―アルム近郊、精錬場、タキオ―
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奥の精錬炉周りは随分と熱がある。取り敢えずとばかりに掘られた壕には除けた雪から、ちょろちょろと水が流れる。煙突型の炉には、上からごろごろと鉄鉱石や炭が入れられていく。鞴の調子に合わせ、炉頂からは沸き花がふわふわと飛ぶ。
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「タキオ、おまん…ちっと」
タスク叔父貴が通りから俺を呼ぶ。オイラも暇じゃあねぇんだけどな。
タスク叔父貴は、俺の親父の弟だけ。横にコッコ姉ぇもいる。コッコ姉ぇは、つまり、親父の弟の娘ってなら、従姉ずら。
んでも、タスク叔父貴も偉そうにすんねって。オイラ、この前公都行ったんだぞ。いやぁ、でかかったなぁ。公都は。ありゃあ、そうだ、何だってんだ、それだ。つまりだ。俺はぁ、公都に行ったんだぞ。
「タキオ!たんと聞いとんけ!」
コッコ姉ぇが叫ぶ。なんじゃら、必死な感じだなぁ。コッコ姉ぇは、あんの、きつそうなササンって人。つまり、ズブの兄貴の女ずら。その御人の下に着く。…下に着く。
いやぁ、ズブの兄貴のなぁ…。ん?…じゃあ、そんじゃあ、そんに怖くないんじゃあ。ズブの兄貴の女だもんなあ。そう考えると、大したモンじゃあね気がしてきたぞ。
コッコ姉ぇも大げさだなあ。
「ササン様、あ…、ササン姉ぇがケーシャが足らんて。ほんで、アルオ様んとかじゃなけぇて。ほんで、お父ちゃんに聞いたら、ほいたらお父ちゃんが、タキオおまんが持ってたって。ケーシャがなんじゃあ持てってどうすんのって。おまん!」
五月蠅いずら。ほんに。
ケーシャ?珪砂かぁ。コッコ姉ぇ、珪砂が何かあ、わかってねな。
「コッコ姉ぇ、珪砂がなんじゃらわかっとるんけ?」
あらぁ、要は白い砂ずら。
「ケーシャはケーシャずら。ササン姉ぇが探しとんけぇ。早うお言い!」
コッコ姉ぇはがったがったとオイラの肩を揺する。
やっぱ、コッコ姉ぇ珪砂が何かわかとっらんけぇ。こんでも、オイラはタキオの兄貴の元で、ずっとやってんだぞ。ちぃと前ぇから、畑が暇んなったからって、手伝っとおコッコ姉ぇとは違うずら。
「ほんなら、教えたろか。コッコ姉ぇ…、珪砂っつうんは…。」
「タキオ!ほんなん、どうでもいいんだぁ。ササン姉ぇがケーシャが無いって、おってってるんでぇ!」
ササン姉ぇが?なぁ…。
うーん。んでもな?
ササンの姉御が機嫌悪ぅすると、持って回ってズブ兄ぃが、いじけるもんなぁ。
ほしらた、オイラにも何かしら回って来るもんなぁ。
ほんなら、急ぎだぁ。コッコ姉ぇ最初にそれをお言いよ。ササン姉ぇ怖えからな。
「ほんで、なんだっけ。」
「はあー、こん子は、ケーシャだけぇ。」
ほんだ。珪砂だっけ。
「珪砂なら、レンゾの親方が使うっつうて、オイラに持っていかせたけぇ。親方に聞くんが良いっつこん。」
確か、オイラ山ほど運んだんも。親方、ほんに人使いが荒いもんでぇ。