―アルム近郊、精錬場、コッコ―
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何やら騒がしいな、と農夫どもは顔を向けるも、ズブとササンの姿を認め各々仕事に戻り行く。赤い顔をしたテモイも、もう大分受け入れられて、もしくは当たり前の光景として。ひょうと冷たい風の吹く。どこかで、どさ、と雪の木から落ちる音がする。
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「んじゃまあ、行ってきますけぇ。」
あーしは、ササン様、いやササン姉ぇに言われて走り出す。
えっと、何をすればええんだっけか。確か、ズブ様が、えーとササン様が、ササン姉ぇなら、ズブ様はズブ兄ぃなんかな。でも、ズブ様とササン姉ぇは違うお人だかんなぁ。わかんねぇなぁ。あーしみたいな田舎モンには公都生まれの方々は皆、様、ってつけとかんといけねぇような気がするんだけんど。
んでも、あーしの旦那様になるんテガさんはお二人と兄弟分だけぇ、あーしもそこに入れてもらえるんか。
いやぁ、そんでもあーしが公都から来た都会のおん人と一緒になるなんて、まるで夢のようだぁなぁ。しかも、テガさんは都会のお人だけんども、あーしらみたいなのに合わせてくれる優しいお人だけぇ。村で売れ残ってたあーしを娶ってくれるだなんてぇ。あいや、あーしも幸せもんだけぇ。トルマの奴も羨ましがってたけぇ。
いけねぇ、いけねぇ。ほうじゃね。ぐずぐずしとったら、ササン様、えーとササン姉ぇが、またカッカするけぇ。
ケーシャじゃな。ケーシャが、テモイ様が足らんと。ほんで、アルオ様が持ってたと。ケーシャがなんだか、あーしにはわからんけんども、アルオ様んとこだったら、お父っつぁんがおったなぁ。
よし、お父ちゃんに聞こう。
「お父ちゃん。ササンの姉ぇが…」
「てぇ!おまん、ササン様に姉ぇだなんて。おまん…」
お父ちゃんがびっくらこいたってぇ顔であーしを宥めようとする。ほうじゃねぇて。
「お父ちゃん、落ち着いてぇ。ササン姉ぇが、姉ぇとお呼びと。そう言うたけぇ。そんに、あーしもテガさんと一緒になる身だけぇ。テガさんと、ササン姉ぇが姉弟分なら、あーしも姉ぇと呼ばなきゃあ。」
あーしはお父ちゃんに説く。
「ほぉかぁ。いや、あしも、いやぁ、ほうかぁ、ほんなら…」
「お父ちゃん、ほうじゃないけぇ!」
なんじゃら、言い始めたお父ちゃんにあーしは気ぃを付ける。
「ケーシャが足りんてぇ、テモイ様がぁ、アルオ様でねぇかって、ほんでズブ様、ズブの兄ぃが、ササン姉ぇが、あーしに聞いてこいて。」
お父ちゃん、しっかりしてくりょうし。
「あー、ん。コッコ、からかって何ぃ言ってんだかわかんねぇ。珪砂が、あんだって?」
あぁ、あーしも気ぃ付けんと。
あーしも、テガさんの嫁になるんだきに、しっかりしんとぉ。