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而鉄篇  作者: 伊平 爐中火
第2章(前編)荒天
68/139

―アルミア子爵領、アルム、領館、タッソ―

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ぴぃぴぃ、ちちちと小鳥啼く。窓際に留まりむしろ喧ましい。雪残れど既に春。これが、ここアルミア子爵領の春。山深い、黒き森の繁る。風吹けど、雪舞わぬ。ふわと、木々の葉揺れれば、雪どさと落ちる。風吹かねど、ゆるりと濡れて雪どさと落ちる。山際から出でた日はきらきらと雪を、雪解け水を輝かす。

領で一番高い建物、領館とて同じこと。軒下の氷柱は水を垂らしぽつぽつと。まだまだ、火鉢は欠かさねど、手翳し、手を揉む時間も随分と減った。

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「おう、タッソ邪魔するぜ。」

 私が冬の間に立てた領経営の計画案を見直していると、戸を勢いよく開ける音と、不躾な声が聞こえた。

 邪魔するなら、来ないでくれるかな、レンゾ。

「何ですか。レンゾ。こっちはアイシャがいないお陰で、仕事が増えているんです。」

「それを俺に言ってもしょうがねぇだろうがよ。」

 仕方無いのだろうか。まあ、ただ愚痴というか、顔見たら言ってやりたかっただけだから、どうでもいいのだが。

「それで、用事は何でしょう。細かい報告であれば、ササンとズブの方が話が早いのですが。」

 そうなんだよな。レンゾの話は、何かを説明しようとすると、あっちこっち飛ぶから、全容を掴むのが難しいことがある。おそらく、本人の中では接がっているのだろうが。

「おう、山を掘るから、許可をくれ。」

 と思っていたら、実に簡潔な要件だった。

「山ですか?」

「鉱山だ。この爺ぃに任す。」

 ははぁ、鉄鉱石が手に入らないからって、自分で鉱山を開くことにしましたか。ある意味レンゾらしい結果というか。

「で、そちらの方は?」

「フブだ。」

 レンゾがぶっきらぼうに言う。

「いや、あの、名前だけ言われましてもね…?」

「申し訳ございません。私、フブと言う者。訳有って、こちらのレンゾ様に助力し、鉄鉱山の儀承ることと、相成りました故。ご挨拶申し遅れ、汗顔の至り。」

 うーむ。完璧な辞令だ。これは、貴族慣れってやつがあるな。

「なんでぇ。フブ爺、おめぇ、あっははは。馬鹿じゃねぇの。がっははは!」

 もちろん、レンゾに貴族慣れってのは無い。

「フブさん、ご丁寧な挨拶ありがとうございます。でも、私も田舎生まれの者です。家令なぞ、承っていますが、気安く話していただければ…。」

「そうだろうがよ。そう畏まっちゃあよ。何も話せねぇだろうがよ。なぁにが、俺は貴族慣れしているからぁよ、だってんだ、ってぇの。」

 レンゾ、あのですね。あなたね。その態度で通じる貴族なんて、そうそういませんよ?

「おう、タッソ、てめぇ、そんなんじゃあ、ヨソじゃぁ通じねぇって言おうってんだろ?えぇ?。」

 そうですよ、本当に。

「えぇ?でもよぉ。あぁん?いいじゃぁねぇか。ここじゃあ通じるんだからよ。えぇ?」

 はぁ…仕方無いな。

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