―アルム近郊、精錬場、ズブ―
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天晴れやか。煙突型の炉は今は三つある。そのうち、火が入っているのは奥の二つ。手前のものは赤い炎が色濃くゆらゆら揺れて、奥のものには青い炎が立ち上がっている。農夫の幾人かが踏み鞴を吹き。幾人かが炭や鉱石を畚で運ぶ。その後ろで廃材で作った雑な椅子に腰かけるズブ。
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最近、人が多くなったってんで、どうにもせわしないな。あっちから、こっちへ人が行ったり来たり。
農閑期の農夫の人らの世話はテガがやってくれているが、どうにもこうにも、あれこれ言ってくる職人野郎どもの世話は俺に回って来ることが多い。俺は最近は炉をやるのが主だが、精錬場全体の設営関連にも口を出しているからな。後はモノの管理をやっているササンが俺の近くにいるからってのも多い。
「だからよぉ、ズブ、珪砂が足りねぇんだよ。」
そう言ってくるのは、テモイだ。硝子作れるってんで、ミネ姉ぇに連れて来られた奴だ。
「そんで、親方に言ったらササンだってんで、でもササンの姉御と話せるのは、ズブだってんで。」
レンゾ兄ぃ、こっちに仕事振りやがったな。あん人自分の気の向かねぇ仕事は適当にこっちに回しやがるからな。事実上、ここの親方はあんただろ。差配しやがれってんだ。いや、これも、まあ、差配なのかぁ。知ぃらね。
「で、あんだって、何が足りないって?」
俺は座ったまま聞く。
「珪砂だ。アルオの奴が持っていきやがった。あいつのは、土なら何でもいいんだろ。それなのに、勝手にこっちで持ってた、泣け無しの珪砂持っていきやがった。」
珪砂は硝子を作るのに必要なのは事実だ。
俺は最近知ったが。
「ズブ!あれはいっとういい奴だった。それを、アルオの奴が…」
なるほど、俺にはどの珪砂もその辺の砂にしか見えなかったが、まあモノ作ろうってんだ。素人には見た目が一緒でも、良いやつ悪いやつあるんだろうな。
てか大事なら自分で管理しろよ。てか、俺には違いがわからねぇよ。あと、だから齢下の俺に兄ぃとか言うな。老けるだろ。
「わかった。仕方ねぇ、ササンに聞いてくる。」
俺はササンに投げることにした。最近、アイシャ姉ぇほどではねぇけど、何故か俺の言うことも聞いてくれるようになったしな。これはもう投げておこう。それが俺の仕事を捗らせる。
ああ、これも一緒に仕事しているからだろうか。そういう信頼感ってのは大切だよな。ササンはテガに対しては前まで通りだが、まあ、あいつ大分ここを離れてたからな。まあ、なんちゅうか、人見知り状態に戻っちまったって言うか。
ササンは、人見知りするからなぁ。