―アルム、領館近く、レンゾとアイシャの長屋の一室、アイシャ―
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相変わらず、外は吹雪。吹き続けた風は徐々に閑暇を挟むようになってきたが、それでも吹けば激しい。空は分厚い雲に覆われ、既に夕であるのだが色の変わるなど弁別出来るの由も無し。
隙間風がはたはたと囲炉裏の火を揺らす。狭い部屋となれば、囲炉裏の火で明かりは十全とすべきもの。しかし、この部屋は贅沢にも幾らかの灯火、それに蝋燭までも焚かれている。とは言え、実に薄暗い。橙のゆらゆらは明るく暗い。
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吹雪も3日目だね。タッソは長くても4日だろうって言ってたけどね。長くても、ったってね。それでも慣れてないあたしらには長いね。
こうも吹雪くとね。外を歩こうもんなら、イチコロだっって言うことらしいね。確かに、自分のつま先だって碌に見えるかわからないような状況だからね。
だから、この3日間家に缶詰めってな案配さぁね。そうなると、あたしもレンゾも商売上がったりなんだが、一応は縄を綯うだとか、籠目を編むとか、そういう仕事をしてるよ。お互い、持って来ておいた帳面と睨めっこするとか、そんなんもあるけどね。
ただね。どうにも、あん人はあまり性に合わなかったみたいだね。だからね。ホント仕様が無いけど、結局ね、男女二人で一つ屋根の下ってか、まあ、その何だね。結局、そんなことばっかして3日も経ってしまったよ。まあ、夫婦だからね。いいんだろうけどね。段々、お互いそれも少し飽きて来たってなぁ案配さね。
「なあ、アイシャよう。これはいつ止むんかね。」
レンゾは窓をほんの小指ほどだけ開けて、外を確かめながら言う。あんま開けると寒いから大概にしておくれ。あたしゃ未だ服も着ていないんだよ。
「知らないよぉ。あたしはね。あんただってね、あたしが知らないってぇこと、知ってるだろうにさ。」
寒いから、あたしは服を着ながら言う。下はどうしようかね。少し垂れそうだね。後にしておこうかね。
「まあ、知ってらぁな。しかしなぁ。気がよぉ、これじゃあ参っちまうってぇもんだ。なぁ、えぇ?」
レンゾはこちらも振り返らず外を睨めつけながら言う。
「あたしだってぇ、そうさね。」
「おう、いやぁ、そうだな。ったくよぉ。」
…全くね。
「そろそろ晩の支度でもしようかね。あんた、少し水を取って来ておくれ。あたしゃ、鍋を支度しておくからね。」
「おおう、もう晩か。こう暗くっちゃあなあ。昼だか夜だかわからんってぇもんだ。」
ようやっとレンゾの奴は窓を閉めたね。
「そんための、この蝋燭ってなもんさぁね。どうやら、これは夜明けに灯せば、次の夜明けに燃え尽きるように、出来てるってなもんだね。あたしが、毎朝たんと新しいのに火ぃ着けてたからね。この蝋燭が晩って言ったら、晩なんだよ。」
公都で使っていたような水時計はここじゃあ、使えないねぇ。だって凍っちまうんだもの。公都には水銀使った時計もあったけどね。あんなんは高くて、一家に一個とは行かないね。それに比べると蝋燭だったらね。無くなっちまうけども、高くつくってぇことは無いさね。安いもんでもないけどさ。上手く考えたもんだね。
「何だ。その蝋燭にはそういう仕掛けがあったのか。そういうのは早く言ってくれや。」
「あんたに迂闊に言ったら、やたら焚くだろうからね。なるべく言わないようにしてんだよ。察しな。」
「いや、そんなことはねぇよ。」
そんなことを言いながらレンゾの奴は箱に入った蝋燭を眺めたり並べたりしている。
ほら、言わんこっちゃない。直に、切ったりし始めないだろうね。ほんにね。
「止めとくれ。ほら、火を灯そうとするんじゃないよ。安いもんじゃぁないんだからね。」
レンゾから蝋燭を引っ掴んで箱に戻す。
「ほら、ちゃっちゃと水を持って来な。夕飯の支度をするよ。」
「へいへい。」
不承不承と言った感じで出て行こうとするレンゾ。あたしは干した肉を取ろうとして気付いた。
「あんた!外に出るなら、下履いとくれ!」