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而鉄篇  作者: 伊平 爐中火
第2章(中編)それぞれ
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―アルム、領館、ナナイ―(2)

「そんで、意気投合してよ。なんか合ったら助けてくれるってぇなってよ。そん時ゃあ、随分と先になるかもしれねぇと思ったがよ。意外にすぐになっちまったなってな。そんで、今人をやって尋ねているところってぇわけだ。皇都ってぇなると、返事も早くて半月はかかるだろうがな。」

 つまりは、セブ兄ぃの言うことにゃあ、そのサブの兄貴ってぇのは悪い輩ではないってぇことかね。

 …私は今まで、セブ兄ぃの人を見る目を疑ったことはないけどねぇ。

「半月は長ぇなあ。…へっへ、しかし流石兄ぃだな。」

 わざわざ対抗した割に嬉しそうに言うレンゾ。こいつも、まあ大概さね。

「ま、俺の力かどうかわかんねぇけどよ。」

「何が、てめぇの力かってぇのは、わからねぇもんさ。兄ぃが、それをわからんはずもねぇも無いだろうがよ。」

 レンゾは低い声で言いつつ、兄ぃを伺う。睨め付ける。

「…そうだなぁ…。ふっふ。」

 兄ぃは天井を見つつ、少しにやけつつ言う。


「まあ、俺が出せるは、そんなもんだ。ナナイ、他にあったか。」

「そうだねぇ。私が調べたもんはこんなもんだねぇ。」

「そうか。じゃあ、他の連中は何か伝手とかあるか?」

 セブ兄ぃが、ぐっと見回す。

「おう、俺からも幾分かあるぜ。」

 ふーん。声を上げるは、テテ兄ぃかい。爺ぃが身じろぎしたようだが、そんなんは関係無いね。先に声を上げた者勝ちさ。

 しかし、テテ兄ぃの分はもう聞いていたと思うんだけどね。

「おう。テテか。何か当てがあるってか?」

「ああ。伝手とはちょっと違うんだがな。兵の若い連中つれて、南の方にでも行こうかと思ってな。大体、神丘(しんきゅう)自治都市群の辺りに行けば、仕事は幾らでもある。雇われの兵の仕事ならな。」

 まあ、テテ兄ぃの伝手ならそうだろね。それが、奴さんの生きて来た道だからね。流れで、兵事が主の雇われ人だったからね。公都に来たのは三、四年前だったかね。

「結局、連れて行くのは兵ってことになってしまうが。ほとんどは、徴兵した農夫達だ。少し、こっちの治安が不安になるかもしれないが、ここは冬は雪に閉ざされて碌に動きも取れないだろうし、全部を連れて行くつもりはない。モルズや先任の奴らと話して、まあ、およそ半分の五十なら問題ないだろうということになったってわけさ。こっちにはモルズ、シューリオが残る。向かう組みは俺が長で、トゲンとガク、それにケヘレが副えで兵を率いて行く。行き来の路銀を含めても多少の儲けも出るはずだ。問題ねぇか?」


 今の歩兵は形ばかりに、そこにいるミズの奴を頭にして、百人隊長、…百人率いているってぇのは名前だけで実際は三十そこららしいけど…、としてシューリオの旦那、モルズ兄ぃ、テテ兄ぃが就いているはずだ。実際、ミズの奴は仕事はしていないそうだけどね。

 モルズ兄ぃとテテ兄ぃは昔馴染だからね良く知っているよ。まあ、兵に回った連中見たら、この二人ってぇのは妥当だね。

 そんで、シューリオの旦那ってぇたら、先の戦での数少ない正規兵の生き残りだね。元は十人組の長の中で筆頭格の一人って程度だったけども、上役が連中が軒並み逝っちまったからね。二人は戦で、一人は病で。そんで百人隊長の一人になったって、おっさん。ほんの届け物をした時に少し話しただけでどんな御仁かは知らないけどね。でも、何とか兵をまとめているってぇからね。ただ務めが長いだけの、おっさんって言うわけじゃあなかったってぇことだね。まあ、叩き上げで百人隊長になるってのはそこそこ難しいからね。そう言う意味では十人組の長で、その筆頭格ってぇだけで十分上り詰めた処にいたとも言えるわけだけどね。人が払底したから、今や一番隊の隊長さ。

 そんで、今は歩兵はシューリオの旦那、モルズ兄ぃ、テテ兄ぃの三人でまとめているってわけさ。

 そん中でも外に顔が聞くテテ兄ぃが、出稼ぎ組を率いるのは当然だろう。そこに、副えが三人ってとこかい。まあ、元の副えは二人って話だけど、三つある隊を二つにわけるわけだからね。副えは増やすさね。

 トゲンの奴はまあ納得さね。テテ兄ぃの副えに元々就いていたしてね。ともに、どっちかってぇと堅気じゃあないというかね。特に渡世人のトゲンは根っからのやくざモンさね。気が合うってぇわけじゃあないけど、二人にしか通じない話もあるってぇ感じだからね。

 それに加えて、タッソの旦那、ファラン家の遠縁のガク。こっちも、汚れ仕事が生業さ。そいつらが元々の、ここの第三歩兵百人隊の面々さ。機に臨んで変に応えるような動きが出来るように、そういう意図の隊さね。実際、領境がこの隊の領分さね。

