―アルミア子爵領、アルム、領館、タッソ―
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ぴぃぴぃ、ちちちと小鳥啼く。窓際に留まりむしろ喧ましい。雪残れど既に春。これが、ここアルミア子爵領の春。山深い、黒き森の繁る。風吹けど、雪舞わぬ。ふわと、木々の葉揺れれば、雪どさと落ちる。風吹かねど、ゆるりと濡れて雪どさと落ちる。山際から出でた日はきらきらと雪を、雪解け水を輝かす。
領で一番高い建物、領館とて同じこと。軒下の氷柱は水を垂らしぽつぽつと。まだまだ、火鉢は欠かさねど、手翳し、手を揉む時間も随分と減った。
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「おう、タッソ邪魔するぜ。」
私が冬の間に立てた領経営の計画案を見直していると、戸を勢いよく開ける音と、不躾な声が聞こえた。
邪魔するなら、来ないでくれるかな、レンゾ。
「何ですか。レンゾ。こっちはアイシャがいないお陰で、仕事が増えているんです。」
「それを俺に言ってもしょうがねぇだろうがよ。」
仕方無いのだろうか。まあ、ただ愚痴というか、顔見たら言ってやりたかっただけだから、どうでもいいのだが。
「それで、用事は何でしょう。細かい報告であれば、ササンとズブの方が話が早いのですが。」
そうなんだよな。レンゾの話は、何かを説明しようとすると、あっちこっち飛ぶから、全容を掴むのが難しいことがある。おそらく、本人の中では接がっているのだろうが。
「おう、山を掘るから、許可をくれ。」
と思っていたら、実に簡潔な要件だった。
「山ですか?」
「鉱山だ。この爺ぃに任す。」
ははぁ、鉄鉱石が手に入らないからって、自分で鉱山を開くことにしましたか。ある意味レンゾらしい結果というか。
「で、そちらの方は?」
「フブだ。」
レンゾがぶっきらぼうに言う。
「いや、あの、名前だけ言われましてもね…?」
「申し訳ございません。私、フブと言う者。訳有って、こちらのレンゾ様に助力し、鉄鉱山の儀承ることと、相成りました故。ご挨拶申し遅れ、汗顔の至り。」
うーむ。完璧な辞令だ。これは、貴族慣れってやつがあるな。
「なんでぇ。フブ爺、おめぇ、あっははは。馬鹿じゃねぇの。がっははは!」
もちろん、レンゾに貴族慣れってのは無い。
「フブさん、ご丁寧な挨拶ありがとうございます。でも、私も田舎生まれの者です。家令なぞ、承っていますが、気安く話していただければ…。」
「そうだろうがよ。そう畏まっちゃあよ。何も話せねぇだろうがよ。なぁにが、俺は貴族慣れしているからぁよ、だってんだ、ってぇの。」
レンゾ、あのですね。あなたね。その態度で通じる貴族なんて、そうそういませんよ?
「おう、タッソ、てめぇ、そんなんじゃあ、ヨソじゃぁ通じねぇって言おうってんだろ?えぇ?。」
そうですよ、本当に。
「えぇ?でもよぉ。あぁん?いいじゃぁねぇか。ここじゃあ通じるんだからよ。えぇ?」
はぁ…仕方無いな。