどころに全ての痛みや苦痛、心の重しになっていたあれやこれやも立ち消えてしまい、味わったことのない感覚に包まれる。


 その感覚はどこかで憶えているもので、「幸福だろ? 仙丹だからな」と凌空が丸薬の正体を教えてくれた一言で、ああこれが幸せというものなのか、と秋奈は初めて穏やかな心地に包まれる。


 そして今。

 こうして三十人は同時に浸かれそうな、よくいえば温泉のような浴場で、自ら吐いた汚れを洗い流して貰っているのだった。




8. 就職困難

「恥ずかしいわ」


 子鬼の少女にくくくっ、と失態をからかわれる。

 さて、これからどうなるのだろうと身を清めて見たこともない生地で編まれた、着物に袖を通して案内された先には、凌空とこの屋敷の主がいた。


 数百畳はあるだろう大部屋を想像していたのに、小さな茶の間に通されて、秋奈は何となく肩透かしを食らう。


 それでも思い直し、堂々とした体躯に燃える炎のような逆立つ髪と、自分と同じ金目の支倉をみて、見事な一角だと彼の額から生える野太い角に、心で賛辞を贈る。


 礼儀作法を文字通り叩きこんだ老婆の教えに従い、秋奈は三つ指を付いて礼を述べた。

 湯殿を使わせてくれた礼、腰の痛みをたちどころに治してくれた仙丹を与えてくれたことに対する礼だ。


「もう逃げませんので、どうぞお好きに為さってくださいませ」


 ぴかぴかに磨き上げられ、こんな見事な仕立ての豪奢な和装まで整えてくれたのだ。

 最後くらい足掻くのをやめて、命を美しく終わらせようと決めての、一言だった。


「お好きに、と申されてもな。人食いはしておらんし、人買いもしておらん。どちらも重大な違法行為だ」

「……は、犯罪?」

「そうだ、の。ここに来られたのも縁とは思うが、そういった悪習は終わったものでな」


 と、支倉は大きな朱塗りの盃をあおり、隣で日本酒なのかそれとも焼酎なのかよく分からないものを、ぐいっと猪口で飲んでいる凌空を困ったように斜めに見る。


 二人には明らかに体格差があり、凌空は180ほどだが支倉はどう見てもニメートルを大幅に越える巨躯の持ち主だった。

 どうしたものか、と問う鬼の長者に、青年は「荷物を届けただけですから」と冷ややかに返した。


 凌空はこの珍事にもう関わらないという姿勢を見せていた。

 鬼の長者は、やれ困ったと言い、また盃を煽る。


 そこに、秋奈をこの場に連れてきた滝野が、面白そうにころころと鈴のような声で笑いだした。


「ならば、この酒などに限らず、現世の珍味を仲介して貰えばよいではありませぬか」


 支倉の盃に酒を注ぐと、滝野はある提案をする。


「おお、それは良い案だ。しかし、今はこの凌空が手配するだけで足りておる」


 怪訝な顔をする支倉に、滝野は言葉を継ぎ足した。


「いまは凌空様が時折、寄られる際にだけ注文を出しておりますから。この屋敷に、職員を常駐していただけば、美味しい酒や珍味を常に手にできます、お館様」

「なるほど、それはいい」


 支倉のことを、滝野はお館様と呼ぶ。

 まるでそれは大河ドラマで見た戦国時代の武将とその妻の会話にそっくりで、「世界観……」と秋奈は失笑を漏らしそうになる


 しかし、職員として常駐するとはどういうことだろう? 気になってじっと凌空を眺めると、彼は説明するように言った。


「俺の仕事は運送だ。もっといえば、現世と幽世の合間での商品の輸出入を行う個人商社だ。意味わかるか?」

「なんとなく……」


 日本と海外とのあいだで商品を輸出入するということは理解が及ぶ。

 つまりそれを現世と幽世の間でやっているということになるわけで。


 この男とんでもない商売をしているな、と思わず唖然とする秋奈だった。

 凌空はそんな彼女に「つまり支倉の旦那は俺にお前を雇え、と言っている」と告げる。


 食料になるはずが、いきなり貿易商社に就職する話になっていて、秋奈は思わず頭を抱えた。

 現実があまりにも突飛すぎる。現実が!


 これまで働いたこともなく、人どころか鬼と交わって暮らしたことすらもないのに。

 この場所が本当に安全で暮らし易く過ごしやすい場所だという保証もないのに。


 それでも戻れば間違いなくもっと悲惨な環境が待ち構えているだろう。


「……にお答えすればいいのか判断に迷います」


 率直に告げる。

 ついさっきまで覚悟を決めていたはずなのに。


 いざ環境が変わるとなると、ありえないほどに足がすくみ心が震え、緊張が全身を覆いつくしていく。

 暖かいはずなのに寒さすら覚えて、唇から血の気が失せていくのが自分でも分かった。


「今すぐは無理なようですがね?」

「そのようだな」


 助け舟を出すかのように、凌空は長者に確認すると、支倉もまたここのままでは無理そうだと理解したようだった。


「方法としてはなんですが……旦那、彼女は元々貢物として送られてきたものだ。それを返品っていうのもちょっと困る」

「ならば、どうしろと?」


 凌空は猪口を一杯煽って、不敵に応えた。


「まずはこの子を、この屋敷で雇って欲しい。その上で俺の会社に派遣してくれたらいい。うちはこれ以上人を雇う余裕がない」

「その程度のことなら造作もない。他には?」

「しばらく俺の家で預かるよ。うちの奥様も、似たような境遇だしな。業務に慣れた頃にまた連れてくる。それまでは通いっていうことでどうにかならないか?」


 支倉はしばらく考えてから「それで行こう。試してみて駄目なら他のことをやってみればいい」と悠然と構えて言った。


 凌空が妻帯者だということにも驚いたが、彼の妻が自分と似た境遇だという事実にも、秋奈は驚きを隠せない。

 どういった意味で似た境遇なのか。ほんの少しだけ興味が湧いた。


「うちに来るか? もちろん元の場所に戻したりしない」


 人間の世界に戻れるのならば、とこの時はあまり深く考えずに、秋奈は頷いてしまった。

 それを見て鬼たちはこれから、美味い珍味や酒に事欠くことはないと、よろこび微笑み合っている。


 かつて昔話にもあるように、悪の権化として退治され、やまいや疫病、果ては悪鬼羅刹なんて言葉まで生み出された恐怖の象徴であるべき、鬼の現在がこんなに柔和なことに激しく戸惑いを覚えるしかない。


 この後、凌空の元で商売を学び、あちらとこちらの注文を請け負って輸出入に励む秋奈の姿がこの屋敷で見受けられるようになるのは、もう少し先のことだった。




評価いただきましてありがとうございます。

これからもどうぞ、よろしくおねがいいたします。

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