―アルム近郊、精錬場、タキオ―
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奔るタキオはふと立ち止まる。ふっと天を見上げる農家の子倅。空を緩やかに滑る鳶の黒影。ぴーひょろろ、と声もどこからか聞こえる。対する地では、あっちらこっちら、えっほえっほと、物運ぶ人夫。立ち止まった小童を気にするはずも無く行き過ぐ。
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え、これ、つまりレンゾの親方に、珪砂持っていったのはあんただろ、って言いに行く仕事け?
いっとう、こりゃあ、参る仕事だけぇ。あん人怒ると怖ぇからなぁ。
確か、テモイの旦那にも伝えろってったな。テモイの旦那なら、少しはええかな。うん、レンゾの親方に言うより、まだええなぁ。
よし、まずテモイの旦那に伝えよう。
「旦那ぁ、テモイの旦那ぁ、タキオでやす…」
テモイの旦那を探したら、ミネの姉御となんちゃら話しとん。
「あ、タキオくんじゃないですか。こんなところに珍しいですね。」
先にミネの姉御が声ぇ上げた。ミネの姉御は最初は領館の近くでやっとったが、最近はモノ出来るとこん近くがええて、ここ辺りに小屋建ててやっとることが多い。
「手前はタキオつったな。何ぞ、遣いっ走りかい。」
テモイの旦那も答える。
「いやぁ、すまねぇ、旦那。珪砂のこと何だが。」
「あー、やっぱアルオだったか?野郎、どうしたろうか。」
テモイの旦那が空中を睨み付けながら、手でなんか締め付けたりしてる。
あいや、こん人も大分気ぃ短いなあ。
「あ、えー、いや、すまんけぇ。おいらがな。そのぉ、レンゾの親方に言われてな、珪砂を持ってった。」
「あんだと?」
ひえぇ、おっかね。
「いや、すまねぇ。親方の言いつけちゃあ、てめぇにゃあ、どうしようもねぇ。悪かったな。」
おう、あーテモイの旦那が話がわかる人で良かったけぇ。これがレンゾの親方じゃあ、相手が領主様でもどうなるかわからんけぇ。多分、アイシャの姉御ぐらいだろうな。
「いや、テモイの旦那。すまんけぇ。」
「もういい。親方にゃあ、困ったもんだ。一度、言ってやらんといかんな。そういうわけで、ミネ殿、あいすいませぬ。」
ミネの姉御は、テモイの旦那から見ると、ミネ殿なんかぁ。
「ミネの姉御って思ったより偉いんけぇ?」
つい、聞いてしまう。
「うふふ、タキオくん、何を言っているんですか。解剖しちゃいますよ?」
「ひぇ、勘弁しおくれぇ。」
ミネの姉御はオイラより、何ならオイラの十になる末の妹よりちっちゃい。
でも怖えんだな。
「あれ?今タキオくん、私のことちっちゃいって言いませんでした?」
ひえぇ。