 外に行くってぇなったら、そいつらで行くと思っていたんだけどね。そこでケヘレが加わっているねぇ。ケヘレは、ここでこうやって立派に仕事を熟しているタヌの実の兄だがね。ただまあ、奴さんは言ってみれば情けない男さ。副えに就いているのは、取り敢えず年齢を見ただけな気がするね。そんでも何も役に付けないなら、自分より年下のトゲンが役に就いているの見て、騒ぎ立てるような奴だからね。しゃあなしだろうね。

「レーゼイはどうだ?」

 セベル兄ぃはここでほとんど発言の無いレーゼイの旦那に話を振る。まあ、兵に関しちゃあ、こん中で一番昔からやっているのはレーゼイの旦那だからね。傭兵始めた時からってぇ考えたら、テテ兄ぃも似たようなもんかもしれないけどね。そんでも、ここの領の兵の務めに関しては、そりゃレーゼイの旦那に聞くに如くはないさね。そもそも総隊長はレーゼイの旦那なんだからね。

「既に話は聞いております。問題ないかと。」

 そして、相変わらず表情を動かさず、腕を組んで座ったまま言う旦那。朝に寄合始まってから、ずっとあの恰好なのは辛くないんかねぇ。

「おう、そうか。」

 そら、総隊長であるレーゼイの旦那に話は通っていないはずはないんだけどね。一応の確認ってやつさね。

「タッソはどう思う?」

 セブ兄ぃは横に立つタッソの旦那に視線をやりながら話を振る。タッソの旦那はわずかに兄ぃの方に身体を傾けて私らにも聞こえるように答える。

「雪融けに必ず間に合うようにしてもらえれば…問題無いかと。凶作のあった後は、喰い詰めの野党が増えますので…。兵半数となっているのは、あまり良くないですからね。ただ、テテの言う通り、真冬となれば流石に野党も碌に動きをとれませんので、兵の多少減るぐらいは問題ないでしょう。」

 レーゼイの旦那と違って、タッソの旦那は大分説明を加えて話すね。

「問題があるとすれば、どの道順を取るかでしょう。流石に兵の五十を通すとなれば、各領に許可が要りましょう。五つ六つに分ければ隠せるでしょうが…。法外な通行料を取られない限り、筋を通しておいた方が無難かと。」

 それはそうだろうねぇ。そりゃ、武器持った大勢が領内に入るんだ。筋通しておくのが当たり前さね。戦国の世だったら、そのまま領府を襲われてなんてなりかねないからね。まあ、今は平時だし、小領の領軍が小遣い稼ぎに傭兵やるってぇのは聞いたことない話ではないから、出来ない話ではないんだろうけどねぇ。

「ハージン、頼めますか。」

 そんで話を振られるのはハージンの旦那ってのは、そらそうさね。渉外の関連はタッソの旦那が頭だけども、今は内政にかかりっきりだからね。実務はほとんどハージンの旦那の仕事さ。

「は。…スルキア伯領を通るのであれば交渉先は一つで良いでしょうが高くつく可能性があります。周辺の小領を幾つか通る形で良いでしょうか。」

「問題ありません。ただし、通る道すがらで凶作、不作が起きていると糧食に問題が出る可能性もあります。それに、スルキア伯の寄子である領も多いでしょう。通る通らないに関わらず、一度スルキア伯に話を通しておいてください。」

「了解しました。」

 確かにねぇ。皇国北方の雄と言えばスルキア伯爵だからね。その周りは、その寄子で固められているのが当然さね。むしろ、アルミア領が寄子になっていないのが不思議なんだけどね。

「テテ殿、いずれの領に話を通すにしろ、軍でそれなりに立場のある者の帯同が必要になる。出られるか?」

 ハージンの旦那はテテ兄ぃの方に聞く。

「ああ、道の修繕の仕事もあるが…何とか都合は付けよう。いつ出立する?」

 テテ兄ぃは難しい顔をして答える。

 確かにね。道のことを考えたら、兵もとい人夫を率いる人間が空けるのはまずいだろうね。

「こちらも他領との交渉となれば私が出ざるを得ない。こちらも糧食の件と出稼ぎの件がある。スルキア領に行ったコーセンとフォングの報告ぐらいは聞きたい…。そうなると…。」

 ハージンの旦那は考え込む。

 こっちもこっちで人手不足だね。いや、正直こっちの方が私としては身をもってわかっているさね。各領府で交渉ってぇなると、向こうさんに顔を憶えられているハージンの旦那が出るしかないからね。しかも、行脚するってぇなると、一月か下手したら冬手前までもう帰って来れないかもしれないからね。

「あい。あい。わかったよ。ハージンの旦那の仕事はこっちで何とかするよ。務めは長いは外には出ないヨーシャの姐さんと、務めは短いがここらで長く行商をやっていたコーセンの旦那がいるから、何とか熟せるだろうよ。」

 まあ、そうするしかないさね。こりゃあ、目の回る忙しさになりそうだね。

「…そうか。すまない。頼む。」

 未だ難しい顔をしたままだけども、ハージンの旦那はこちらに軽く礼を向ける。

「テテの代わりに出すのはガクとしてはどうでしょう。彼はファラン家の遠縁です。私の名代も兼ねていることにすれば、副長格でも向こうは納得することでしょう。むしろ、ここらで顔の知られていない新参のテテが行くよりも楽かもしれません。」

「なるほどな。一筆頼めるか。」

「お安い御用で。」

 こっちも話はまとまったね。

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