―アルム近郊、精錬場、ズブ―
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精錬場の外は森、森、森。ついの十歩ほどさえも黒く染める針葉樹と、それに乗った白い雪。最早、日は中天。しかし、精錬場から東西に伸びる道には日は差さない。それに比べると木々を切り倒して出来た精錬場は良く照らされている。
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「ほういうことさぁ。」
コッコが言う。
なぁにが。ほういうことさぁ、だよ、わかんねぇよ。
何で、テガはあの報告でわかるんだよ。お前は、テガは、何で、「わからんのかよ」って顔してんだよ。何一つわかんねぇだろ。何一つ要領得ないだろ、えぇ?
そんでも、いいわ。
もう、いいわ。
状況はわかった。
よーしわかった。
これでもないぐらいわかった。
「つまり、レンゾ兄ぃが悪りぃんだな!」
俺は叫ぶ。
と同時にそこらの石を地に投げつける。
こうでもしなきゃぁ、やってらんねぇってよ。
「そういうことだな。」
テガは冷静に頷いて同意する。
お前ぇ、相変わらずだなぁ。
「そうだ。大体、レンゾ兄ぃが悪い。全部悪い。この世の悪いものすべてあいつのせいだ。諸悪の根源だ。ズブもようやくわかったか。」
ササンは言い過ぎだな。ほれ、コッコが戸惑ってるだろ。
「ほえぇ、レンゾの親方がぁ…、ほえぇ…。ほんな、ほんな悪いお人だったんけぇ。ほんな…」
コッコさんは状況把握しようぜ?あんたが伝えてきた情報、どう考えてもレンゾ兄ぃが発端だろ。
「コッコ、落ち着いて、レンゾの兄貴は別に悪い人間じゃあない。まあ、ちょっと、まあアレなだけだ。」
テガってコッコに対しては、何つうか、こうイイ男、だよな。ホント、お似合いだぜ。チクショウ!
「それで、誰がテモイさんに伝えるの?あと、レンゾの野郎にも。」
ササンが言う。そうだろうなぁ。誰が伝えるか。テモイの奴も、レンゾ兄ぃも短気だからなぁ。
「ズブだろ。そういうのは、ズブの役割だ。」
テガ、てめぇ。
「俺の役割は、コッコや、他の領民の皆との繋ぎだからな。俺はコッコの婚約者だからな。」
てめぇ、公都じゃあ見せたこともねぇ男前の面ぁしやがる。コッコは、「照れるけぇ」とか悶えている。本当にお似合いだよ。クソヤロウ。
「それに、ササンじゃあ、また…、問題も…。」
一度、テガはササンを見やって、その後続ける。
「ああ、いや…ササンは出納の仕事もあるしな。ここはズブ。お前だ。」
テガは腕組みしたまま、こっちを見やり頷く。
おっかしいなあ。俺はこれでも料理人やって頃ぁ、自由人だなぁ、なんて迷惑かける側だったんだぜ?ここ最近と来たら、俺が辻褄合わせしてんだよ。そういうのは俺の役割じゃぁねぇんだよ。
よぉし、決めた。
「タキオ!」
そこで、コッコに連れて来られて黙っていた、農家の子倅にぶん投げることにした。
「へい!」
タキオの奴は直立。
「てめぇ、いっちょ男になるか!?ならねぇあ!?あぁん?」
右肩を叩いて俺は続ける。
「へい!おいら、男を見せてぇでやんす!」
おい、こいつ口調おかしいぞ。まあ、最近はレンゾ兄ぃとの仕事が多いってのもあって、アルミア領訛りと公都訛りとがぐちゃぐちゃになって、たまに変な言葉喋っているしな。
「よーし、てめぇ言ったな?じゃあ、顛末をレンゾ兄ぇに伝えて来い。テモイの野郎にもな!」
「へい!わかっしゃしゃたー!」
タキオが駆けていく。
よし、俺は仕事を果たした。