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而鉄篇  作者: 伊平 爐中火
第2章(前編)荒天
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―アルミア子爵領、アルム、領館、ナナイ―

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雪が大分融け始めたとは言え、風は未だ冷たい。明かり採りのために開け放たれた窓からは強くはないが風が吹き込む。一同集まって囲む囲炉裏、そこにある火はふらふらと揺らされる。木組みの椅子に座って、ナナイにここに来てからの次第を話す、タッソ、ズブ、テテ。付き添うササン。

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 アイシャは身籠っていた。レンゾの子を。

 え?私、アイシャとレンゾが一緒になったぁなんてね、聞いてないよ?え?いつ?いつから、そういう仲になったんだい?そんな私の疑問に対して、アイシャは「いつからだろうねぇ」なんて、はぐらかしやがったよ。はぐらかすようなことかい?

 いいんだけどね。私はね。私はセブ兄ぃの子を授かるからね。いずれね。

 そうだ。セブ兄ぃだ。どうやら、ここの家宰であるタッソさん曰く、セブ兄ぃは今皇都に行っているらしい。そんなぁ。私が、愛しのナナイが来るってぇ時機にね。セブ兄ぃは間が悪いね。いや、もしかしたら、私に会うの恥ずかしがっちゃったのかね?セブ兄ぃは、あれでそういうとこあるからね。


「えーと、ナナイさん聞いていますか?」

 家宰のタッソさんが何か言っているね。

 今、私はタッソさんから、この領に来てからのセブ兄ぃの状況なんかについて説明を受けていたところだよ。もちろん、タッソさんが細かい状況を把握しているわけがないから、兵隊組からはテテ兄ぃも来てくれた。後は、この領館で働いているメッケと、レンゾと一緒に鍛冶だなんだをやってたって言うズブ、ササン。アイシャの奴は未だ休んでいるけどね。無理したっていいことないからね。

しかし、ハンズと、ドロが死んでいたとはね。その時は皆大変だったみたいだね。うん。私はハンズとはあまり喋ったことは無かったけどね、ドロとは子供の頃からの付き合いがあったからね。家が近かったわけじゃないけど、母方の従弟のズブはドロと幼馴染だったしね。頻繁では無いけど、顔を合わせることも多かった。でも、そうすると、ズブの方が落ち込んだんじゃないかねぇ。

でも、あの感じだともう乗り越えたみたいだね。その話の時の態度から私は察したよ。ササンがあんなにズブを思いやるとはね。何だか、半年ばっか遅れただけなのに何だか少し置いて行かれた感じがあってね。少し寂しいね。

「あぁ、聞いているよ。皆大変だったみたいだね。すまないね。遅れちまってね。でも、私が来たからには百人力だよ!」

相変わらず私の仕草は完璧だ。可愛く決まっている。これは舞台女優も裸足で逃げ出すね。間違いないさ。

「え。あ、はい。」

ほらね。タッソさんも固まるしかないよ。惚れちまったかい?残念だね。私はセブ兄ぃ一筋なんだ。

「ナナイ姉ぇ。その意味ない仕草はいいからさ。」

ズブの野郎が水を差してくる。私はギロと睨め付ける。こん子は昔からわかってないね。そんなんで、ササンと大丈夫かい?

「ま、まあ。それは置いておいて…。ナナイさんも、うちに仕官するってことで良いですか。」

「そうだね。仕官というか、私はセブ兄ぃのために一働きでも二働きでも百働きでもしに来たってわけさ。」

私はずいとタッソさんに寄る。目はやや流して、片目を閉じて魅惑的に。どうだい?

「わ、わかりました。」

タッソさんは顔を引く。なんだい?つれないねぇ?

 仕方なく、私は引き下がる。

「そんで。なんだい?そういうことを言うってことは何か仕事がぁあるってぇことだね?」

私は腕組みしながら、タッソさんに人差し指を向けながら言う。今度はうって変わって仕事の出来る女だよ。参っちまうね?

