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而鉄篇  作者: 伊平 爐中火
第1章(後編)冬の仕事
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―アルム近郊、精錬場、ズブ―

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朝から昼には日照って。日僅かに傾き始める頃にちょいちょい雲出る。それが、この頃、この地の天の気。なれば、やや雲の空隠し始めるは丁度真昼の過ぎた頃。つまりは、そういうこと。何一つ不自然などない。どこからか、雪、ふわっと舞う。空から舞ったか。地から舞ったか。判然とせぬ。

炉は火を噴く。赤く、青く。ここしばらくの雪の合間で、炉周りの雪は溶けて見えない。雪の残滓はちょろちょろと流れる側溝の水。

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 レンゾ兄ぃは簡単に言ってくれるが、炉の設計するっつうんはそう簡単じゃねぇ。

「ササン、一昨日やったやつの覚書あるか?」

 ササンはコッコに何か言って木札を持って来させる。


 どうにも最近書き残すことが多くなって、最初みたいに羊皮紙を使うのはやめたらしい。あんなに使ってちゃあ、いくら金があっても足りなくなるからだな。そもそも、冬は3ケ月ほどアルミア子爵領は雪でほとんど閉ざされるから、手に入らなくなる。金以前の問題だ。

 羊皮紙職人やってたトトン兄ぃに聞いてみたが、設備が足りないらしい。設備が無いなら作れってレンゾ兄ぃと、諦めるトトン兄ぃの考え方はちっと違うみたいだな。トトン兄ぃは自分の考えだとかをまとめるのに紙が入用ってなわけで、羊皮紙職人になったってわけで、別に羊皮紙が必須でわけじゃぁねぇらしい。良くわかんねぇな。そう言えば、公都にいた時の仕事まんまなのってレンゾ兄ぃだけじゃねぇか?

 まあ、設備を造るって話になったのは、レンゾ兄ぃもアイシャ姉ぇに尻叩かれてなんだけどさ。

 

 俺の今の仕事は炉の改造ってことになっている。だが、単純に炉だけってわけじゃあない。炉の周辺含めて、みたいな感じになって来ている。


 まず、雪の問題だわな。アルミア子爵領はたーんと雪が降る。俺は、っていうか、公都出身の連中はほとんど皆雪を見たことが無かったから、最初は大はしゃぎだったんだが、今のなっちゃあ憎くて仕方ねぇ。

 雪は融けたら水になる。当たり前だわな。で、精錬場の周りは熱気もあって結構な割合で融けてくる。そうすると、どうなるかって言うと、辺り一面水浸しだ。これには困った。炉は湿気を嫌うからな。


 だから、まず排水路を造るところから始まった。別に難しい話じゃあ無いし、農民の人らには割と慣れた作業でもある。だから、手間取るってほどではなかった。ただ、結構時間使っちまったな。他の作業と並行だけど、これで10日以上使っちまった。


 排水路は溝を掘っただけじゃ崩れるから、ある程度溝を掘った後を何かで固める必要がある。普通は木材とか、立派にするなら石積でやる。今は石積でやってる暇はないから、取り敢えず炭焼きする前の木材ちょろまかして、それを並べた。炭焼きやっているテッポウのおっさんが文句を言って来たが、謝り倒すことで何とかした。石工のスーデンのおっさんが来たから、今はちょこちょこと石積に変えている。

 後は、排水路に橋みたいなの付けなきゃあ、鉄鉱石運ぶのもコトになるからな。これも地味に時間がかかったな。何せ重たい鉱石を運ぶための橋だからそこそこ頑丈にしておく必要がある。そんなもん俺らで作れるはずもねぇ。もう仕方ねぇって、溝の前で鉱石下して、空になった荷車だけ渡して、なんてやっていた。それこそ、石工の出番だろってスーデンのおっさんにやってもらった。スーデンのおっさんも取り敢えず鉱石や珪砂の磨り潰し用の石臼が必要ってんで連れて来られたが、割と色々なことやっちまうようになったな。まあ、石橋の方が慣れた仕事だったろうがな。別に石工たって、石造り何でも出来るってわけじゃねぇからな。


 俺も、料理人だったが、何でも料理作れるってわけじゃねぇからな。作ったことない奴に比べりゃあ何とかなるけどよ。俺の働いていたところは仕出し屋で、金持ちにはいつもの、平民には贅沢モンってぐらいの級だったからな。領館の厨房でやってた時には贅沢過ぎだった怒られたもんだ。確かに考えたら、俺も自分の作ったものと同じ豪勢さのものを食ったのは、賄い以外じゃ姉貴の結婚式ぐらいだったもんな。


 高くするのには煉瓦が必要だった。だから、これが出来たのはアルオのお陰が大きいな。土を積み上げるだけじゃ中々高くは出来ねぇ。まずは、煉瓦で基礎となる部分を造って、それを土で補強する形だ。最初に火入れする時は土をゆっくり乾かしつつ、徐々に火を強くしていく。本当は2,3日置いて、自然に乾かしたいんだがな。ここは寒いから翌朝来ると、土の水気が凍って割れちまったりするから、作ったら一日で乾かすところまでやらなきゃあなんねぇ。ひどい時は寝ずの番で乾かしたな。今はそこんとこ案配もわかってきたから、あまりやることもねぇが。

 羽口の大きさは調整して何とかいい案配を見つけようとしたが、難しかった。だから、もう思い切って蓋を出来るようにした。地味に蓋をどうするかにも苦労した。まず、石なんか詰めてみたが、隙間が大きい。そこから風が逃げちまう。煉瓦にしてみたが、あまり状態は変わらなかったな。だから、レンゾ兄ぃに鉄扉を造れねぇか聞いたら、案外直ぐに出来た。聞いてみるもんだな。


 まあ、大体こんな案配だな。今取り組んでいるのは炉のどこに鉱石を入れるか、だな。炉の温度が一番高いのは上よりの中腹辺りだから、この辺りに鉱石を留めてぇんだが、上手いやり方は無いか、ってんだ。中腹辺りまで炭を置いて、上から鉱石を入れて炭が燃え尽きたら落ちてくるって言うのが今のやり方だが、炭が少し無駄になるんだよな。


 そんで今までやってきたことを少し見返そうとササンに声をかけたんだった。

「ズブ、聞いているか。」

 ササンが声をかけてくる。

「あん?あぁ、少し考え事してた。あんだって?」

 ササンが少し心配そうな顔をする。こいつはいつも不機嫌そうな顔しかしてないが、最近はその微妙な変化に俺もわかるようになってきた。

「少し、炉のことを考えていただけだ。そんで、あんだって?」

 ササンは溜息をつく。

「タキオが、排水路が一か所ダメになりそうだって。昨晩は大分降ったから。」

「仕方ねぇなぁ。」

 俺は立ち上がりつつ、ササンに木札を渡した。

「これは片付けておいてくれ。」

 取り敢えず、俺はタキオを探すことから始めることにした。

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