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而鉄篇  作者: 伊平 爐中火
第1章(前編)出立
8/139

―アルム、街、鍛冶師サテンの家、サテンの妻、マーレ―

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鍛冶場のある領館から出る、アルム一番の大通り―公都で言えば小道に分類されておかしくはない、辛うじて一頭引きの馬車の通ることの出来る幅の、そんな通り―には夜浅い時間帯までは松明が焚かれている。領館の鍛冶師、サテンの家はそこから右手に外れたところにある。ちょうど職人街の裏手である。わずかな距離ではあるが、通りから外れたそこに至るまでには自前で明かりを用意する必要がある。

サテンの家は周囲と同じく木造り。中は部屋を仕切る壁もなく、床は土のままである。家は切妻になっており、中央に据え付けられた竈の煙は天井に僅かに開いた窓から排出される。明かりは竈の火ばかりで薄暗い。しかし、飲み食いをする分には十分である。その傍らに木の机と長椅子を置いて一同は食事を摂っている。

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 うちの人が誰かを連れて来るなんて珍しいずら。あしが嫁いで、いや流れだったうちの人を婿に迎えて十数年、何回あったか。

「お上さん、これでいいかい?」

 ここらにはあまりいない垢ぬけた娘っこずら。どうやら、新しい領主様が来たって夕に騒がしかったがね。その一行のうちの人たちらしい。

「あぁ、あんがとうな。」

「いや、いや、これくらいねぇ。急に押し掛けてしまったしねぇ。あたしらも何か持ってくれれば良かったんだけど、丁度着いたばかりでねぇ。」

 娘っこ、アイシャちゃんは手を振って言う。公都の方の訛りずら。どうも、新しい領主様は公都から来た人らしい。実家から、先代、いやもう先々代になるんか、の御落胤を探しているって話を聞いたけぇ。そういうこんずら。

 男どもは何やら騒いでいる。うちの人、サテンはあまり喋らず、頷いたりしているだけだが。そんでも、数年振りには楽しそうな顔をしている。

 うちの人が呼んだカズはこの領都の大工の棟梁の一人だ。あまり、口達者でも無く、人付き合いも好きではなく、流れ者の、うちの人の数少ない友人ずら。カズは流れ者ではないが、公都に丁稚で出ていた。辺鄙なここいらを出たことがある、それだけで考え方は違うもんずら。

「しかし、アイシャちゃんらもてぇへんだね。こんに田舎まで…。」

 逆に、都会しか知らないこん人らには、ここはどうだろう。あしも若い頃、皇都には一度だけ、公都には何度か行ったことあるけぇわかるけんど。ここらにはなーんも無い。昔から流れ者は何人も見て来たけんど、大体は何もない、ここを出て行く。

 こん人らもどうだろうね。

「…悪いこと言わんずら。おまんの旦那もアレで腕は立つんだろうに…。」

 あしは小声で言う。

うちの人が認めるんだ。鍛冶は出来るんだろうな。でも、ここじゃ役に立てることは無いずら。もしかしたら、都会の方じゃあ食えない程度の腕なんだろうか。でもなぁ。そんでも、他に食い手稼げるとこもあろうに。

「…ここじゃあ…宝の持ち腐れってもんずら。疾くな。出て行った方がぁ賢いってぇもんずら。」

 新しい領主様ってのものな。先々代のぉ御落胤ってなれば、碌なもんじゃあないずら。郎党だけじゃなく、女どもも別嬪沢山連れて来たってぇな。見に行った者も行ってたずら。

「…うーん。あははは。まぁねぇ。まぁ…来ちまったしねぇ…。ははは。」

 アイシャちゃんは困った顔で答える。

「まぁ、柵ってのがあるんだろ。大変だぁな。」

 あしはよそった汁を男連中の方に持って行く。

「柵…ねぇ。確かにねぇ。確かに、柵かもしれないね。」

 後ろでアイシャちゃんが呟いていた。

 人生儘ならんもんだぁね。

温暖湿潤な地方では床は重要ですが、寒く乾いた地方では床はそれほど重要視されていたように思えないというのが色々調べた結果です。

日本で高床式が見られるのは紀元前2000年頃には既にあったのに対して、例えば北欧などの建築には床下はまともに無かったりします。平面を保つ目的で石を並べるということはあったにしても、地面から離した形で床を作るモチベーションが無かったわけです。

すると、庶民の家というものは基本的に地面そのままになったということになります。この辺の違いが現代まで屋内で靴を脱ぐ脱がないの違いとして残っているのかもしれません。

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