「え、ええ。そうです。先ほど持ち上がった案件なんですがね。」

「あータッソ兄ぃ、俺が説明しようか。」

へぇー、あのお間抜けズブがね。自分から説明しようだなんてね。驚いたね。ちっとはここ半年で成長したってかね。泣けちまうねぇ。これは。

「なーんだい?ズブぅ?えぇ?お前も偉くなったもんだね?どれ説明してごらんよ?このナナイの姉御にね!」

私はタッソさんに向けていた人差し指を身体ごと、ちゃらんぽらんこと、ズブに向けなおす。

「相変わらず、ナナイ姉ぇはいちいち動きが大きいなぁ。」

ホントにあんたは口が減らないね。ホントに三つ子の魂百までってぇやつだね。

「わかった。わかった。あんま睨め付けないでくれ。姉ぇ。ササンはな。痛いから、あんまり脇腹を強く掴むのを止めておくれ。ほれ、ほれ、怖くないよ。ナナイの姉御だよ。」

どうにも、ササンは私には懐かないねぇ。両手を上げて降参を示すズブの脇腹を掴みながら、私を睨め付けてくる。ズブの背に隠れながらね。これはね。先が思いやられるね。

「そんでよ。頼みってのはよ。」

ササンに掴まれながら、ズブは話を続ける。そこはね。そうじゃぁないだろうよ。あんたね。ズブよぉ。ぱっぱらぱぁのズブよぉ。

「俺達よぉ。レンゾ兄ぃの許でよぉ。鉄を造ってたってぇわけだ。」

さっき聞いた。同じことを繰り返すな。ズブ減点。ってな。ははは。

「そんでよぉ。まぁな。それなりのものは出来たんだがよ。これの売り方ってのがよ。ねぇんだな。これが。って笑ってんじゃあねぇよ、姉ぇ。」

「あっははは、すまないねぇ。」

でもね。確かにね。ズブと、レンゾの野郎じゃあね。そうだろうね。テガもいるんだっけか。テガはしっかりしているがね。でも押しが弱いからね。

「で、そんで?そんで、何だい?私にね、頼みたいってぇことは何だい?言ってみなぁ!」

私はここで、ここ一番と、可愛く、艶やかに見栄を切るよ。そうだね。ここがぁ見せ場ってぇやつだね。これは後世に残るね。間違い無いね。ナナイの一代記、三十とぉ七番目の見せ場だよ。一番はセブ兄ぃのために残しておくからね。よろしく頼むよ?あふぅん。

「いちいち大げさなんだよなぁ。」

あぁ?

「わかった、わかった。そんでよ。頼みってぇやつはよ。俺らがよ、造った鉄でよ。農具やなんかを作るからよ。それを売りに出して欲しいってぇことだよ。この、アルミア子爵領を主にしてよ、他の領やなんかにもよ。」

「何だい?そんなことかい?持って回った言い方しよってね。私のね。愛嬌を持ってしたらね。屑鉄だってぇ、金の塊さね。任しておきなぁ!はっははは!」

「俺らは屑鉄何ざ作っていねぇよ。」

ズブが不機嫌そうな顔をする。ふふん、一端の職人ってか。ふふふ。

「それは、すまなかったねぇ。いいよ。ふふふ。ふふふ。あんたもねってぇ、ふふふ。」

「何でぇ気持ち悪ぃなあ。」

あんたねぇ、ズブ。そういうとこだよ。ホントにねぇ。

「…そうか。そういうことになっていたか。」

テテ兄ぃが口を開く。

「ああ、テテ兄ぃ。すまねぇな。何も話してなくてよ。」

「いや、ズブ。そう言うな。管轄が違うからな。」

「そう言ってくれると、ありがてぇ。なんせよ、さっき決まったことでよ。」

なんだい。行き当たりばったりってぇかい。ホントにね。

「…タッソ。確認したいことがある。」

「何でしょうか。」

「王国の方に、売りに行くのは、法とか…政治とか…、そういうのに問題がないのか?皇家や大貴族なんかに目ぇ付けられたりとか…。」

「…そうですね。売りに行く物次第ですが、うーん、農具や、村の自衛用の武具ぐらいだったら問題無いでしょうね。…飽くまで、質がちょっと良いぐらいなら。それぐらいなら、どこから来たものかなんて、そうは気にしないでしょうし。」

何だい?回りくどい言い方だね。

「そうか。ナナイ、王国の方まで売りに行くのは出来るか。」

テテ兄ぃはこちらを見て言う。

「誰にモノ言ってんだい、ってんだぁね。」

まず、ここで大見得を切って、下から睨め付ける。

「テテ兄ぃ。私に出来ること、出来ないこと、考えてからモノ言いなってな。」

次に、テテ兄ぃのの鼻をぽんっと人差し指で叩く。

「出来るに決まってらい!ね?」

そして、指は天に、高く掲げ、可愛くね!

「お、おう。」

「うーん、じゃあ、出来た鉄は、うちで使う分以外は、一先ず、道具に加工して、ナナイさんに売りに行ってもらうってことで…。」

「任しときな!」

 ばしっと家宰のタッソさんの方を指さしておく。


 …ふーん。しかし、物売り…ねぇ。腕が鳴るねぇ!

 あれ…でも、そしたら、またここを直ぐに発つってぇことになるのかい?折角来たのに?

 セブ兄ぃは?

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