―アルム近郊、マヌ村、ネメ―
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夕闇の時刻であるが厚い雲のせいか空には赤さは見えない。代わりに村の中央に焚かれた、井桁の火。周りには村の人々が集まり、わいわいと騒いでいる。領都の祭りと比べれば、楽器の数は少ないが、それでもその調べは流れていく。
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今日は村の春祭りと…、コッコ姉ぇとテガ兄さんの婚儀の祝いずら。
領主様んとこの春祭りが終わってしばらくしたら村の春祭り。仕出しも、盛り上がりも領主様んとこの方がすごいから、わざわざ村でもう一回する意味はあんまないと、あーしは思うんだけど…。皆が領主様んとこの春祭り行くわけじゃないし、父ちゃんも母ちゃんも楽しみにしているからなあ。
でも、都会のお祭りはもっとすごいって言うし、あーしも一回は行ってみたいなあ。
あーでも婚儀は春祭りと一緒にやるもんだしなあ。あーしもいつかは…。いや、もしお街の方のお祭りで婚儀上がられたら、それはどんだけいいことか。あぁ、それいいなあ。ジャコはちゃんと考えてくれているんだろうか。
そう言えば、今日は未だジャコの姿を見てないずら。あん子、目ぇ離すと直ぐどっか行ってしもからなぁ。
ここには村の皆が集まっているはず。あーしはきょろきょろと見回すが見つからない。
「ようよう、お嬢ちゃん一人?俺と一緒に一杯どう?」
酒を持って、どっか知らないお兄さんが話しかけてきたずら。か、肩まで組んできたずら。
「い、えぇえ…。」
こんな人、うちの村におったっけか?いや、いや、あーしにはジャコって許嫁が…。あ、いや、こん人どこかで…。
「ズブ兄ぃ…何してんずら…。」
「タキオぉ?」
村の同年代の男子のタキオがやってきた。しかし…ズブってぇと…。
「おう、何だ。タキオ、おめぇ。そりゃ、野暮ってぇもんだぜ。」
くいっと酒を呷るズブって人。
「あ、あぁ。ササン姉さんの…。」
「げ、姉ちゃん。ササン、知っているのかよ。」
「そらそうずら。精錬場にも来てたずら。」
タキオが呆れ声で言う。精錬場…、ジャコが働いているとこずら。冬の間に何回か行ったけど、そこにいた人かあ。道理で見たことあるなって。ササン様って言ったら、あそこのまとめの女の人ずら。コッコ姉ぇの上にいるって言う。
「えぇ。そうだったかな。こんに可愛い娘ちゃんなら、俺も気付きそうなもんなんだからなあ。」
「全く、親方が炉周りに女を近づけなかった理由がわかるずら。おいら、今日はズブ兄ぃを見張るように、女将さんに言われとんずら。それに、ネメはジャコの許嫁ずら。あんま、あれなんは勘弁してくりょうし。」
「ちぇ、仕方ねぇなあ。」
ズブ様とタキオは連れ立って去っていく。
ああ、何か入ったけど、そうじゃね。
ジャコを探さんとお。
ああ、ほんにジャコはどこ行ったずら!