―史官、アイシャに尋ねる。テニニ鉱山の長屋、その奥の一棟にて―
いや、嬢ちゃん、うちの人が迷惑かけたね?
どうもね、昔からあんなんでね
すまないねぇ
…
何だい?あたしのぉ話もぉ聞くってかい?
嬢ちゃんも大変だねぇ?女だてらに、そんな畏まった格好してっからに
窮屈だろうによぉ
ここはね、こんなところだからね、どうせね、しょぉんもない爺ぃと婆ぁしかいなしね
なんだい?ダンゾ、あんたは黙ってな!
どうだい?もう少し楽な恰好に着替えてもいいんだよ?
…
そうかい?まあ、嬢ちゃんがそういうならあたしはいいよ、こういうんはね、てめぇで決めろてっえね
しかしねぇ、こんな婆ぁにね、話聞いたってぇ面白いモンは、まあ出てきやあしないよ
…
皇史編纂ってのも大変だねぇ、こんな田舎に来て
適当にね、セブ兄ぃらは忙しいかもしんないけど、他にもね、たんと話聞く人らもあったろうに、そんでね、仕上げたらよかったじゃあないか?えぇ?
…
そうもいかんてね、しょうがないね、嬢ちゃん根が真面目そうだしねぇ、そうもいかんてね、大変だね
まあね、あたしで良けりゃあ、何でも喋るよ
どうせね、暇してる婆ぁだからね、あたしゃあね、へっへっへ
…
そんなにかしこまっちゃあいけないよ、嬢ちゃん、ね?
あたしゃあ、そんなぁ大した人間じゃぁないよ?
あんまかしこまっちゃあ、相手も話せることも話せないからね、まあ、あたしらの流儀かもしらんけどね?
別にね、あたしらもね、皇帝陛下に御褒賞賜ろうってな、そんなんね、大層なね
まあ、成り行きさぁね、本当に
本当にそうとしか言いようがぁないね
別にあたしら大層な生まれでも無いしね
あん頃はね…
って、何さぁ、婆ぁに何喋らせようってんだい?嬢ちゃん!
嬢ちゃん、才能あるよぉ
年寄りに話を聞くってぇねぇ!へっへっへ
うちの子らより、よっぽど話でってえのがぁあるってんだ、ねぇ?ダンゾ?あんたぁ、聞いてるのかい?!
あんたね!
…
ねぇ、うちの子らは皆あんなんだよぉ
年寄りの戯言だってね
嬢ちゃんね、折角、だしねぇ
婆ぁの愚痴だがねぇ?聞いておくれよ、ね?
…
あぁ、ナナイの奴もね、そうだね、彼奴も偉くなってたね、そうだねぇ
彼奴もね、しょんない生まれだね、あたしらと同じね、でも偉くなったね、偉いもんだねぇ、えぇ?
…
そうだね、あんたね、本当にね、難儀なぁ仕事だぁね
あんた、そうだね、そういう意味ではねぇ、あたしの愚痴も聞いていっても、まあ罰はあたんないだろうよぉ…仕事だしね、
しょうがぁないね…本当に…