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而鉄篇  作者: 伊平 爐中火
第2章(前編)荒天
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―アルミア子爵領、山中、ジャコ―

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東の山高いアルミア領で日が昇るは幾分遅い。とは言え、雲に散らされし陽光は山を越え、起伏に富しこの地を朧に照らす。南に行くほど高い、山の斜面は勾配がきつく。歩くには辛い。だが、木々はふいに疎らとなるとこをもあり、根に足を取られるほどのことはない。

蹲る…腹伏す童子、いや青年。その中頃だろうか。己が身に土が付くも構わず、辺りを這いつくばり、石を見、土を舐める。それを見守るかのように立つ、白髪の老爺と壮年の男。

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 石、石、石こ。赤い。赤ぁい。赤くない?赤ぁい。

 オイラにゃ難しいことはわからない。でも、これはイイモンずら?

 

フブ爺さんに着いてって、オイラは山に来た。鉄の出来る石を探すんだって。んひ。親方に言われてな。んひ。ほんで、ここ三日三晩山を歩いているっつこん。

「おい、ガキ。」

 鉄になるって石は何で赤いんだろうなぁ?鉄は錆びたら赤くなるから?じゃあ、赤い石は皆昔は鉄だった?じゃあじゃあ、その前は?

「ガ…あー、ジャコ。聞いているか。」

 鉄が赤い石になって、赤い石がまた鉄になる。鉄はまた赤い石になって…。じゃあ、この黒い石は?白い石は?緑の石は?

「おい、親父。こいつ、どうするんだよ。親方に連れて行けって言われたがよ。」

 白い石は、硝子になる。テモイの兄ちゃんが言ってたな。薬にもなる。ミネの姉ちゃんが言ってたな。でも、その二つは違う石。

「ははは。こりゃ、憑きの類だな。親方も変わったモン持ってやがる。」

 石は色だけじゃないけ。味を見る。苦い、甘い、酸っぱい、しょっぱい。

「良かったじゃねぇか。育てりゃ、ゲッセイ、おめぇは周旋に専念出来る。」

 少し擦れば砂になるのもある。金槌で叩くと割れるのもある。真っ直ぐ割れるのもある。粉々になるのもある。固くて中々割れないのもある。

「俺は周旋なんざぁ、したくないんだが…」

割ったら、爺さんのくれた虫眼鏡ってのでようよう見てみる。石は、小さい石で出来ている。小さい石はキラキラと宝石みたいだ。いんや、普通の石と同じぐらいの大きさまで、小さい石が育ったのが宝石だって。爺さんが言ってたな。

「ゲッセイ、どのみち、おめぇの仕事は周旋になっただろうよ。」

 ん?あぁ。地がヴっと…。耳を地に着けてみる…。

「どういうことだよ。親父。俺は政治みたいなのは真っ平御免だぜ。知ってるだろ?俺の家ぁ…。」

 んー。あー。これは。どこかで、大きな地滑り…。

「おい、どうした?ガ…ジャコ。」

オイラはゲッセイのおっさんを見やる。大丈夫ずら。ここは関係ない。

「いや、何だよ。何か話せよ。って、石調べに戻るのかよ。」

 石は光の当て方を変えると見え方が変わるのもある。磨くとそれが良くわかる。でも、今は磨く道具が無いなぁ。

「全く何なん…。」

 でも、割るだけでも少しわかる。割った時の形と、光の向きを変えた時の形。これは一緒。一緒だ。んひひ。

「おい。揺れたぞ。親父…。」

 だから、割ってみる。トゲトゲ。カクカク。

「あぁ、もう。てめぇ、揺れが来るのわかってたろ。」

 ここの、赤いのは、赤くないのも…。

「おい、てめぇ、」

 ゲッセイのおっさんがオイラの肩を揺する。

「何ずら?オイラ、今忙し…」

「あぁ?」

「止めとけ。ゲッセイ。」

 フブ爺が入って来る。

「あージャコ。てめぇは続けておけ。俺とゲッセイの話だ。」

「ほうかぁ。」

 ほんなら。いいな。で、何だったかな。石、石、石こ…。

「ゲッセイ。てめぇも未だ未だだな。」

 これぁ、イイもんずら。んひ。

「人間な。凝る奴と凝らねぇ奴がいる。」

 オイラは親方に言われて、フブの爺さんとゲッセイのおっさんと山に来た。鉄になる石を探しに。

「それは、…。わからなくはねぇがよ。」

 鉄になる石は赤ぁい。少し見ただけでは赤くなくても、少し傷を入れれば赤い身を見せてくれる。んっひひひ。赤ぁいその身を見せてくりょ。んひひ。

「ゲッセイ。親方…、レンゾの奴や、あの鍛冶場の連中はどうだった?」

 鉄になる石の身は赤ぁい。でも、鉄に傷を入れるとはかさぶたが赤い。

「…そこまで長く話していねぇからわからねぇけどよ。」

 じゃあ、鉄のかさぶたが、また鉄になる?オイラのかさぶたは、また皮膚になる?

「親方は割合凝る方かなぁ。あの様子じゃ。」

 かさぶたは水にふやける。水浴びしてるといなくなってる。

「あれで、アイツは見えてる方だぜ?はっはは。」

 じゃあ、鉄は?鉄になる石は?

「どうだかよ。親父、あんたはどうなんだ?」

 そうか、そうか。いつかは。そうか。

「どうだろうな。」

 なるほど。なるほど。そんなら、あっちだな。あっちだ。

「おい、ガ…ジャコ。てめぇ、どこに行く。」

 オイラはゲッセイのおっさんとフブの爺さんを見やる。ゲッセイのおっさんは顰め面だが、フブの爺さんは口角を上げている。じゃぁ、いいか。そのまま、進むことにする。

「おい、だから、話せって。」

 この先に、溜まり場がある。多分。

「落ち着け。ゲッセイ。まずは…様子を見るんだ。」

 石。石。石こ…。

 …、ちがうなあ。ここん中だなあ。うーん。

「おう、ジャコ。ここはどうだ。」

 フブの爺さんが追いついて来る。

「だめだあ。中に隠れてんずら。」

「うぅむ。掘ってみてもよいが、流石に手間だろうな。ゲッセイ、一応地図に記しておけ。」

「あいよぉ。親父。」

 ゲッセイのおっさんが地図を広げて何やら書き留める。その間はおいらは特にやることもない。でもゲッセイのおっさんが描く地図は面白いからずっと見ている。

「あぁ。てめぇも地図の描き方でも覚えるか?」

 おっさんは顔を上げて言う。

「教えてくれるんけ?」

「まあ、お前が覚えたら、俺も楽だしな。親父もいつまで山を歩けるかわからねぇしな。」

 そう言って、おっさんは地図のどこが何を示しているとか、色々教えてくれた。また、詳しいことは順々に教えてくれるらしい。

 ほーん。地図も面白いもんだなぁ…。

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