―アルム近郊、精錬場、ズブ―
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どさっと、雪の落ちる。針葉樹から。日に大分暖められたか。ただ単に木が重みに遂に耐えかねたか。それとも、鉄火場の熱にやられたか。流石、最後のそれは無いだろう。硝子炉、煉瓦炉、鍛鉄炉に、製鉄炉。いずれも遠い、精錬場が入口。小山と積まれた石の山の麓。まさか、炉の熱の伝わるはずもない。しかし、中々。そうも断ずるも早計かと思うばかりに、男衆は肩口まで袖捲り上げ。むしろ、咽返るほどの男気に、雪が溶けたとなれば、それ誉れ。
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「親方ぁ!うちの珪砂を盗ったのは、親方だって聞いたぞ!」
「あぁん?珪砂だぁ?」
テモイがレンゾ兄ぃに怒鳴り込む。
さぁて、俺はどうしてこの場にいることになってしまったのか。
てか、テガの野郎、さっきまでいたのにどこに行きやがった。
「あ、ズブ兄ぃ、ずいぶん大変な有様だなぁ。」
タキオの野郎が間抜け面引っ提げて来やがる。
「てめぇ、他人事かよ。」
こいつはどうもしゃんとしねぇな。
「いや、久しぶりに琺瑯やろうと思ってよ。」
レンゾ兄ぃが悪気もなく言う。
「じゃあ、言ってくれよ。何で全部持っていくんだよ。ていうか、何でいきなり琺瑯なんだよ。今必要ねぇだろ。」
「あぁん?琺瑯いいじゃねぇかよ。錆びにくいしよ。」
「いや、そういうことじゃなくてよぉ。」
テモイもどう言っていいかわからん、ってなぁ案配だ。
そこに、公都から来たもう一人の職人、煉瓦職人のアルオが来た。
「親方ぁ、珪砂ねぇか。ちっとツナギに欲しくてよ。出来るだけ純度が高いやついいな。粒は細かいほどいい。」
珪砂ちゃんモテモテだけぇ。こらぁ、アイシャちゃんも敵わんけぇ。
いや、いけねぇ、いけねぇ。ササンは落ち着け?な?
「あぁん?珪砂なら、鉱石によ、珪石が混ざってるからよぉ。そっから削れ。」
「親方、めちゃくちゃ言うねぇて。」
仕方ねぇだろ、アルオ。お前はそういうところに来ちまったんだ。諦めてくれ。公都じゃあ、商人がいて大体のものは手に入るかもしれねぇが、ここじゃ大体のもは自分で作るしかねぇ。
「石臼かなんかあったら、出来るだろ。」
「石削れるような石臼がここにあるかってんだ。」
そもそも、珪砂って珪石削って作ってんのか。
「じゃあ、石工にでも頼むんだな。奴らなら作れるだろ。」
石工ねぇ。アルミア子爵領にいるんか?いや、いたとしても領内もほとんど行き来できねぇしな。アルムにでも居なきゃあお手上げだな。
「石工かぁ…うちの村に石工だった爺さんいるぜ?」
タキオがぽつんと言う。
「よし、ズブ。タキオと行って、その爺さん連れてこい。」
「えー、俺がかよ。俺も仕事があるんだがな。」
「石工なら、その辺の道作るのみ使えるだろ。鉱石運ぶのも楽になるぞ。」
「仕方ねぇなあ。おい、行くぞ。タキオ。」
「え?今から?いや、おいらはいいけどよぉ。」
ササンが付いて来ようとしたが、もう夕方だし先に帰れと言っておいた。大分揉めたが、何とか納得してくれたようだ。
しかし、色々出来る奴が増えていくなぁ。いや、未だ石工の爺さんが来てくれるようになると決まったわけじゃねぇけどよ。